Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

レモン哀歌

ルジェ レモン 30ml
ドランブイ 20ml
熱湯 適量
ビルド/耐熱グラス
2種のリキュールをグラスに注ぎ、熱湯を適量入れて、スターアニスを浮かべる

シトロン・フィズ

ルジェ レモン 30ml
ビーフィータージン
47度
15ml
レモンジュース 15ml
シュガーシロップ 1tsp.
ソーダ水 適量
シェーク/タンブラー
シュガーシロップまでの材料をシェークしてグラスに注ぎ、ソーダ水で満たす

恋は可愛いレモンの木

レモンという果実には不安定な不思議な魅力がある。色のせいだろうか。温暖、チャーミング、ビタミンCといった笑顔あふれる快活さの一方で、色と酸っぱさが相まって、ためらいを生じさせたりもする。注意を示す信号機の黄色と同じように、危険を知らせるネガティブさもある。

それでも日本人はレモンに対してポジティブなのではなかろうか。反対に英語圏の国ではネガティブイメージで捉えられているそうだ。

見た目はいいが、酸っぱいだけ、という感覚が強いらしい。不良品、魅力欠如、マヌケ。役立たずの価値がないものの象徴で、たとえばlemon carは欠陥車のことを言う。

フランスではレモンは何故か青(緑色?)の印象で語られており、顔色のよくない不健康なイメージに使われるそうだ。南仏コート・ダジュールには盛大なレモン祭りで知られる町があるのに、理解し難い。

イタリア人はどうなんだろう。料理にはいっぱいレモンを絞りかけるし、日本の梅酒に通じるレモンチェッロというマンマの酒もある。地中海沿岸地域に生きる人たちはポジティブイメージのはずだ。

かつての名高いフォークグループ、PPMことピーター・ポール&マリーのデビュー曲は『Lemon Tree』(1962年)。歌詞がとても面白い。

10歳の頃、父親からレモンの木の下で教えを受けた。レモンの木は可愛い。花は甘い香り。でもな、果実は食べられたもんじゃない。恋に溺れちゃ駄目だ。恋は可愛いレモンの木なんだ。

やがて恋人ができ、レモンの木の下で愛を語り合うようになる。父親からの教訓は、すっかり忘れていた。そして彼女には別の恋人ができる。

軽快なメロディーにのってPPMのコーラスは、レモンの木は可愛くて、花の香りは甘いけど、果実は食ベられたもんじゃない、と繰り返す。

これがレモンに対する英語圏の人たちの感覚なんだろうな。

先日、花冷えの夜にバーに行った。ホットウイスキーでも飲みたい気分だったが、口はなんだか甘酸っぱさを欲していた。バーテンダーにそのことを伝えると、しばらく空を見つめて考えてから「ちょっと遊んでいいですか」と言って即興でホットカクテルをつくってくれた。

使用するのはフランスの老舗リキュールメーカー、ルジェ社の「ルジェレモン」。15年熟成のウイスキーにヘザーハニー、柑橘類やハーブのスパイシーさを抱いたスコットランドのリキュール「ドランブイ」。これに熱湯を加え、スターアニスを浮かべたホットカクテルだった。

わたしはひと口啜ると「ハイカラな味わいだね」と呟いていた。レモンやハーブの味わいがミックスされた、木の芽の季節の感覚を漂わせた独特のエキゾチックさで心身を温めてくれた。

レモンの不思議な魅力とチカラ

日本の柑橘系では古くから蜜柑がある。明治になって檸檬(レモン)が海を渡ってきたとき、なんてハイカラなんだろう、と感じたのではなかろうか。海外のエキゾチックでお洒落なイメージが強く擦り込まれてしまい、ポジティブな感覚のほうが勝っていったのではなかろうか。

詩の素養はわたしにはない。しかしながら高村光太郎(1883-1956)の『レモン哀歌』という詩が日本人に少なからず影響を与えたのでは、と考えるのは飛躍し過ぎだろうか。

詩集『智恵子抄』(1941年発表)に収められたこの詩は、愛する妻、智恵子(1886-1938)が息を引き取る刹那(せつな)を描いたものだ。光太郎はレモンを手に病院へ向かったそうだ。

詩のなかで、病床で衰弱しながらも智恵子はレモンに歯を“がりり”と立てる。束の間、清々しい香りと果汁の酸味が彼女を覚醒させる。光太郎にはレモンが彼女の心身を浄化させているように想えたのだろう。

そして詩は“写真の前に挿した桜の花影に すずしく光るレモンを今日も置かう”で終わる。

この詩を知ったのは中学生のときだっただろうか。モノトーンの世界にレモンの黄色だけがやけに鮮烈に浮かび上がってくる印象があった。詩の描写から作者の心理を深く読み取るには、わたしは幼かった。

でも、これがレモンの不思議な魅力、チカラなのかもしれない。PPMの歌の教えもありだが、人に光を与えもする。教訓はひとつだけじゃない。

花冷え即興ホットカクテルの名は、「レモン哀歌」に決まった。

昔の喫茶店ではレモンスカッシュが人気だった。居酒屋のレモンサワーはいままたブームである。バーの定番カクテルには「ジン・フィズ」がある。レモンはドリンクの世界でも確固たるポジションを保ちつづけている。

シェークする「ジン・フィズ」はすっきりとしたレモンの香を放つ、キレ味のよさがある。ビルドで材料からジンを省けばレスカ、ジンを焼酎に変えれば居酒屋レモンサワーとなる。みんな親戚関係、レモンの魅力だ。

花冷えの夜に「ルジェレモン」を使った「ジン・フィズ」のアレンジカクテルも生まれた(左レシピ参照)。こちらは「ジン・フィズ」に比べコクがあり、レモンリキュールの味わいの滑らかさを生かした味わいといえる。名付けるならば「シトロン・フィズ」となるか。

最後に、いま忙しくてバーや居酒屋には行けない、という人のために、素晴らしい製品を紹介しておこう。缶入り「こだわり酒場のレモンサワー」。嫌な甘みがなく、爽やかな透明感がある。自宅でグビッと、どうぞ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ルジェレモン
ルジェ レモン

ドランブイ
ドランブイ

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