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地中海のヴェルメンティーノ(イタリア・ティレニア海沿岸部)

2023年09月

(写真)サルデーニャ島のガッルーラのぶどう畑
一年前にも同じ発想になりましたが、8月と言えば夏休み、そして海のシーズンです。多くのワインショップでも8月は海の近くや島でつくられるワインを取り上げています。やはり多くの人の考える事はわりと近くなるのでしょうか。今回は、夏休みのイメージにピッタリの、世界中からバカンスの観光客が大挙して訪れるイタリアとフランスの地中海沿岸部で栽培され、近年世界中から熱い視線を浴びている注目の白ぶどう品種、ヴェルメンティーノを取り上げたいと思います。世界全体での栽培面積は12,000ha程度と決して多くはない(1位のカベルネ・ソーヴィニヨンは300,000ha)のですが、2000年から2016年までの間に、栽培面積が倍増しており、原産地の地中海沿岸部だけでなく、カリフォルニアやオーストラリアなどでも栽培が広がっています。その人気の秘密を考えてみたいと思います。

目次
  1. 【ヴェルメンティーノの栽培地】
  2. 【ヴェルメンティーノというぶどう品種】
  3. 【ヴェルメンティーノの白ワインづくり】
  4. 【ヴェルメンティーノにおすすめの食べ物】
  5. 【代表的な1本】

【ヴェルメンティーノの栽培地】

ジャンシス ロビンソンMW著の「WINE GRAPES」によると、ヴェルメンティーノは13~14世紀にコルシカ島で栽培されていたと言われています。サルデーニャ島には、このぶどうはスペインから伝えられた(14~17世紀にはこの島はカタルーニャの支配下にあったので)という言い伝えがあったり、ギリシャや中近東から伝わったという話もあったようですが、DNA鑑定の結果からそれを裏付ける証拠は見つかっていません。初めて文献に登場するのが、ピエモンテ州で栽培されていたという1658年の記録。コルシカ島とピエモンテ州はリグリア海を挟んで向かい合った位置関係ですから、コルシカ、リグーリア、トスカーナ、プロヴァンスを結ぶ四角形のあたりがヴェルメンティーノ発祥の地だと推測されます。現在の栽培の中心地もそのエリア。少し古いデータですが、2008年の時点でフランスとイタリアの栽培面積が約3,500haずつでほぼ同数。プロヴァンス、コルシカ島、サルデーニャ島、リグーリア州が中心地でした。有名なワイン産地としては、サルデーニャ島唯一のDOCGワインである、ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラやこの島全体で生産されるよりカジュアルな味わいのヴェルメンティーノ・ディ・サルデーニャ、コルシカ島の白ワイン全般(特にヴェルメンティーノ100%が義務付けられるAOCパトリモニオの力強く引き締まった白)、香り高くはなやかなリグーリアのDOCコッリ・ディ・ルーニなどが挙げられるかと思います。プロヴァンスではこのぶどうはロールと呼ばれ、白ワインづくりだけでなく、プロヴァンスの代名詞とも言えるロゼワインにブレンドする事も認められており、あの素敵な淡いピンクロゼカラーを表現するのに一役買っています。そして近年注目なのがトスカーナ。著名な生産者たちが海岸部で次々とヴェルメンティーノをつくり出しており、ラベルに品種名を表示している事もあってヴェルメンティーノの人気と認知に大きく貢献しています。

【ヴェルメンティーノというぶどう品種】

写真:(右)ヴェルメンティーノ(左)急斜面のリグーリアのヴェルメンティーノの畑

上でも述べましたが、プロヴァンスではロールとも呼ばれています。近年のDNA鑑定の結果、リグーリア州でピガート、ピエモンテ州でファヴォリータと呼ばれていたぶどう品種も、この品種と同じぶどうである事がわかりました。また、マルヴァジア・ド・コルスとも呼ばれています。マルヴァジアという名前で呼ばれるぶどうは香り高いぶどうである事が多いのですが、このぶどうも完熟した場合には、大輪の百合の花や、フレッシュでジューシーな白桃などを連想させるとても魅力的な香りを放ちます。比較的芽吹きは早く、中程度からやや晩熟。それなりに長い生育期間を必要とするので、水はけが良く、日当たり良好の、(北半球だと)南向きの斜面の畑で良いヴェルメンティーノが栽培されています。軽快でキレのある酸味もこのぶどう品種の特徴で、この酸味がある事でしっかりと完熟まで収穫を待つ事が出来ます。色々な産地のヴェルメンティーノを飲み比べると、このキレのある酸味を中心としたレモンやホワイトグレープフルーツを連想させる柑橘系のフレーバーに少しハーブ(フェンネルやバジリコなど甘いハーブ感)のタッチが入った爽やかなものから、白桃や黄桃などを思わせるジューシーで甘い果実感を出すもの、よりどっしりとした重量感や力強さを表現するものなど幅がありますが、ぶどうが育つ土地の味わいがそこに表現されていると思います。共通点としては、潮風を感じるような後口の塩味があり、スッキリとした後口を生むところが挙げられるかと思います。個人的な感覚にはなりますが産地と味わいの関係を論じてみると、

・サルデーニャ…スッキリとキレのある酸味と柑橘系の果実感

・ガッルーラ…より強いボディ感があり、少しリースリングにも共通するようなオイリーな骨格

・リグーリア…とても華やか。白い花やハーブ、白桃などが混ざりつつ広がる香りが魅力

・コルシカ島…ギュッと詰まった密度があり、柑橘を思わせる風味の中に、独特の麦わらの様なニュアンス

・プロヴァンス…ブレンドされる事が多いので、一言では言いにくいが、わりとまろやかな

・トスカーナ…果実の厚みがあり、しっかりとしたボディを感じる力強い味わいで、少しだけオイリーな感じが出る

という感じでしょうか。この文章を書くために過去に飲んだヴェルメンティーノの記録を遡ってみましたが、結構誉めているコメントが多くて、このぶどうのポテンシャルを改めて感じる結果となりました。魅力的なぶどう品種だと思います。

【ヴェルメンティーノの白ワインづくり】

ヴェルメンティーノの良さを引き出した醸造法に、還元的なワイン醸造(守りながらつくる醸造とも)が挙げられます。ぶどうの持つ香り成分の中で、特に第一アロマと呼ばれる果実や花などを連想させるタイプの香りは果実の酸化によって鮮やかさを失っていきます。醸造の過程で出来るだけ酸素に触れさせずにつくる事で、それらの鮮やかでフレッシュな香りを残す事が出来ます。低い圧力でやさしく果汁を搾る、例えば低温で醗酵する事で香りの揮発を抑える、酸素を透過しないステンレスタンクなどの不活性容器で醗酵やその後の保管をする、還元能力を持つ滓と一緒に保管するなどの手を使う事で、イキイキとした果実味が前に出た魅力的なワインをうむ事が出来ます。

【ヴェルメンティーノにおすすめの食べ物】

img_1131_4.jpg

?蕪と鯛のカルパッチョ グリーンソース

 

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?ブッラータと桃

 

ほどほどにアロマティックで、キレのある柑橘や甘いハーブを思わせる風味があって、軽快な酸味と海の潮の様な余韻がある。そんなヴェルメンティーノは、やっぱり海の幸との相性が抜群です。レモン、ハーブ、潮と言ったこのぶどう品種のワインが持つ風味は、特に海の魚介類が持っている風味だったり、相性が良いとされて料理に使われる素材とかなり共通しているので、それらの料理との相性が良くなるのも当然と言えると思います。ヴェルメンティーノが生産されるエリアはまた、良質のオリーブオイルの産地とも重なっています。リグーリア州やトスカーナ州の少し辛味を感じるような緑色をしたエクストラバージンオリーブオイルとの相性も最高です。上でも挙げている様な、ハーブを乗せたカルパッチョなどは間違いない組み合わせですね。そしてもう一つ挙げている、ブッラータと桃。実際の記事ではヴェルメンティーノとは合わせていないのですが、先日別の場所でリグーリアのヴェルメンティーノと試す機会があり、しっかりと記憶に刻まれました。個人的にはひと夏に一度は味わいたい組み合わせです。

【代表的な1本】

レオナルド ヴェルメンティーノ (レオナルド ダ ヴィンチ)

キャンティのエリアにある彼らの自園からの生まれる、珍しい内陸のヴェルメンティーノです。とは言え土壌は大量の海洋生物(特に貝類)の化石を含んだ特徴的なもので、地中海からの涼しい風が届くエリア。その良さはこのワインが放つフレッシュな柑橘系や白桃を連想させる香りからも伝わってきます。トスカーナらしい厚みのある果実と、それを支える心地よい酸味が特長の、バランスの良い辛口白ワインです。

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