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ワインって難しい・・・?
世の中で広く言われるワインの常識を、ワインのプロが実際に検証!
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日本のワイン用ぶどう

2025年01月

(写真)日本を代表するぶどう品種・甲州

21世紀に入ってからの急激な生産量とワイナリーの増加で注目が集まる日本ワイン。「日本ワイン」と言う呼称が正式に国税庁によって告示されたのが、2015年10月30日の事ですから、今年は10年の節目の年となります。大体その10年前の2005年頃から、新しい日本ワインの胎動が始まっていたとすると、正に激動の四半世紀と言えると思います。今回はそんな日本ワインをうむぶどうたちを見ていきたいと思います。

日本は世界の代表的なワイン産地と比較した場合、雨が多く湿度の高い環境である事が特徴です。世界のワイン用ぶどうの中心となっているカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどの品種は、ヴィティス・ヴィニフェラと呼ばれるグループに属しますが、元々が乾燥した土地の出身なので、一般的に雨や湿度に弱い特性を持ちます。日本で発展して来たぶどう品種を見てみると、そのような気候の中で人々が試行錯誤しながら進んできた事が見えてきます。

目次
  1. 日本のワイン用ぶどうトップ10
  2. 甲州
  3. 日本独自の交配(交雑)品種
  4. その他のぶどう

日本のワイン用ぶどうトップ10

 日本のワイン用ぶどうの上位10品種を表にしてみました。白ぶどうの1位甲州と黒ぶどうの1位(全体の2位)マスカット・ベーリーAで、ほぼ日本のワイン用ぶどうの1/3生産しており、この2品種が日本を代表するワイン用ぶどうである事がわかります。この2品種は歴史的には生食用ブドウとしても栽培されており、日本人の生活に深く馴染んだ歴史のあるぶどう品種たちです。マスカット・ベーリーAの左側に書かれている「川上系」と言うのは、新潟県の岩の原葡萄園の創業者である川上善兵衛氏が、私財を投げうって交配した、日本の気候に合う品種(10,000種以上!)の一つという事です。10位のブラック・クイーンも川上系交配品種ですね。トップ10には入っていませんが、日本の気候に合わせるための交配品種と言うのは他にも沢山存在しています(後述します)。3位から先を見てみると、北米系と欧州系の2系統が続いています。このうち欧州系は、冒頭で触れたヴィティス・ヴィニフェラで、世界の大規模なワイン産地で栽培されているのは殆どがこの系統になります。もう一つの北米系と言うのは、名前の通りアメリカ合衆国の東海岸北部(メイン州など)を原産とするぶどう品種の一群です。ヴィニフェラと比較すると厳しい自然環境に強く、栽培適性が高いのが特徴ですが、一般的に「フォクシーフレーバー」と呼ばれる特有の香りを持ち、それがワインにも出てきます。ぶどう風味のお菓子やぶどうのジュースなどに良く見られる風味なのですが、欧米の消費者にはあまり好まれないため、それらの国々では殆どワインにはなりません。日本では、ぶどう味のチューハイなども人気な様に、この風味は受け入れられていますので、広くワインに使われています。厳しい環境に強いという事は栽培コストが低く済むという事です。日本ワインのエントリークラスを支える重要なぶどうたちであり、北米系の上位4品種(ナイアガラ、コンコード、デラウェア、キャンベル・アーリー)で日本ワイン全体の約1/4を占める大勢力です。

甲州

(写真)左右共に甲州
 甲州は日本で1000年以上も栽培されていると言われる、日本固有のぶどう品種です。白ワイン用のぶどうですが、上の写真にもある様に淡い藤色の果皮を持つ、いわゆるグリ系ぶどうに属します。名前からしても、栽培されている産地(96%が山梨県)からしても山梨県と密接な関係にあるぶどう品種ですが、その由来は2013年の当時、(独)酒類総合研究の後藤奈美氏によるDNA鑑定で解明されました。その結果とはヴィニフェラ遺伝子が約3/4、中国系のトゲぶどうVitis davidiが1/4と言うもので、甲州がヴィニフェラの原産地であるコーカサス地方から、長い時間をかけてシルクロードをわたり日本に到達した事がわかっています。つまり、甲州にはワイン用ぶどうの血がかなり入っているという事ですね!そして長い日本でのぶどう生活の中で、雨に負けない丈夫で分厚い果皮を持ち、高いカビ系の病気への体制を持つように進化しています。近年は山梨以外での栽培エリアも増加中で、気候が変化すると、甲州のワインに顕れる風味も変化する事もわかって来ています(例えば冷涼な産地だとリンゴ系やメロンなどの香りが強くなり、温暖な産地だと温州みかんや黄桃などの風味が出る)。今後の更なる発展に期待したいと思います。

日本独自の交配(交雑)品種

(左からマスカット・ベーリーA、リースリング・フォルテ、ビジュノワール)
 冒頭に川上品種について触れましたが、他にも大手のワイナリーや、各都道府県の研究所によって交配(交雑)されたワイン用のぶどう品種も多く存在します。また、日本には伝統的に野生の山ぶどうの搾り汁を利用する伝統があり、山ぶどうを親とした交雑品種も多く存在しています。多くの場合が、片親がヴィニフェラで風味の部分を期待され、もう片親が北米系やヤマブドウや甲州など、雨が多い日本の気候に順応した生理的な強さを期待されたものになっています。代表的なものを以下に挙げます。
(●黒ぶどう、〇白ぶどう)
<川上品種>
●マスカット・ベーリーA(ベーリー✕マスカット・ハンブルグ)
 川上善兵衛の最高傑作。生食兼用。独特の綿飴様の甘い香り(フラネオール)を持つ。東北から九州まで幅広く栽培されている。
●ブラック・クイーン(ベーリー✕ゴールデン・クイーン)
 醸造専用。ブラックと言う名前の通り非常に色が濃い。酸味が強く、タンニンは穏やか。赤ワインの色の強化のブレンド用としても有用。酸が落ちないので温暖化対策でも注目されている。
●ベーリー・アリカントA(ベーリー✕アリカント・ブーシェ)
 果肉まで赤い(タントゥリエ)品種であるアリカント・ブーシェを片親に持つため、非常に色が濃い。単体でワインになる事は少なく、ブレンドで色の強化に使われる事が多い。
〇レッド・ミルレンニューム(未詳1号✕ミルレンニューム)
 アロマティック系品種で、ライチを連想させる華やかな香りが特徴。
<ヤマブドウ系>
●小公子(未確定)
 澤登晴雄氏が開発したが、交配元は不明。ヤマブドウ由来と推定される豊かな酸味と独特の野趣のある風味がある。耐寒性の強さも魅力で温暖地~寒冷地まで栽培が増加中。
●山幸(ヤマブドウ✕清美)
 北海道の十勝で開発された品種。耐寒性が非常に強く、北海道で広がりを見せている。豊かな酸味と、しっかりとした濃厚な色調が魅力
●ヤマソービニオン(ヤマブドウ✕カベルネ・ソーヴィニヨン)
 山梨で開発された品種で、酸が豊かなため改めて評価されている。
<大手ワイナリー系>
〇信濃リースリング(シャルドネ✕リースリング)
 マンズワインで開発。辛口~甘口まで香り高いワインを生む
〇リースリング・フォルテ(甲州三尺✕リースリング)
 サントリーで開発。フォルテの名前は病気に強い事から。リースリングの香り高さや酸味の高さと甲州の丈夫さ
〇リースリング・リオン(甲州三尺✕リースリング)
 サントリーで開発。現在は岩手県で白ワインの主力品種となっている。スッキリとした酸味のワインを生む
<山梨県>
●アルモノワール(カベルネ・ソーヴィニヨン✕ツヴァイゲルト)
 山梨県の果樹試験場が開発。冷涼地に適し、東北などで栽培されている。
●ビジュノワール(山梨27号[甲州三尺✕メルロ]✕マルベック)
 山梨県の果樹試験場が開発。温暖な地域でも色付きが良く、糖度も上がり、しかも収穫時期も早い。

その他のぶどう

(写真:日本で多く見られる棚栽培の畑)
 厳しい自然条件に強い北米系の品種も先に述べた通り、広くワイン用のぶどうとして栽培されています。ナイアガラ、コンコード、デラウェア、キャンベル・アーリーの4品種(実際にはこれらの品種は一部ヴィニフェラの血も引くハイブリッドです。例えばデラウェアは50%ヴィニフェラの血統)以外にも、アジロンダックやポートランド、日本で交配された巨峰なども広くワインにされています。
ヴィニフェラでメルロ、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンに続くのは、ケルナー、ツヴァイゲルト、ソーヴィニヨン・ブラン、ミュラー・トゥルガウなどです。ヨーロッパに近い気候を持つ北海道でヴィニフェラの栽培が盛んなため、冷涼な気候に適したドイツ系の品種が多くなっています。
他には、ヤマブドウそのものからのワインづくりも存在しています。

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