- ワインの産地編
コスタ(海岸エリア)のプレミアムなチリワイン!
2021年01月
「安くて美味しい」。日本人の多くの方が抱くチリワインのイメージはコストパフォーマンスの良さに集中すると思います。しかし、現在のチリワインはそこから確実に進化しています。単に安くて美味しいワインだけでなく、同価格帯であれば世界のどの産地のワインにも負けないプレミアムクラスのワインや、世界トップレベルの品質を持つ素晴らしいアイコンワインも多く生産されていますので、ちょっと高めのチリワインもお試し頂ければと思います。
マイポ・ヴァレーやコルチャグア・ヴァレーなどの伝統産地から生まれる、濃密で力強い果実味を持ったカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールのワインも素晴らしいのですが、今回は進化するチリの象徴ともいえるコスタ(海岸沿い)の冷涼産地のワインたちを取り上げます(トップの写真は海からの霧と雲に覆われる午前中のサン・アントニオ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランの畑)。
【チリの海岸エリアの気候特徴と代表的な産地】
チリの海岸沿いには、南極から流れて来る寒流のフンボルト海流が流れています。実際行って触ってみるとかなり海の水は冷たく、真夏でも人は居るものの誰も泳いでいません。下の写真のように、冷たい海にしかいないオットセイやアシカなどが群れをなしています。近年チリ産のサーモンが日本のスーパーでも良く見られますが、サーモンの養殖が可能という事からも、チリの海の冷たさがわかりますね。
この寒流の影響を受けて、チリの海岸沿いの産地には”カマンチャカ”と呼ばれる冷たい海風が吹き込み、空気を冷やします。また、海からの霧が特に午前中の畑を覆うため、日照時間も少なめでそれもまた積算気温の低さにつながります。下右は、チリのワイン生産量の大部分を占める内陸部のセントラル・ヴァレーの写真で、トップの写真と別の日ではありますが、ほぼ同じ時間帯に撮影したものです。午前中からカラっと快晴のセントラル・ヴァレーのぶどうと、冷涼な風が吹きつける海岸エリアのぶどうでは、全く異なったスタイルのワインが出来上がるのがご理解頂けるかと思います(海沿いの畑でも、午後は霧が晴れて内陸部と同様の晴天になるので、冷涼ですがぶどうはちゃんと熟します)。以下に、海岸エリアのチリの代表的な産地と簡単な特徴を挙げます。
【DOカサブランカ・ヴァレー】
チリの冷涼産地として、最初に開発されたエリア。シャルドネで名高いが、良質のピノ・ノワールも産する。
【DOサン・アントニオ・ヴァレー】
カサブランカよりもさらに海寄りで、冷たい海の影響を強く受けるエリア。キレのあるソーヴィニヨン・ブランとピュアなピノ・ノワールが特産。
【DOレイダ・ヴァレー】
サン・アントニオ・ヴァレーのサブ・リージョン。ピノ・ノワールで評価を上げたが、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランも良質な、海沿いのチリの産地を代表するエリア。
【DOロ・アバルカ】
サン・アントニオ・ヴァレーのサブ・リージョンで2018年に認可された新しい小さな産地。海岸から僅か数㎞に位置する、海風が直接吹き付ける特に冷涼なエリア。チリ最高峰のピノ・ノワールが生まれる。
【DOリマリ・ヴァレー】
2000年代に入ってから開発された新しい産地。石灰質の土壌を持ち、シャルドネやピノ・ノワールの産地として大きな注目を集めている。
ここに載っていない産地でも、DO~・コスタ(Costa)とラベルに表記されているものは、その産地の中で海側の涼しい産地で収穫されたぶどうで生産されているので、同じような特長を持ちます。
【主要なぶどう品種】
冷たい海の影響が強い冷涼な気候ですので、元々涼しい気候を好むぶどう品種たちが植えられています。代表的なものはピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランですが、シラーも増加中(近年、世界的に冷涼気候で育てられたこの品種に注目が集まっていますね)。
【ピノ・ノワール】
ラズベリーなどを連想させる赤い果実の風味とフレッシュな酸味に加えて、濃いめの色調と強いアロマを持ったメリハリの効いた味わいが特長です。
【シャルドネ】
内陸部の産地で生産されるリッチで果実味溢れるスタイルとは一線を画した、エレガントな果実味とハリのある酸味の、タイトなスタイルが特長です。
【ソーヴィニヨン・ブラン】
グレープフルーツを思わせる鮮やかな柑橘系の香りと、キレのある酸味の爽やかな味わいが特長です。
【シラー】
まだ量は少ないものの、北ローヌのシラーのような黒こしょうを連想させる香りが特長の、クールクライメットシラーです。
【海岸エリアのチリワインの味わい特長】
吹き付ける海風と、霧の影響による冷涼気候はこのエリアのワインにキレのあるフレッシュで心地よい酸味を与えます。海の影響を受けた土壌(石灰質など)も多く、そう言った産地のワインには塩っぽい風味や強いミネラル感、引き締まったテクスチュアなどの共通点も感じられます。
熟した果実感やアルコール感から来る甘い感じよりも、酸味やミネラル感からくるイキイキとしたフレッシュさや、タイトさ、繊細な果実味などのエレガントな味わいがこのエリアのワインの魅力と言えるでしょう。
この様な味わいの特質は、軽やかで繊細な味わいを評価する近年の世界的な流れにも沿ったもので、チリワインの中でのこのエリアの注目度を増す事につながっています。
【おすすめ料理】
チリは海産物に恵まれた国ですので、特に海沿い産地のシャルドネやソーヴィニヨン・ブランからの白ワインは、現地でも地元の魚や貝類(アワビが名物)と良く合わせられています。キレのある酸味が魚介類ととても相性が良いので、是非一度お試し下さい。
この産地の赤ワインはピノ・ノワールを代表に香り高く繊細な味わいが特長です。赤身の魚と合わせる事もありますが、個人的には鶏肉との相性が良い気がします。
【代表的な1本】
サンタ カロリーナ ソーヴィニヨン・ブラン レセルヴァ
サンタ カロリーナは1875年創業の名門。2015年にはアメリカの著名ワイン雑誌であるワイン エンスージアスト誌主催の「ワイン スター アワード」においてニューワールド部門のワイナリー・オブ・ザ・イヤーに輝いた、チリを代表するワイナリ―の一つです。お手軽価格のサンタも生産していますが、このソーヴィニヨン・ブランは上でも紹介した冷涼なレイダ・ヴァレーの自社畑のぶどうからつくられるプレミアムレンジ。冷涼産地のワインらしい、鮮やかな香りと、キレのある酸味が印象的な1本です。