- ワインの産地編
ヌーヴォーの季節ですが、クリュ ボジョレーの事も知って欲しい
2021年11月
(写真)ボジョレー地方の収穫風景
11月の第3木曜日と言えば、フランスの新酒(ヌーヴォー)の解禁日です。新酒の解禁には、その年に取れたぶどうから出来たばかりのワインを皆でわかち合う、収穫祭の意味もありますね。そして、その年のワインの出来をチェックしたり、天候がワインに与えた影響が見れる最初の機会であったりもします。適切な保管の技術が無かった一昔前なら、フレッシュな果実味を持ったワインが飲める久しぶりの機会であったかも知れません。ヌーヴォーには、そんなウキウキする気分が含まれている気がします。
そんなフランスの新酒の中でも、生産量最大で最も有名なのがボジョレー ヌーヴォー。なんと、ボジョレー地方全体でつくられるワインのうち、実に3割がヌーヴォーとして消費されるのです。しかし、今回はあえてヌーヴォーでは無く、残り7割の普通のボジョレーを取り上げたいと思います。なぜなら、ボジョレーはボジョレーにしか無い確かな魅力を持つワインでありながら、(特に日本市場では)ヌーヴォーに注目が集まってしまう事で、その良さが知られる事が少ない様に思うからです。もちろん一部には「ガメラー」と呼ばれる、ボジョレーを中心にガメ種のぶどうから出来るワインを心から愛する方々も居らっしゃいますが、一部の方に独占させておくのは勿体ない良さがボジョレーにはあります。特にボジョレー地方の最高峰のワインをうむ10の村から生まれるクリュ ボジョレーのワインたちは、それぞれに明確に異なる個性を放ちつつ、共通のしっかりとした力を持っています。
近年、ブルゴーニュ地方のピノ・ノワール種からつくられる赤ワインの価格高騰が顕著な事もあって、同じ味わいの方向性を持ったクリュ ボジョレーに世界から注目が集まっています。実際にブルゴーニュの中心地であるコート・ドールの生産者もどんどんボジョレーに進出しているんですよ。世界の注目を集めて、クリュ ボジョレーの価格も徐々にではありますが、上昇傾向になっています。とは言え、ヌーヴォーとあまり変わらない価格で買えるクリュ ボジョレーもまだまだあります。お値打ちな間に、ヌーヴォーではないボジョレーの良さを体感してみませんか。
【ボジョレーの地勢】
ボジョレーは大きく北部と南部に分かれます。地勢上の特徴は、北部は土壌は花崗岩が主体で、地形は東向きの丘の斜面とその基部の平地であり、南部は土壌は粘土石灰質が主体で、地形は比較的平坦である事。ボジョレーの主力品種であるガメ(後述)は花崗岩の土壌を好む事、日照や水捌けなどのぶどうの生育条件が平地よりも斜面の方が有利な事から、北部の方が充実したワインを産む傾向が強いとされています。
上の地図でも示されている通りボジョレー地方はワイン法で3段階の階層に分かれていますが、上記の理由から、
①最もベースになるACボジョレーの産地は南部と北部の東端の平地部分。チャーミングな果実で早飲みタイプのフルーティなワインの産地。
②北部の中でも条件の良い斜面(とは言えクリュの畑と比較すると標高高めで涼しいか、標高下方で斜度が緩めにある38村が名乗れるのがACボジョレー・ヴィラージュもしくはACボジョレー+村名。より果実の充実度があり、骨格のしっかりとしたワインの産地。
③そしてその中でも斜面中腹部の最も条件の良い場所にある10の村が名乗れるのが、それぞれの村名ACであるクリュ ボジョレーという事になっています。クリュごとの特徴は後述の「クリュごとの味わい特長」をチェック下さい。
やはり畑の場所は出来るワインの品質に大きな影響を及ぼすという事ですね。ちなみにクリュ ボジョレーではワイン法上ヌーヴォーの生産は認められていないので、フルーリー・ヌーヴォーとかモルゴン・ヌーヴォーとかは存在せず、クリュの畑のぶどうでヌーヴォーを生産した場合は、一つランクを下げてACボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォーとして販売する事になります。
クリュ ボジョレーは花崗岩がベースと言いながら、それぞれに特徴のある土壌を持つ(中にはジュリエナの様に殆ど花崗岩の無いクリュも)ので、説明を付けておきます。
①サンタムール…狭いワリに多様な土壌で、花崗岩、片岩、粘土質(珍しい)、砂岩、沖積土などバラバラ。
②ジュリエナ…花崗岩がほぼ無いクリュ。ほぼ火山性土壌で片岩質と泥灰質を含む。
③シェナ…斜面は花崗岩、平地は沖積土。
④ムーラン・ナ・ヴァン…斜面はマンガンを含んだ赤みがかる花崗岩。平地は重めの沖積土。上質なワインはほぼ斜面から生まれる。
⑤フルーリー…殆どがピンク花崗岩。
⑥シルーブル…一部風化して砂質化した浅い花崗岩土壌。
⑦モルゴン…斜面上部は花崗岩質。ピィ山の周辺は火山性の青色片岩(ピエール・ブルー)。村の東には一部重い沖積土壌アリ。
⑧レニエ…ほぼ花崗岩質。標高が高い
⑨ブルーイィ…広いので花崗岩質、石灰岩質、片岩質など色々な土壌が存在するが、斜面の上質な畑は花崗岩質が多い
⑩コート・ド・ブルーイィ…山の南と東は火山性の青色片岩(ピエールブルー)。西は花崗岩
【ボジョレーのぶどう品種】
ガメ[Gamay]
…ごく一部シャルドネやピノ・ノワールも植わっていますが、ボジョレー地方のぶどうの殆どはガメです。ガメはピノ・ノワールとグエ・ブランが自然交配して生まれたぶどうで、同じ両親の兄弟にシャルドネ、アリゴテ、ムロン(ミュスカデ)などがいます。ガメの特徴は、粒は比較的大きめ、皮は薄めで、果汁多くジューシーである事。このようなぶどうから出来上がるのは、果実味タップリで、それに対して色は淡めで、渋さは少な目の飲み口の良い赤ワインです(少しだけロゼもあります)。特にベースのACボジョレーは赤ワインの渋さに慣れない方でも美味しく飲める、入門編にピッタリの赤ワインでもありますし、飲みなれた方であっても休日のランチや、気温が高くて濃い赤ワインに手が伸びない時などに飲んでもらうと、改めてその良さに気付くところがあります。ヴィラージュは軽めの夕飯にピッタリ。そしてクリュになると、果実のボリューム感の大きさだけでなく、しっかりとした骨格も出て来ますので、ピノ・ノワールに近い感じで考えて頂けると良いと思います(ブルゴーニュが村ごとにかなり味が違う様に、クリュごとにかなりタイプは異なります)。
【クリュごとの味わい特長】
写真左) ムーラン・ナ・ヴァンのAC名の由来である風車 右)フルーリーの象徴であるチャペル
クリュ ボジョレー10村の村毎の味わいの違いを、筆者の飲んできた経験と、故ジョルジュ デュブッフ氏の言葉の記憶からまとめてみました。一部主観は入っていますが、参考になればと思います。北から順番です。
①サンタムール[Saint-Amour]
…熟度の高い甘さの出る果実味が魅力。あまり深く考えずに果実味を楽しむためのワイン。
②ジュリエナ[Juliénas]
…独特の硬質なミネラルを感じるテクスチュアと、スパイシーな風味が特徴。知られていないが、かなり長期熟成のポテンシャルのあるクリュ。
③シェナ[Chénas]
…しっかりとしたコクの出るクリュ。ムーラン・ナ・ヴァンに似た風味だが、より柔らかさがあり、早くから楽しめる。
④ムーラン・ナ・ヴァン[Moulin-á-Vent]
…ボジョレーの王。最も力強く、芳醇な果実味がたのしめる。良質なものはバラの香りが華やかに香り立つ。若い段階だと硬い事があるので、デュブッフは唯一このクリュだけは樽熟成を必ず行う。熟成後のしなやかさや滑らかさは別格。ムーラン・ナ・ヴァンは村名ではなく、この地区の象徴である風車(=ムーラン・ナ・ヴァン)から。殆どの畑は行政区画上はシェナ村にある。
⑤フルーリー[Fleurie]
…ボジョレーの女王。最も華やかで香り高く、しなやかでバランスの良い味わいを産む。繊細で若くから美味しいが、熟成能力も持つ。デュブッフ氏が最も好きだったクリュ
⑥シルーブル[Chirouble]
…標高高く、チャーミングなベり―系の果実感とフレッシュな酸味の軽いタイプ。華やかな摘み立てのスミレやブルーベリーの香りが出るのが特徴。赤果実のレニエに対して紫のイメージが出やすい。
⑦モルゴン[Morgon]
…力強さとコク。黒い果実感が前面に出て来るのが特徴。ゆったりとした横に広がる果実味で、酸はまろやか。少しほろ苦さを伴った、穏やかでドッシリと構える深みのある味わい。長期熟成能力有り。
⑧レニエ[Régnié]
…最も遅くにクリュに昇格した村。果実味主体の実にボジョレーらしいクリュ。いちごやラズベリーなどのキュートでフレッシュな赤い果実味主体。
⑨ブルーイィ[Brouilly]
…程よいボリューム感がありつつも、果実味が主体の飲み易い味わい。ラズベリーやブラックベリーなど、赤黒混ざったチャーミングなベリー感が特徴。
⑩コート・ド・ブルーイィ[Côte de Brouilly]
…ブルーイィと比較すると明らかにタイトで一本芯の通った味わい。フレッシュさが長く保たれ、酸もしっかり。味わい自体は硬めだが時間と共に深みが出てくる。
【クリュ ボジョレーにおすすめの料理】
ジョルジュ デュブッフ社を訪問すると、ランチ(ともちろんワインも)を出して頂くのですが。その際の定番が地鶏です。このエリアは銘柄鶏として名高いブレス地方の近くでもあります。今回は赤ワイン煮込みをご紹介していますが、もちろんローストチキンもとても良く合います。というか、ローストチキンに最も合う赤ワインはボジョレー(ヴィラージュ、クリュ含む)なんじゃないかと個人的には思っています。ランチのもう一つの定番がシャルキュトリー(ソーセージやハムなどの豚肉の加工品)。ボジョレーにほど近い大都会リヨンの名物はブションと呼ばれる大衆食堂(ビストロ)と、そこで出されるボリューム満点のハム、ベーコン、ソーセージ、パテなどの豚肉加工品です。当然デュブッフ社でもシャルキュトリーも出るわけですが、これまた良く合います。こういう鉄板の相性を誇る料理(食材)があるワインはいいですね!白カビチーズもいい感じです。
【代表的な1本】
ジョルジュ デュブッフ フルーリー
「ボジョレーの帝王」と呼ばれた故ジョルジュ デュブッフ氏が、10のクリュ ボジョレーの中で最も愛したのがこのクリュです。フルーリー(フランス語で”花咲く”の意味)の名前の通り、バラやスミレ、アイリスなどの色取り取りの上品な花を連想させる甘い香りと、赤いベリーとさくらんぼを中心としたエレガントな果実味、キメの細かいテクスチュアが魅力。味わい全体のバランスが良く、整った球体をイメージさせるしなやかなワインです。