Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ジン・ビターズ

シップスミス
ロンドンドライジン
1グラス
アロマチック
ビターズ
3drops
ビルド/スピリッツグラス
冷凍庫で冷やしたジンを、同じく冷凍庫で冷やしたグラスに半分程度注ぎ、3滴ビターズを落とす。そして再びジンで満たす(注/上記はスタンダードなレシピとは異なる。連載76回本文参照)

ドライ・マティーニ

シップスミス
V.J.O.P.
4/5
ドライベルモット 1/5
ステア/カクテルグラス
ステアしてグラスに注ぎ、レモンピールを絞りかけ、オリーブを飾る

ジン・ソーダ

クラフトジン
[ROKU]
45ml
ソーダ水 適量
ビルド/ワイングラス
氷を入れたグラスにジンを注ぎ、ソーダ水で満たす(通常はタンブラー)

ホップの帝王とポップの帝王

クラフトジンが注目され、「ジャパニーズクラフトジン[ROKU]」の海外での評価も高い。世界的なプレミアムブランドへの道を着々と歩んでいる。

現在のクラフトジン・ブームの先駆けとなったのがロンドンジンの伝統的な製法を探求してつくりあげられた「シップスミス」である。

製造は2009年(蒸溜所免許取得2008年)にはじまる。これは200年近い時を経て、ロンドンでのジン製造の歴史的な復活でもあった。

1820年以降、ロンドンでは新たなジン蒸溜所建設はおこなわれていなかったそうだ。急激な人口増加と土地問題、酒税改正やアルコール規制などさまざまな要因が重なり、新蒸溜所着工はもちろん蒸溜所維持、設備増強などが難しくなったのである。

ジンの世界的なビッグブランドにおいて現在ロンドン市内で製造しているのがビーフィーター社のみというのは、こうした背景がある。

このクラフト蒸溜所の新設だけでも十分に世界の注目を集める大ニュースでもあった。そしてわたしにとっても小話が生まれた印象深いジンである。

5、6年前、「シップスミス」が話題にのぼりはじめた頃。あるバーでバーテンダーがわたしに「シップスミスの蒸溜所、以前はマイケル・ジャクソンのオフィスだったそうですね。物件を探していて、偶然だったようですが」と言った。「えっ、そうなの。面白いね。大袈裟だけど、彼のスピリッツが宿ったジン、なんて言い方もできる」とわたしは応えた。

するとカウンター席隣でやり取りを聞いていた30歳前後の男性が「すみません、ちょっといいですか」と声をかけ、「あの、それはマイケルが亡くなった頃の話ですよね。マイケル、ロンドンにオフィスを置いていたんですか。その場所、どこかわかりますか」と真顔で聞いてきた。

わたしは質問の意図がわからなかったのだが、バーテンダーがすぐに「いや、そっちのマイケルじゃなくて、酒の著名な評論家に同姓同名のマイケル・ジャクソンという人がいたんですよ」と説明してくれたので飲み込めた。

評論家マイケル(2007年逝去)はウイスキーで名高いが、最初はビール評論家として“ホップの帝王”になった。ベルギービールを世界に紹介した偉大な功績がある。ところが男性は“ポップの帝王”と勘違いしたのだった。

2009年にシップスミス蒸溜所が蒸溜を開始し、そして“ポップの帝王”が亡くなった年でもあることをわたしがしっかりと記憶できているのは、その男性のおかげである。

男性は勘違いに苦笑しながら「おいしいジンなんですか」と聞いた。バーテンダーは「わたしは真似できませんが、飲んだらムーンウォークしているような心地になるかもしれません」と見事に切り返した。

シングルモルトとブレンデッドウイスキー

いま「シップスミス」は2タイプの味わいを楽しめる。

ひとつは「シップスミス ロンドンドライジン」。アルコール度数41%のもので、ストレートの香りには華やかさのなかに牧草のような、スパイシーな感覚がある。味わうと、すっきりとしたジュニパーベリーの涼風がレモンやオレンジの柑橘系の口中香をともなってそよぐ。

あえて冷凍庫で冷やし、ストレートでアルコール感のある甘く柔らかい味わいを楽しんでみていただきたい。わたしは途中、グラス半分ほど飲んだらビターズを加え、またさらにジンを足して「ジン・ビターズ」にして味わう。しなやかな甘さに苦味のキックを与え、香味の変化を楽しむ。もちろん正攻法に「ジン・トニック」もいい。独特の華やかさがある。

もうひとつは「シップスミス V.J.O.P.」(Very Junipery Over Proof)。こちらはアルコール度数57%。しかも「シップスミス ロンドンドライジン」の約3倍ものジュニパーベリーを使用しているらしい。ジュニパーベリーの香味をより際立たせるために高い度数に設定しているようだ。

ストレートで口に含めば辛口といってよく、ジン・ファンのなかにはエッジの効いた香味に歓喜する人もいるだろう。

カクテルならばやはり「ドライ・マティーニ」がふさわしい。飲み手の好みであるが、ドライ派はジン7対ベルモット1くらいを試すといいだろう。わたしはあまりにドライ過ぎるマティーニは好みではない。5対1あるいは4対1を味わう。4対1でも「V.J.O.P.」はなかなかのキレ味がある。

できるならば「ジャパニーズクラフトジン[ROKU]」と飲み比べていただきたい。同じクラフトジンであっても香味特性は明らかに「シップスミス」とは異なるものだ。

ウイスキーの世界でいえば、「シップスミス」はシングルモルトといえるだろう。[ROKU]はベースの本格ドライジンに日本の四季の恵みのスピリッツが溶け込んでおり、上質なブレンデッドウイスキーといった感覚になる。日本が世界に誇るブレンデッドウイスキー「響」の高い品質感に似ている。

ストレートで飲めば桜、茶、山椒や柚子などのボタニカルの香味を探りながら味わう楽しみがある。だからカクテルにしてもあまり触らない、いじらないほうがわたしは好きだ。[ROKU]を堪能するには、シンプルにすっきりとソーダ水で割るのがいちばんではなかろうか。この場合、タンブラーではなく、ワイングラスで香りを楽しみながら飲むのもいい。

ではクラフトジンの扉を開いて、それぞれの個性を感じ取っていただきたい。ムーンウォークな心地に浸れるはずだ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

シップスミスロンドンドライジン
シップスミス
ロンドンドライジン

シップスミス V.J.O.P.
シップスミス V.J.O.P.

ジャパニーズクラフトジン「ROKU」
ジャパニーズクラフトジン
「ROKU」

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