- ワインの産地編
ボルドーの辛口白ワイン(ボルドー ブラン)
2023年04月
(写真)4月上旬、芽吹きを待つボルドーの畑
ボルドーと言えば赤ワインを連想する方が多いと思います。実際にボルドーのワイン生産量の90%が赤ワインですし、例えばボルドーと言う色は赤ワイン色ですし、ボルドー風という料理は赤ワインのソースをかけたものです。しかし、量こそ多くはないものの、近年生産量の増加しているスパークリングワインのクレマン・ド・ボルドーや、ロゼワインのボルドー・ロゼやボルドー・クレレ、爽やかな辛口白ワインのアントル・ドゥー・メールやボルドー・ブラン、重厚でコクのある辛口白ワインのペサック・レオニャン、そして極甘口の貴腐ワインのソーテルヌやバルサックまであらゆるタイプのワインを生産している懐の深い産地がボルドーです。今回はその中でも、伝統もあり独特の魅力を見せるボルドーの白ワインを取り上げたいと思います。忘れられがちなスタイルのワインですが、食卓ではあらゆる白ワインの中でもトップクラスの活躍を見せる、汎用性の高いワインだと思います。
【ボルドーの辛口白ワイン産地とワインのスタイル】
1.グラーヴとペサック・レオニャン
いわゆるボルドーの左岸と呼ばれるエリアで生産される白ワインはこのタイプが多いです。伝統的にはセミヨンを主体に、香りやフレッシュな酸味を付与するためにソーヴィニヨン・ブランやミュスカデルをブレンド(近年は多くのワイナリーでソーヴィニヨン・ブランの比率が増えている)して樽発酵・樽熟成で醸造した重厚なスタイルの辛口白ワインです。グラーヴとペサック・レオニャンの関係性はと言うと、グラーヴの中で特にワインづくりに向いたエリアをペサック・レオニャンと呼んでいて、そこで出来るワインはグラーヴで出来るワインよりも一つ格の高いワインと見なされるという事になります。グラーヴ地区北端にあるペサック村から、少し南に位置するレオニャン村までの6つの村(グラーヴ全体の1/3くらい)がペサック・レオニャンを名乗れるエリアです。ボルドーの何カ所かの地区(代表的なのはメドック)には有名な公的格付けが存在しますが、グラーヴ地区にもそれがあります。そこで格付けされている生産者(シャトー)が全てペサック・レオニャンのエリアにあるという事でも、そこがワイン生産に向いた場所である事がわかるかと思います。このエリアではボルドーで最も高価な辛口白ワインたちが生産されています。
2.メドック
グラーヴとペサック・レオニャンと似たスタイルのワインを生産するエリアです。メドックにある特に有名なシャトーの幾つかは素晴らしい白ワインを生産しています。しかし、現在メドックとラベルに書いた白ワインは存在しません。あまりに赤ワインで有名な地区であり、白ワインの生産が少なかったため、これまでメドックで生産される白ワインは単にボルドーの白ワイン(ボルドー)とラベルに表記して売られてきました。しかしこのエリアの白ワイン生産は増加傾向。そして、昨年末にとうとう「メドックの白ワインが2024年~2025年くらいに認められそうだ」というニュースも飛び込んで来ました。このエリアの白ワインはますます面白くなりそうです。
3.アントル・ドゥ・メールとボルドー・ブラン
このタイプの生産エリアはボルドー地方を流れる二本の大河ガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれたアントル・ドゥ・メールと呼ばれるエリアが中心です。ボルドー・ブランはボルドー全域で生産される辛口白ワインが名乗れる名前ですが、アントル・ドゥ・メール地区で生産されるぶどうが多く使用されています。これは、例えば海外に輸出される時に、アントル・ドゥ・メールよりもボルドーの名前の方が良く知られている(=売れる)ため、ボルドーの白とラベルに記載すると言うような事が多いようです。伝統的にはセミヨンを主体としていましたが、近年の世界的なソーヴィニヨン・ブランの人気で、ソーヴィニヨンの比率の高い爽やかなスタイルのワインが増加中です。樽熟成したものもありますが、基本は港町ボルドーで取れる魚介と一緒に味わうためのスッキリ系の辛口主体。ソーヴィニヨン・ブラン単体のものも増えましたが、不思議とお料理と合わせる時は、セミヨンやミュスカデルといった他の品種とブレンドされたものの方が美味しく感じる事が多いのが面白いところです。
【ボルドー・ブランのぶどう品種】
(左)ソーヴィニヨン・ブラン(右)セミヨン
[ソーヴィニヨン・ブラン]
近年のボルドーの辛口白ワインで人気となっている品種です。フレッシュな柑橘類やハーブを連想させる爽やかな香りと、イキイキとしたキレのある酸味をワインに与えます。熟度が高いものはパッションフルーツや食用ほおずきなどのトロピカルフルーツ的な香りを放ちますが、穏やかな海洋性気候のボルドーでは、やや穏やかな風味に留まる事が多いです。
[セミヨン]
育てやすく、収量が安定しているため、元々はこのぶどうがボルドーの主役でした。特徴としては、香りにはクセが無く穏やか、酸味も中庸でどっしりとしたボディ感をワインに与えます。
[ミュスカデル]
ソーヴィニヨンとセミヨンの補助をする役割で、殆どの場合ブレンドされても数%程度です。ミュスカ(マスカット)やミュスカデ(ムロン)と似た名前ですが別品種。マスカットに似た特徴的な華やかな香りを持ち、ブレンドにおいて香りの幅を広げる効果があります。
一昔前のボルドーでは80%程度のセミヨンでベースをつくり、そこに20%程度のソーヴィニヨン・ブランをブレンドして爽やかな香りとイキイキとしたフレッシュさを与え、そこに少々のミュスカデルの華やかさで複雑さを加えるというのが一般的なブレンドでした。近年は世界的なソーヴィニヨン・ブラン人気でこの品種の比率が上がる傾向があり、中にはソーヴィニヨン・ブラン100%で爽やかさを前面に押し出した様なものもあります。
【ボルドーブランの製法】
(左)樽熟成の様子(右)右岸とアントル・ドゥ・メールを分けるガロンヌ川
ボルドーの辛口白ワインの製法は、アントル・ドゥ・メールやボルドー・ブランに代表されるフレッシュで軽やかなスタイル向けと、ペサック・レオニャンやメドックの格付けシャトーがつくるようなリッチでコクのあるスタイル向けの大きく2つに分かれます。一つ目のフレッシュさを押し出すスタイルの場合は、出来るだけ早くジュースを搾り、フレッシュな果実感が飛んでしまわない様に、低温に温度コントロールをしながらステンレスタンクで発酵を行います。そして、そのフレッシュが維持されている若い状態で出荷されます。
反対にリッチでコクのあるタイプの場合は、伝統的にスキンコンタクトと言う醸造テクニックが使用されています。これはアルコール発酵の前に一定期間ぶどうのジュースに果皮を漬け込む醸造方法です。ぶどうの果皮には香り成分が多く含まれるため、このテクニックによってより多彩で複雑な香りを持ったワインが出来ます。また果皮には渋味の元となるタンニンも含まれるため、わずかながらタンニンが抽出される事で、ワインによりボリュームが出るという効果もあります。発酵はワインの一部もしくは全部を樽で行い、熟成も樽の中で行う事が多くなります。バトナージュと言う樽の底に沈殿した澱を棒で掻きまわす作業も加わり、これによって、より複雑な風味やトーストを思わせる甘香ばしい香りがワインに与えられます。
フレッシュにしたいワインはよりフレッシュさを際立たせる醸造を、リッチにしたいワインは醸造でより色々な要素を与えて行く。味わいの違いはこんなところからも来ているんですね。
【ボルドー・ブランにおすすめの食べ物】
?新玉ねぎとイカのハーブリングフライ (パン粉衣にハーブを混ぜて)
ボルドーはワインの町であると同時に、世界にワインを送り出す拠点でもあり、さらにジロンド川の河口とビスケー湾という良質な漁場を持つ港町でもあります。実際、ボルドーの街中にはジロンド川で取れた魚介を調理して食べさせてくれるお店が沢山あります。焼き魚、茹でた海や小エビ類、イカの揚げ物、生牡蠣などに合わせて飲む、キリっと冷えたボルドーの辛口白ワインと言うのはなんとも言えず美味しいものです。このタイプの料理に良く合うのはアントル・ドゥ・メールや比較的お手頃なボルドー・ブランなどの爽やかなタイプ。
ペサック・レオニャンやメドックの格付けシャトーがつくるようなコクのあるタイプには、ローストした大型の甲殻類や、バターを使った魚介類のムニエルやクリームソースの料理などコクのあるお料理がピッタリです。
今回ご紹介しているタイのエビ料理などにもピッタリ合うのがボルドー・ブランの良いところ。和食との相性も中々ですし、お料理と合わせた時に嫌な要素が出て来る事が非常に少なく、何とでもきちんと合わせてくれる汎用性の高い白ワインです。食中酒としての長いワイン飲用の歴史を持つヨーロッパでボルドー・ブランが飲み続けられてきた理由の一つが、色々な料理との幅広い相性の良さだと僕は思っています。そういう意味でとても懐の深いワインと言えるのではないでしょうか。
【代表的な1本】
サガR ボルドー ブラン 2021 ドメーヌ バロン ド ロートシルト
メドック格付け1級1位「シャトーラフィット・ロートシルト」を擁するドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社(DBR)が、そのノウハウを使ってつくった日常的に楽しんで頂けるワインです。サガは伝説、RはRothschildの頭文字。文字通りDBRの英知が注ぎ込まれた1本です。
ぶどうは厳選されたアントル・ドゥ・メール産。ソーヴィニヨン・ブラン85%、セミヨン15%のブレンドでつくられる、爽やかさと上品さの絶妙なバランス感が魅力です。