サントリー1万人の第九サントリー1万人の第九

サントリー1万人の第九のつくりかたサントリー1万人の第九のつくりかた

第九の歌詞を体感できる唯一無二のイベント
佐渡裕さんインタビュー(前編)

1983年にスタートし、今年で34回目を迎えたサントリー1万人の第九。山本直純さんの後を継ぎ、佐渡裕さん(55)が指揮を初めて振ったのは1999年だ。この17年間で1万人の第九はどのように変化したか、本番前日のリハーサル前に、佐渡さんに聞いた。【聞き手・西田佐保子】

大阪城ホール(大阪市中央区)で行われた「第34回 サントリー1万人の第九」の模様=写真提供:毎日放送

オケの構成を変えて新しい風を吹き込む

1万人の第九を初めて指揮したのが38歳のときで、今年で18回目になります。当時からさまざまな変化がありました。まず、オーケストラの構成が変わりました。初年度は、大阪フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団の合同オケでしたが、2002年には、アマチュアの合唱団だからユースオーケストラでやりたいと提案して、関西音楽大学協会に所属する8大学の学生オーケストラによる「1万人の第九ユースオーケストラ」を結成しました。

これは大きな変革でしたよ。当時、1万人で演奏会を行うという大イベントとして盛り上がっていたけれど、ある意味どこか「違って」いた。テコ入れするためには、まずオケによる演奏を変えたかった。もちろん、ユースオケですから、技術的に優れているわけではありません。今から振り返ると、よくあんなことやったなと思うわけですよ(笑い)。でもそのことによって、1万人の第九というイベントにおける音楽的な要素が急激に高まりました。

05年からは同年の秋に結成された兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)を母体としながら、ユースオケ、京都市交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、ケルン放送交響楽団などに加わってもらって演奏してきました。今年は、ウィーン・フィルのセカンドヴァイオリン首席奏者を務めていたペーター・ヴェヒターさんにも参加してもらっていますが、PACオケも設立10年を超え、急激に成長しています。もちろん慣れはあるかもしれません。でも同時に「自分たちが1万人の第九のクオリティーを支える柱である」との自覚をオケのメンバー一人一人が持ち始めたようです。

全国へ、世界へ広がる1万人の第九

合唱指導の先生とのチームワークも確立してきました。今年は全体の約3割が初参加者ですが、合唱団として参加してくれる皆さんのモチベーションが毎年上がっているのを感じます。僕が指揮をするようになってから、東京、仙台、名古屋、札幌、那覇、今年からは福岡クラスが設立されました。関西のイベントが全国的イベントへと広がりを持ちはじめています。

昨年、僕が音楽監督を務めるトーンキュンストラー管弦楽団の事務局長が1万人の第九を見に来て、「これをウィーンでも実現したいと」と言ってくれました。そこで今年はオーストリア、ウィーン郊外のグラフェネッグで500人、ウィーンで400人のアマチュア合唱団による第九を演奏しました。合唱団に参加したメンバーのうち、1万人の第九に興味を持った25人が、今回オーストリアから参加します。

ヨーロッパでドキュメンタリー番組が放映されるなど、1万人の第九は世界に発信できるクオリティーを兼ね備えたコンサートに成長しています。海外の人にとっては奇跡でしょうね、1万人で歌っていることが。「全員が兄弟となり、幸せに向かっていく」。第九の歌詞を体感できる唯一無二のイベントではないでしょうか。(後編へ続く)

毎日新聞ニュースサイト
「クラシック・ナビ」に2016年掲載
http://mainichi.jp/classic/

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