日本を代表するリキュールは梅酒である。江戸時代、17世紀末の文献に製法が書かれているようだから、それ以前にはつくられていたことになる。
当時は米を原料にした醸造酒(いまの洗練された清酒のイメージとは違うはず)がベースだっただろうし、腐敗防止のために古酒を使っていたといわれている。おそらく現代のわたしたちが親しんでいる梅酒の味わいとは違っていたことだろう。
もっと言えば、砂糖は貴重品というか高価であったはずで、いまのように家庭で誰もがつくって飲める訳ではなかったのではなかろうか。
現代のような梅酒づくりは20世紀になってからのことであろう。
21世紀になり、とてもユニークな梅酒が登場した。梅酒とウイスキーをブレンドした「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」である。手が込んだ、とてもユニークなつくり方をしている。
まず厳選した国産梅を100%使用した梅酒をつくる。それを山崎蒸溜所のウイスキー熟成に使われた古樽で後熟させるのだ。
古樽はホッグスヘッドと呼ばれる約230ℓの容量のホワイトオーク樽。内側を焙煎(遠赤外線でトースト)して活性化させたもの。これに梅酒を詰めて山崎蒸溜所の貯蔵庫で約10ヵ月間熟成させる。この間にホワイトオークならではのバニラ様の甘みや、樽材に沁み込んだウイスキーのニュアンスが梅酒に溶け込んでいく。
一方、この梅酒後熟に使用した樽を再利用する。これにグレーンウイスキーを詰めて熟成をおこなう。梅酒樽後熟ウイスキー、梅の香味ニュアンスを抱いたウイスキーが生まれる。
最後にウイスキーのニュアンスをほのかに抱いた梅酒と、梅の香味ニュアンスを抱いたグレーンウイスキーをブレンドして仕上げる。
この「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」には香り高い華やかさがあり、味わいにはすっきりとした甘み、上質な深みと豊潤さが感じられ、余韻も長い。通常の梅酒にはないコクがある。
飲み方だがストレートやロックでじっくりと味わうほうがいい。17%のアルコール度数だから口当たりもスムースだ。もっと柔らかくという方は水割りをおすすめする。
ストレートやロックをおすすめしながら、やはり実験したくなる。カクテルでどう楽しむか、またまた仲良しのバーテンダーに無理を言う。梅酒なんだから和で攻めたい。日本で生まれた酒でまとめられたら最高だ。
そんな勝手な想いから、なかなかの秀作が生まれた。これまで経験したことのないユニークな味わい。
「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」に、国産米からつくられたジャパニーズクラフトウオツカ「HAKU」、そして日本を代表する世界的リキュール、メロンリキュール「ミドリ」、他にレモンジュースを加えてシェークする。
グラスに満たされると梅の香がほんのり優しく漂う。口に含むと独特のフルーティーな感覚に満たされ、梅のようなメロンのような複雑微妙な味わいが口中に広がる。でも、しつこさはない。すっきりとした後口だ。
ふくらみのあるジューシーさは「HAKU」という米から生まれたクラフトウオツカの特性が生みだすものだろう。味わいに潜む弾力性というか、しなやかな潤いがある。素晴らしいウオツカだと再認識した。
カクテル名は「五月晴」(さつきばれ)。旧暦5月は梅雨の季節。もともとは梅雨の合間の晴れをいう。
ちょうど梅雨の季節を迎えた。梅の実は青く輝く。そして「HAKU」の原料である米づくりにはこの時期の雨は不可欠となる。でも、ここにメロンの夏らしい味わいのニュアンスが加わることで、じめじめとした感覚だけではなく、梅雨時に登場する晴れ間をイメージした。
もう一品紹介しよう。こちらは「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」にジャパニーズクラフトジン「ROKU」を合わせたもの。他にレモンジュースを加え、ジンジャーエールで満たすハイボールスタイル。和のボタニカルが煌めくクラフトジン「ROKU」と梅酒がうまく溶け合い、レモンの酸味が味わいを引き締めている。
ジンジャーエールの量は控えめのほうがいい。すっきりとした甘さというだけでなく、好みではあるが、ジンジャーエールの甘みが立ち過ぎると梅の感覚がぼやけてしまう。
カクテル名は「五月雨星」(さみだれぼし)。うしかい座で最も明るい星アークトゥルスの和名のひとつ。五月晴の日没後の天頂近くで明るく光る星であることからこの名がつけられているそうだ。申し訳ないがわたしは見たことがないので、この6月は探そうと思っている。
さて、こんなふうにカクテルでもいろいろと楽しめるのだが、「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」をまずは買い求めていただきたい。ストレートでひと口飲んだなら、それからは自宅に常備したくなるはずだ。絶対に。