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標高差の魅力(日本・長野県・高山村)

2022年12月

(写真)11月上旬、快晴の高山村・裏原周辺の畑
皆様・高山村をご存知でしょうか?長野の高品質なワイン用ぶどうを考える時に、塩尻や東御・上田エリアと並んで真っ先に登場する産地の一つが高山村ですので、日本ワインに詳しい方は当然ご存知かと思います。しかし、それ以外の方にとって”高山”と言えば飛騨高山として知られる岐阜県の高山市。長野県の高山村と言ってピンとくる方はまずいらしゃいません。「志賀高原の麓のあたりです」とか、「栗で知られる小布施町のお隣ですよ」と言うと、何となくあの辺りねと理解して下さる方がいる程度です。しかし、この長野の高山村、日本のワイン用ぶどうの産地としては余市、東御と並んで現在最も注目を浴びているエリアの一つです。村にあるワイン用ぶどう畑は60haにまで拡大しており、その殆どが垣根仕立てのヨーロッパ系品種。村最初のワイナリーが出来たのは2015年ですが、2022年時点で既に6軒のワイナリーが稼働しています。この6軒と言う数字は、長野県下の一行政管区としては塩尻市、東御市に次ぐ3番目の数字です。どうしてこれだけ一気にワイン産地として発展したのか、今回はそのあたりを見て行きたいと思います。
高山村には泉質の異なる8つの温泉が湧いており、りんごの名産地としても知られ、さらにジビエも素晴らしく美味しいです。是非、これからのシーズンに訪ねてみて下さい。

目次
  1. 【高山村のワイン生産の歴史と今】
  2. 【高山村の気候と標高差の魅力】
  3. 【高山村の代表的なぶどう品種】
  4. 【高山村のワインにおすすめの食べ物】
  5. 【代表的な1本】

【高山村のワイン生産の歴史と今】

1980年代:大手ワイナリーとの契約栽培地としてスタート(当初は竜眼で、初めてシャルドネが植えられたのは1990年代)
1999年:高山村のぶどうを使ったシャルドネのワインが、リュブリアーナ国際ワインコンクールで金賞受賞。以後も受賞多数
2000年代前半:故・佐藤宗一さんが高山村とシャルドネの相性の良さを確信し、仲間を探し始める。(当時の栽培者は佐藤さんと小布施ワイナリーの曽我さんのみ)
2006年:ぶどう栽培者、ワイナリー、ソムリエなど、生産者だけでない多くのワイン関係者を会員として構成される「高山村ワインぶどう研究会」発足。サントリーも当初から会員として参加
2011年:東御市に続く、県内2番目のワイン特区に認定。同年、高山村の名前を冠した初のワイン、
「サントリージャパンプレミアム 高山村シャルドネ 2009 」がリリース
2014年:[サントリージャパンプレミアム 高山村シャルドネ 2012」が、国際ワインコンクール「シタデル デュ ヴァン」で金賞受賞。
2015年:高山村初のワイナリーがオープン。
2016年:高山村のぶどう栽培農家13人が集まって設立した、「信州たかやまワイナリー」オープン。
2022年:村のワイナリーは6軒に。
 
高山村のワイン用ぶどうの歴史は約40年。中でも直近15年程の発展が目覚ましいのがわかります。この時期は日本中で急激にワイン産業が注目を集めて発展した時期とも重なります。ポイント、ポイントで国際的な賞の受賞も有り、生産者たちを勇気づけて来ました。

【高山村の気候と標高差の魅力】

世界の銘醸地と比較した高山村の気候データ

高山村は善光寺平に向かって下っていく西向き斜面に位置する村です。この村に位置するぶどう畑の特徴は何と言ってもその標高差。最も標高の低い畑は約450mでそれに対して最も標高の高い畑は約900mと同じ村の中なのに500m近い標高差があります。実際に車で走っていても、行きはずっと登りで、帰りはずっと下りです。標高は100m上がるごとに0.6℃気温は下がりますので、ぶどうの生育期間である4~10月の平均気温は450m地点では18.7℃(2021年)で900mでは16℃。同じ村で生産されるぶどうなのに、驚くほど異なる気温条件下で栽培されているのです。ワイン用ぶどう栽培で良く使われる気候区分でも最も冷涼なクールクライメットからモデレート、ウォームまで、3つの気候帯にこの村のぶどう畑は跨ります。ざっくり計算してみると、一番高いところはブルゴーニュに近い気候で、一番低いところはナパ・ヴァレーの内陸部の温かいエリアくらい、真ん中あたりでボルドーくらいの気候です。となると当然栽培されるぶどう品種も変わってきますよね。この村では非常に沢山の品種のぶどうが植えられており、成功していますが、これはこの同じ村の中での気候の多様性から来るんですね。あと、シャルドネの様に適応する気温帯が広い品種の場合、同じ品種でも例えば標高500m地点ではパイナップルを連想させるトロピカルフルーツのような果実感と完熟した穏やかな酸味のリッチなスタイル、それに対して700m地点では柑橘系や白い花を連想させる様な繊細でフローラルな香りと、シャープな酸味とタイトなボディの引き締まったスタイル、みたいな感じで色々なタイプのワインが出来るので、それらをブレンドする事で複雑さを表現する事が可能です。その点でもこの村には高いポテンシャルがあると言えると思います。この村のある斜面は村の中央を流れる松川が上流の志賀高原から運んだ土砂が堆積して出来た扇状地。大きな砂利が基盤にあり、非常に水捌けが良いのもワイン用ぶどうにとっては良い条件となっています。

ワイン生産者を引き付ける多様な気候と優れた土壌はこの産地の大きな魅力の一つです。

【高山村の代表的なぶどう品種】

(左)シャルドネ(右)カベルネ・ソーヴィニヨン
高山村を日本のワイン用ぶどうの産地として認知させたのは、シャルドネです。このエリアで栽培されるシャルドネから生産されるワインは、力強く厚みのある果実味と、昼夜の寒暖差が生み出す引き締まった酸と透明感のあるピュアな質感のコントラストのある味わいで、とても魅力的だと思います。しかし、高山村の魅力はそれだけではありません。一つ前の項で述べた通り、一つの村に幅広い気候帯が存在するのがこの村。つまり可能性のあるぶどう品種が物凄く沢山あるのも、またこの村の魅力の一つです。現在村で広がっているぶどう品種を見てみたいと思います。
 
[シャルドネ]
高山村の白ワインの王様。力強く複雑味も持った世界水準のシャルドネが生まれる。
 
[ソーヴィニヨン・ブラン]
近年増加中。標高によって味わいには違いがあるが、冷涼産地ならではの香り高さだけでなく、熟したボリューム感も併せ持つ事が多い。
 
[ボルドー品種の黒ぶどう]
メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン。単一品種でも、複数品種のボルドーブレンドでも良いワインが生産されている。この村の中では比較的標高の低いエリアを中心に栽培されているが、長野県の北部らしい骨格と涼やかさを併せ持った味わいが魅力。
 
[ピノ・ノワール]
標高の高いエリアで挑戦する人が増加中。軽やかだが、華やかで色気を持った香り高い味わいが生まれる。
 
[アロマティック系品種]
リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ケルナーなど。近年はアルバリーニョ、プティ・マンサン、ピノ・グリなどのセミアロマティック系のぶどう品種での成功例も。
 
これら以外にも、アリアニコやサンジョヴェーゼなどのイタリア系品種や、ツヴァイゲルトレーベ、複数品種の混植混醸など、多彩な取り組みが進んでいる事もこの村の魅力と言えるかと思います。

【高山村のワインにおすすめの食べ物】

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?鶏ももソテーのチーズマスタードソース

 

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?そば粉のガレット

 

樽発酵&樽熟成のシャルドネに相性の良いものと言えば、海老や蟹などの力のある甲殻類。鶏肉や豚肉などの加熱して白くなるいわゆるホワイトミートも定番です。バターやチーズなどの乳製品と相性が良い事もこのタイプのワインの特徴で、平目や鯛などの上品な白身魚のバターソテー系(ムニエルやポワレなど)も最高の相手の一つです。樽熟成から来る香ばしい風味を活かすためにも、カリッとした焼き目を食材につけるとより相性が良くなります。

 

高山村のシャルドネは、シャルドネらしい厚みのある果実感と、品種に備わった上質な高めの酸味、しっかりとした構造と言った世界のシャルドネに共通する要素をしっかりと持っています。あまり日本ワインと言う事に縛られずに、例えばブルゴーニュの白ワインを愉しむ時の様な感じで飲んで頂いても、それ程違和感はないかと思います。日本でもこのレベルのシャルドネが普通に生産されるようになってきたという事をしみじみと感じつつ、色々な料理と高山村のシャルドネを合わせてみて下さい。

【代表的な1本】

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サントリー フロムファーム 高山村シャルドネ 2021

高山村の複数の契約栽培農家さんのぶどうをブレンドして生産されています。畑の標高は約500~700mにバランス良く点在しており、まさに高山村という産地の特徴が表現されているワインです。柑橘系からトロピカル系までの幅広い果実味と、程よい甘香ばしさ。100%樽発酵ですが、ぶどうに力があるので樽ばかりが目立つ事もありません。本当の意味で力のある日本のシャルドネだと思います。また、ワイナリーと直販サイト「ワイン日和」の限定発売ではありますが、高い標高の収量制限したぶどうだけを厳選してブレンドした「ワインのみらい 高山村シャルドネ キュベ スペシャル 2021」も数量限定で発売しています。これを飲んで、個人的には日本のシャルドネが行ける世界はもっともっと広がっていると思う事が出来ました。こちらもオススメです。

 

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