- 実験編「豆知識」
アロマティック品種とそのつながり
2024年11月
(写真)リースリング(左)とゲヴュルツトラミネール(右)
ワイン用のぶどうには「アロマティック系品種」と呼ばれる、一群のぶどうたちがあります。そのぶどうたちからつくられるワインは香りが非常に強く、かつ特徴的な香り成分を持つので、香りをかいだだけで、何というぶどうからつくられたワインかわかる程です。黒ぶどうにも香り高いワインをうむ品種もありますが、一般的にアロマティック系品種と言えば、白ワイン用の白もしくはグリ(ピンクの果皮)のぶどうです。代表的なものとして、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、マスカット(ミュスカ、モスカート)、トロンテス、ヴィオニエ、ソーヴィニヨン・ブランなどが挙げられます。この中ではソーヴィニヨン・ブランだけがハーブや青草に例えられる青臭い香りを持ち、それ以外の品種たちは主に色々な花に例えられる「フローラル」と評される香りを強く放ちます。今回はそんなアロマティック系品種たちについて、見ていきたいと思います。
アロマティック系品種の血縁関係(マスカット系)
上)マスカット系の血縁関係図アロマティック系の中で、一連の大きなグループになっているのが、マスカットのグループです。これらのグループには共通の「マスカット香」と呼ばれるぶどうそのものの香りがあります。ワインは原料であるぶどう時点での香りが殆ど反映されないお酒ですが、マスカットを代表とするアロマティック系ぶどうは例外的に元のぶどうの香りを持つ事が多くあります。
その語源は麝香(ムスク)から。とても古い品種で、ミュスカ・ブラン・プティ・グラン(モスカート・ビアンコ)を始祖として、その子供であるマスカット・オブ・アレクサンドリア、さらにその子孫である3つのトロンテス、マルヴァジア・デル・ラツィオ(マルヴァジアと呼ばれるぶどうも非常にたくさんあり、華やかな香りを放つ事が多いのですが、その全てがマスカットの血を引くわけではありません)、そして日本のマスカット・ベーリーAまでが入って来ます。トロンテスに華やかなマスカット系のアロマがある事も、この家系図をみると納得だと思います。マスカット系のぶどうから出来るワインに顕れる典型的な香りは、マスカット、メロン、白桃、レモン、オレンジの花、スイカズラの花、はちみつなど。力強く華やかなアロマが特徴です。
その他の代表的なアロマティック系品種の血縁関係
上)その他の代表的なアロマティック系ぶどうの血縁関係図リースリング[Riesling]
アロマティック系を代表する白ぶどうと言えばリースリングでしょう。多くの方がまず最初に飲んでみる3つの白ぶどう品種(シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング)の一つであり、アロマティック系品種の典型とされる花の香りを強く放ちます。カモミールや菩提樹などの花だけでなく、柑橘、白桃、リンゴ、ネクタリンなどの多彩な果実を連想させ、そこに鉱物のタッチが溶け込む香りの要素の複雑さはアロマティック系の名に恥じないものです。
ソーヴィニヨン・ブラン[Sauvignon Blanc]
アロマティック系と呼ばれますが、その他の品種とは一線を画する独自のアロマを持つ品種です。その他のアロマティック系品種の甘く華やかな香りに対して、柑橘やハーブ、青草などのフレッシュで爽やかなアロマを強く放ちます。熟度が高くなると、桃やトロピカルフルーツのアロマも出てきますが、基本的にキレを感じさせる爽快系品種です。
ゲヴュルツトラミネール[Gewurztraminer, Gewurztraminer]
最もアロマティックと感じさせる品種かも知れません。グラスから溢れ出して来るような白薔薇や白桃、ライチ、はちみつなどを連想させる甘い香りと、白胡椒やコリアンダーシードのスパイスのアクセント。香りのボリュームが圧倒的で、恐らくボリュームという点からみれば全てのアロマティック系品種の中でナンバーワンです。ぶどうの時点で既にワインにあるような華やかで甘いアロマを放ち、その個性の強さがわかります。ゲヴュルツとはドイツ語で「スパイシーな」という意味で、スパイシーなトラミナーが品種名の由来です。緑の果皮のトラミナーが突然変異でピンクの果皮に変化し、強い香りを放つようになったのがこのぶどうです。(ピンクの果皮であまり香りが強くないトラミナーも存在していて、それはサヴァニャン・ローズと呼ばれています。そこからわかる通り、緑の果皮のトラミナーはフランスのジュラ地方ではサヴァニャンと呼ばれています。)
ヴィオニエ[Viognier]
今回の家系図では出てこないのですが、シラーと片親違いの兄弟になります。独特の蘭やジャスミンの花、ねっとりとした桃やネクタリンのコンポート、生姜を連想させるスパイシーさにハチミツの甘い香りが印象的な、少しオリエンタルなアロマティックさが魅力です。本当に良いヴィオニエは、もぎたての白桃を頬張るようなジューシーで魅惑的な香りを放つように思います。
上記4つのアロマティック系品種の味わいをマッピングすると以下の様になります。
同じアロマティック系品種ですが、爽やかでキレのあるリースリング&ソーヴィニヨン・ブランと、柔らかでリッチなゲヴュルツトラミネール&ヴィオニエでは合わせる料理も、シチュエーションも随分と異なってきます。上手に使い分けて、より豊かなワインライフをお送り下さい。