ワインって難しい・・・?
世の中で広く言われるワインの常識を、ワインのプロが実際に検証!
毎月1つのテーマに絞って連載していきます。

  • ワインの産地編

バックナンバーはこちら

カヴァの本気

2021年05月

カヴァ(CAVA)という名前は皆さんご存知ですよね。シャンパンと同じ伝統式製法(瓶内二次発酵)でつくられる、スペインのスパークリングワインの名称です。
カヴァと言って連想されるのは、「シャンパンと同じ製法でつくられているのに、全然安い」とか「安いけど飲み応えがある」とか、「スーパーで売ってる黒いボトルのやつ(フレシネ コルドン ネグロ)」など、コストパフォーマンスの高さや身近さについての事が多いと思います。これは別に日本に限った事ではなく、世界中でカヴァは「気軽に飲める伝統的な製法のスパークリングワイン」として認知され、それが強みとなって来ました。
しかし、今スパークリングワインの世界は大きく変化しつつあります。シャンパン以外にもフランチャコルタ(Franciacorta)やアルタ ランガ(Alta Langa)と言った、高品質に特化した伝統的製法のワインが増えて来ているだけでなく、イングランドやカリフォルニア、タスマニアなど伝統産地以外のスパークリングワインにも驚く様な品質のものが生まれて来ています。そして、以前こちらの連載でもご紹介したプロセッコの様に、フレッシュさやフルーティさを売りにして(⇔伝統的製法の特徴は重厚さや複雑さ)世界的に大人気になるワインが出て来たり、ペット・ナット(Pet-Nat)の様に気軽にスイスイと飲むタイプの微発泡性のワインが注目されたりと、価値観の多様化が一気に進んだ感じがあります。
そんな中で、カヴァはどうやって自らの存在価値を示していくのか。大きな産地だけに悩みが大きかったと思います。悩みの中で、優れた生産者がDOカヴァを脱退して、カヴァを名乗らずに自分のブランド名で売り出すというような事も起きました。そんな状況下で2016年に登場したのが、カヴァの最高峰となる新カテゴリー「カヴァ デ パラヘ カリフィカード(Cava de Paraje Calificado)」です。その後もカヴァの変化や改革は色々と進んでいるのですが、今回はカヴァの本気とも言えるこの新カテゴリーについて見て行きたいと思います。

目次
  1. カヴァの規定
  2. 【ぶどう品種】
  3. 【ワインのスタイル】
  4. 【代表的な1本のおすすめ料理】
  5. 【代表的な1本】

カヴァの規定

【カヴァ デ パラヘ カリフィカードとは?】

スペイン語でパラヘは区画、カリフィカードは認定されたという意味。つまり、「秀逸なワインを産みだす」と公式に認められた特別な畑からのぶどうのみでつくられる特別なカヴァを意味します。2020年の時点で、その特別なワインたちはわずか6ワイナリーの10銘柄のみ。いかに限定された希少なワインたちなのかがわかると思います。

もちろん、ぶどうの区画が限定されるだけではなくて、上に掲げたカヴァ規定表でもわかる通り、その他の色々な基準も通常のカヴァより遥かに厳しくなっています。上の条件以外にも、ぶどうの樹齢は最低10年以上である事、単一年のぶどうのみを使用したヴィンテージ・カヴァである事、ぶどう畑から市場まで完璧なトレーサビリティが保証される事など、厳しい条件が課されています。さらに格付けテイスティングもパスしないといけません。

もちろん求められるのは最高品質。法律で決められた最低熟成期間は36ヶ月ですが、例えば今回ご紹介しているフレシネ社のカン サラの場合だと、2008年ヴィンテージがやっと昨年(2020年)リリースと約12年の熟成期間を経ています。使用されているぶどうもフレシネ社の原点となる「ラ フレシネーダ」畑の樹齢75年にもなる古木のもの、トップの写真にも出ている1900年から使われている伝統的な木製プレスで搾汁、王冠ではなくコルクを打栓して瓶内二次発酵、手作業の滓抜き(デゴルジュマン)、ぶどうの良さを感じてもらうために味わいはドサージュ・ゼロのブリュット ナチュールなどなど、こだわり抜いた1本となっています。カン サラは200年に行われた専門誌「The Drinks Buisiness」が世界中のスパークリングワインをブラインドで試飲して選ぶ、2020年のベスト・スパークリングワインに選ばれています。

カヴァ委員会も、「このカテゴリーに求めるものは数量ではなく、カヴァが到達可能な品質の高みを示す事」と言う趣旨の発言をしていて、世界最高峰の品質を意識している事がわかります。

【ぶどう品種】

カヴァの主要品種は次の3つ(写真左からマカベオ、チャレロ、パレリャーダ)

○マカベオ

…カヴァで最も広く栽培されている品種。軽やかで華やかな味わいと、

 熟成のポテンシャルを与える。

○チャレロ(サレーロ、チャレッロ)

…2番目に広く栽培されている品種。カヴァの象徴品種とされ、

 構造とボディ感、カヴァならではの風味を与える。

 近年、特に上級レンジのカヴァでの使用比率が向上中。

○パレリャーダ

…3番目に広く栽培されている品種。エレガンスやフレッシュな果実感に加え、

 熟成のポテンシャルを与える。

 

他に近年認可品種に加わったシャルドネ、甘口用に使われるマルヴァジアが認められています。通常、カヴァは上記主要3品種をブレンドしてつくられますが、近年では(特に上級レンジのものに)チャレロ100%や2品種のみのブレンドなども増加しています。

【ワインのスタイル】

カヴァ デ パラヘ カリフィカードは、まだ登場したばかりのカテゴリーで、かつ生産量が極小という事もあって、正直なところ筆者もまだ数度しかテイスティングした事がありません。

しかし、「最高の畑&低収量の最高品質のぶどうを使用し、丁寧に絞り、長期熟成してコクや複雑さを増したワインを、さらに素材の良さをそのまま味わってもらえるように辛口のスタイル。」という法律の規定と、カヴァを代表する厳選された生産者のトップキュベであるという事実を考えると、「大きくかつ複雑な味わいで、全ての味わいの要素が強く、かつバランスが取れていて、余韻も長い。」という王道の味わいであるハズです。

カジュアルでコストパフォーマンスの高いスパークリングワインとしてのカヴァとは、明確に一線を画した体験が待っていると思います。決して安くはないワインですが、是非一度お試し頂ければと思います。

【代表的な1本のおすすめ料理】

img_962_4.jpg

▶白子ディルフライ 自家製スイートチリソース(写真:中本 浩平)

img_962_5.jpg

▶ズワイガニのボイル 蟹みそクリームソース(写真:中本 浩平)

 

上の2品は、実際にカン サラと試してみて素晴らしい相性だったものです。

元々質の高いぶどうを使用している上に、そこに熟成から来る香ばしい風味や深い旨味、複雑さが加わるカヴァ デ パラヘ カリフィカードの味わいを考えると、料理側にも素材の力や、それなりに手の込んだ複雑さが求められると思います。そういう意味ではズワイガニのように、繊細さと旨味の深さを併せ持った大型の甲殻類というのは素晴らしい選択肢に思えます。

また、長い熟成期間に起こる酵母の自己溶解から来るトーストを思わせる香ばしい旨味感には、例えばパイ生地やブリゼ生地を使った1品や、ここでも挙げている魚介類のフライのようなものも相性が良いかと思います。

何にせよ、特別な食卓に、気合の入った料理とともに登場させたい1本である事は間違いありません。

【代表的な1本】

img_962_6.jpg

フレシネ カン サラ

フレシネ社発祥の地、社名の由来ともなった「ラ フレシネーダ」畑の樹齢75年のパレリャーダとチャレロを50%ずつ使用し、12年近く熟成。カヴァ最大のつくり手※フレシネ社の威信をかけた、真の意味のフラッグシップワイン。長期熟成による複雑さとコク、カヴァとしては例外的なまでに力強い酸味が見事に溶け込んで一体となった味わい。キレはありつつも、長い長い余韻が続く、現時点でのカヴァの到達点の一つ。

※IWSR2019 スペインスパークリングワイン販売数量

上にもどる

ワインの産地編バックナンバー