サントリー1万人の第九サントリー1万人の第九

サントリー1万人の第九のつくりかたサントリー1万人の第九のつくりかた

合唱団の声が変わる
熱い佐渡練

毎年、サントリー1万人の第九の本番前に1000〜2000人の合唱団を対象に行われる「佐渡裕特別レッスン」、通称「佐渡練」。今年は東京で11月23日、大阪で11月25〜28日の合計9回行われた。佐渡練は、佐渡裕さんが1万人の第九の指揮者を受ける際に出した条件の一つでもある。佐渡さんの合唱指導を間近で受けられるとあって、この日を楽しみにしている合唱団員も多い。今回は、11月23日の19時半から21時まで東京都葛飾区、かつしかシンフォニーヒルズで開催された佐渡練の模様をお伝えする。【構成・西田佐保子】

佐渡練の模様=東京都葛飾区かつしかシンフォニーヒルズで2016年11月23日、西田佐保子撮影

今年の「フロイデ」の思いを浮かべて歌う

かつしかシンフォニーヒルズには東京クラスのみならず、北海道、宮城、福岡、愛知、沖縄クラスの合唱団員も参加。レッスンは祝日の19時半スタートだが、18時には入場を待つ多くの人の列があった。

「ホールの大きさと人数の多さを意識して、ベートーヴェンの偉大さと第九の壮大さも少しは頭に入れながら音楽を作っていきましょう」。東京クラスで合唱指導を担当する下村郁哉さん(63)による発声練習からスタート。続いて、「今日の練習で、第九がどのような曲かを少しでも皆さんに知ってほしい。今回の練習でどんどん声が変わっていきます。その変化を感じてください」と、佐渡練が始まった。

「Freude!(フロイデ)」。男性コーラスの最初の発声に佐渡さんはこだわる。「1楽章から3楽章まで約40分間、楽器のみの演奏があって、第4楽章で初めて合唱が入ります。これは交響曲の歴史においては非常に画期的なことでした。そして『このような音ではない!』と第1〜3楽章を否定する。第4楽章で初めて男声合唱から発せられる言葉が『Freude!(喜び)』です。自分にとって今年のFreudeは何だったか。具体的に頭に思い浮かべましょう。1万人それぞれのFreudeがあります。本番でその思いを込めて歌ってください」

佐渡さんは歌のテクニックだけでなく、ベートーヴェンの第九に込めた思いや曲の構成についても丁寧に説明しながら練習を進めていく。「誰でも口ずさめるような曲にしたい」というベートーヴェンの思いが感じ取れる、男女合唱4パートが初めてそろう249小節に入ると、両隣の人と手をつないでリズムを取りながら歌うよう指示した。

Deine Zauber binden wieder,(ダイネ ツァウベル ビンデン ヴィーデル)

was die Mode streng geteilt;(ヴァス ディー モーデ シュトゥレンク ゲタイルトゥ)

alle Menschen werden Bruder,(アッレ メンシェン ヴィルデン ブリューデル)

Wo dein sanfter Flugel weilt.(ヴォ ダイン ザンフティル フリューゲル ヴァイルト)

自分の隣で歌う合唱団員、そして会場で歌う人たちとのつながりを体に染みこませるように歌う。「本番では今日のこの感覚を忘れないで」と佐渡さんは訴える。「素晴らしい。いい声が出ていますね」。レッスンが進むにつれ、合唱団の声も変化していく。304小節に入り、佐渡さんは熱く団員に語りかけた。

「『不思議な力によって引き裂かれていたものが一つになる』という歌詞がありますね。複雑化するこの世界において、とても重要なメッセージです。1万人の第九の本番には、夏から練習してきた日本全国の合唱団員、そして今年はオーストリアの合唱団員も大阪に集まります。今日も素晴らしいけど、もっと大きな感動、『Freude』に向かっていく。だけど、『und der Cherub steht vor Gott!(ウントゥ デル ケルブ シュティートゥ フォル ゴット!)』。神の前には門番である「ケルブ(Cherub)」(智天使<ちてんし>)が立っている。天にいる神の元には、歓喜には、簡単にたどり着けません。だから皆で高みを目指し、力を合わせてケルブに立ち向かって行くんです」

「皆さんを誇りに思います」と語る佐渡さん

21時を過ぎ、5分の延長後に熱いレッスンが終了した。「今日はいろいろな注文を出しました。リハーサルではネガティブなことをたくさん言わなくてはいけない。そういうものです。でも、今日は言わなかった。ここで皆さんが笑顔で歌ってくれている。僕はそのことに本当に感動しています」と語る佐渡さん。そして、「とても複雑な時代に、皆さんそれぞれが輝いて、それぞれが主人公になって、何かを作り上げていく。とても意味のあることです。皆さんを誇りに思います」と続けた。

「歌詞の意味を具体的に教えてくれて、とても分かりやすかったし、おもしろかった。1万人で歌うってすごいことですよね。本番がとても楽しみです」。夫婦で初参加だという仙台クラスの岡村晃三さん(53)はレッスン終了後に語った。妻節子さん(57)は、「みんなのFreudeがあると言われたので、安心して歌える気がします。当日は風邪をひいたとしてもはってでも行きますよ」と意気込みを語った。

毎日新聞ニュースサイト
「クラシック・ナビ」に2016年掲載
http://mainichi.jp/classic/

ページトップページトップ