参加者にパワーをもらっています
井上智子さんインタビュー
今年初めて開設されたサントリー1万人の第九の福岡クラス。参加者が「とても分かりやすい」と絶賛するのが、合唱指導を担当する井上智子さん(38)だ。1万人の第九で合唱を指導するうえでの苦労や喜びについて聞いた。【構成・西田佐保子】
1万人のエネルギーに魅力を感じる
私は現在、アマチュア合唱団で合唱指導を行っています。団員の知人を通じて、「新たに開設される1万人の第九の福岡クラスで、合唱指導をしていただけませんか?」と声をかけていただきました。1万人の第九については、私が子供のころから知っていました。だからお話をいただいたときは、「自分があの大きなコンサートをお手伝いできる」と思い、正直、とてもうれしかったです。
通常、多くても200人程度で歌う第九を、1万人で歌う。1万人の第九は、少ない人数で表現を極めるタイプの演奏ではないので、いわゆる生粋のクラシック音楽ファンにとっては単なる「イベント」でしかないのかもしれません。ただ、「人類は皆、兄弟である」というベートーヴェンのメッセージを1万人で歌う。私はそのエネルギーに魅力を感じます。
参加者は1万人の第九に「何か」を求めている
これまで第九の合唱指導は5年間ほど行ってきましたが、やはり指導者としてのプレッシャーは非常に大きいです。アマチュアの合唱団と違い、1万人の第九の合唱団は、合唱の「が」の字から、しかも第九という非常に大きな曲を一から教えなくてはいけない。初めての経験ですし、その意味では不安です。でも実際、レッスンがスタートすると、皆さん非常に声が出て、若々しく、やる気がある。とても生き生きしていて、ここにそれぞれの「何か」を求めて参加していることが分かります。
私は皆さんのパワーをもらって、どのようにすればよりうまく歌えるようになるかを常に考えて、具体的に教えています。また、「歌う」というのは非常にポジティブな行為なので、できるだけネガティブな気持ちにならないように、皆さんのモチベーションを高めるように心がけています。
第九は非常に難しい曲です。今回、1万人の第九で初めて第九を歌う人は、思い切って歌ってほしい。もしうまくできなかったとしても、次回、新たな目標を持って挑戦してください。第九経験者であっても、第九は経験者なりに難しい曲です。ですから、もう一度新たな気持ちで、真摯(しんし)に向き合って、第九を発見してください。
毎日新聞ニュースサイト
「クラシック・ナビ」に2016年掲載
http://mainichi.jp/classic/