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ピノ・ノワールとその仲間たち

2024年02月

(写真)秋のブルゴーニュ、コート・ドールのピノ・ノワールの畑
今回からぶどう品種に注目して6回シリーズでお送りしたいと思います。初回は、著名なワイン用ぶどう品種の中でも特に古い品種とされるピノ・ノワールに注目。ピノ・ノワールがどのようなワインを生むのかについては、既にご存知の方が多いでしょう(簡単な説明についてはこちらでもしています)。そこで今回の特集では、ピノ・ノワールとその血を引くぶどうたちという事で、実はワイン界の一大勢力である、ピノ・ノワール一門の広がりにスポットを当てて見て行きたいと思います。ちなみにピノ・ノワールの出身地はフランス北東部のどこかとされています。ブルゴーニュという説が有力ですが、特定はされておらずどこかそのあたりと言う感じですね。

目次
  1. 【ピノ・ノワールの家系図(1)】
  2. 【ピノ・ノワールの家系図(2)】
  3. 【ピノ・ノワールの家系図(3)】
  4. 【ピノ・ノワールの家系図(4)】
  5. 【ピノ一族の名前の由来と別名】

【ピノ・ノワールの家系図(1)】

~グエ・ブランとの自然交配によってうまれたグループ~
ピノ・ノワールの家系図の中で、最も多くの品種を生んだ中心となる派閥がこのグループです。グエ・ブランという品種はあまり聞き馴染みが無いと思いますが、とても古い品種で、中世にはヨーロッパの広い範囲で栽培されていたとされています。原産地はフランスとドイツの間のどこかで、その点ではピノ・ノワールもこのあたり出身の品種とされていますので、自然交配は自然な成り行きだったのだと思われます。グエ・ブランは病気に強く、多産性で、頑丈が取り柄だけど、高品質なワインにはあまりならないという品種だったようです。高品質のワインを求めたフランスでは数度に亘って栽培禁止令が出されたようです。現在では種の保存用にごくわずかに栽培されているだけです。しかし、ピノ・ノワールとのカップルの相性は抜群だったようで、いわゆるブルゴーニュ品種として現在知られているぶどう品種の殆どがこのカップルの子供です。
なんと言ってもこのペアの子孫の代表選手はシャルドネですが、それ以外にもガメ、アリゴテ、ミュスカデ(ムロン・ド・ブルゴーニュ)と言った少しワインを学ぶとすぐに出会うワインたちもこの家系になります。オーセロワやロモランタン、サシーと言ったワインライフに彩を与えてくれる名脇役まで含まれ、このペアが広げてくれた世界に深く感謝したくなります。アリゴテ、ミュスカデ、そして寒い年の酸っぱいシャブリの3つのワインはブラインドで飲むと区別がつかない事も良くありますが、この品種が兄弟だと思うとそれも納得ですよね。似ていて当然です。それなりに長い時間を樽で熟成した上質なガメを飲むと、上質なピノ・ノワールとの共通点を強く感じるのも同様の理由だと思われます。

【ピノ・ノワールの家系図(2)】

(写真)ロワール川流域ナント地方のミュスカデの畑

~突然変異によって果皮の色が変わり生まれたグループ~
ピノ・ノワールは突然変異しやすいぶどうで、同じピノ・ノワールという名前でも粒が小さなものから大きなもの、房が小さなものから大きなもの、熟しやすいものから酸がしっかり残るものなど、異なる特徴を持つものが沢山あります。とは言えこれらは同じ「ピノ・ノワール」の別クローンとして扱われます。しかし、突然変異が大きく、その特性が固定された場合、それは別品種として認知されます。ピノの場合は果皮の色が変化したものがそれにあたります。ぶどうは色素に絡む遺伝子のスイッチを2つ持っており、それらが2つとも押されると黒ぶどう、1つだけだとピンクの果皮のグリぶどう、2つとも押されないと白ぶどうになるらしいのですが、ピノはこの3つのタイプ全てが存在しています。黒ぶどうがピノ・ノワール(フランス語で黒)、ピンク色がピノ・グリ(フランス語で灰色)、そして白ぶどうがピノ・ブラン(フランス語で白)です。ピノ・ノワールの突然変異のしやすさは実際に収穫していても、同じ木に(時によっては同じ房の中で)別の色のぶどうが生っているのは良くある事です。(トップの写真:ピノ・グリの木に生っていた突然変異で一部ピノ・ブランになった房)ピノ・ブランはシャルドネやアリゴテ、ミュスカデなどピノの子供と似た風味を持ちますが、比較すると最も繊細で香り高いタイプになるのが、頑健なグエ・ブランの血を引いていない感じで面白いです。これらは全てピノ・ノワールの突然変異のため、グリもブランもDNAはピノ・ノワールと同じという事になります。もう一つ有名な品種としては、ピノ・ムニエが、ピノ・ノワール突然変異で早熟になった別品種と言われていますが、これについては反論もあるため、ここでは保留として図には載せませんでした。

【ピノ・ノワールの家系図(3)】

(写真)秋のコート・ドールのピノ・ノワールの畑

~サヴァニャンからつながるグループ~
サヴァニャンも古い品種で、ピノと同じくフランス東部からドイツ南西部にかけて栽培されて来ました。DNA鑑定でこの品種もピノと親子関係にある事がわかっています(図ではピノを親にしていますが、片親はわかっておらず、ピノとサヴァニャンのどちらが親であるかも確定していません)。古い品種だけに色々な品種の誕生に関わっており、ソーヴィニヨン・ブランとシュナン・ブランと言うロワール地方の要となる2つの白品種(国際品種でもあります)がサヴァニャンの子供である事が判明しています(他にもトゥルソー、グリューナー・ヴェルトリーナー、ジルヴァーナー、プティ・マンサンなどもサヴァニャンの子供)。次回のテーマにはなりますが、世界で最も広く栽培されている品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンはソーヴィニヨン・ブランの子供ですから、カベルネはピノの血縁の一つであるという事になります。また、サヴァニャンは別名トラミナーと呼ばれており、華やかな香りが特徴のゲヴュルツトラミネールはトラミナーが突然変異して果皮がピンクになり、強い香りを持つようになったものですので、これもこの血統に含まれる事になります。恐るべしピノの血ですね!

【ピノ・ノワールの家系図(4)】

~人為的な交配品種~
ピノ・ノワールは自然交配で多くの品種を産み出して来ましたが、それ故になのかピノ・ノワールを使って人為的に交配した成功品種というのは実はあまり見かけません。唯一成功していると思われるのが南アフリカのピノタージュです。1925年にアブラハム・ペロード博士によって、サンソーとピノ・ノワールの掛け合わせで生まれました。

【ピノ一族の名前の由来と別名】

ピノ=「松」説が有力。房の形がヨーロッパの細長い松ぼっくりの形と似ている。

ピノ・ノワール=黒のピノ。別名は多くの場合ピノ+その国の言葉で黒。ドイツではシュペートブルグンダー(遅く熟すブルゴーニュのぶどう)、一部ではモリヨンやクレヴナーなどとも。

ピノ・グリ=灰色のピノ。ピノ+その国の言葉で灰色。グラウ(灰色)ブルグンダー(ブルゴーニュのぶどう)、ブルゴーニュではピノ・ブーロ(バターの様にまろやかな=わかる、ピノ)、恐らく古くからあった品種らしく、少し甘口に仕立ててマルヴォワジーやルーレンダー、トカイ(今は禁止)と呼ばれたり、フロマントーやスルケバラートなどその地方ならではの呼び名も。

ピノ・ブラン=クレヴナー、ヴァイス(白)ブルグンダー

ピノ・ムニエ=ムニエは粉屋さん。葉の裏側の白いフワフワした繊維が粉を振ったように見えるという事でこの名前になりました。ドイツではこの品種はシュヴァルツリースリング(黒いリースリング)とも呼ばれます(リースリングとの血縁関係はありません)

ピノ・オーセロワ=オーセロワの別名。実際にはピノの子供。アルザスではピノ・ブランと同じ扱いをされていて(実際はピノ・ブランよりも穏やかな個性で酸が低めです)、2つの品種を混ぜても、この品種だけでもラベルに「ピノ・ブラン」と名乗る事が出来ます。

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