生足(ナマ足、生脚)って言葉はいつ頃から使われ出したのだろうか。ルーズソックスが流行ったのと同じ、1990年代だったのではなかろうか。あるいは2000年代に入ってからのことか。
足の状態を表す単語がとても面倒になった。だって裸足(はだし)もあれば素足(すあし)もあるところに新参者、生足がいきなり大威張りなんだもの。裸足、素足、生足の違いを説明しろ、と言われたら面倒臭い。時間もかかる。
一方、最近ではイギリス王室のキャサリン妃、メーガン妃のファッションの話題に、ストッキングがどうだ、こうだ、と取り上げられたりもして、対極の側にも注目が集まっている。
生足ってのは女性に使われるものであろう。セクシーさとして捉えられてもいるが、足という漢字を使うと面倒なのでここからは脚に代えて語る。
大昔、脚は男性のものだった。15世紀頃に布製のホーズ(腰まであるタイツ/現在ホーズはイギリスで長靴下をいう)が貴族階級の男のファッション・アイテムとして不可欠になった。
イングランド王ヘンリー8世(1491-1547)はシルクのホーズの愛用者で、プレゼントにも用いていた、と伝えられている。また、娘のエリザベス1世(1533−1603)が、木の枝(stock)を使った編み棒による手編みのシルクの靴下を世界で初めて履いたことにより、ストッキングという名が広まり、定着したという説がある。
そして17、8世紀のヨーロッパ絶対王制時代、男の脚が力強さを示した。絶対美としてシンボリックなものとなる。
王をはじめとした権力者は力強く美しい脚線美を誇示するために苦心したのだ。そして華麗な脚線美のためのアイテムとして金糸や純白で縁取りされたシルクのストッキングを着用したそうだ。ふくらはぎにはパッドを入れて太く見せるように工夫する。早い話、筋肉美で魅了したのである。
フランス、ルイ14世(1638−1715)の肖像画の立ち姿はとても興味深い。ピチッとしたストッキングを履き、加えてハイヒールである。できるだけ長く美しい脚線美になるよう気を遣っていたことがわかる。彼は日常においてもバレエの所作を取り入れ、エレガントさを大切にした。
女はというと、脚は長いドレスに隠す。見せない。見せてはいけない。脚部露出はタブーだった。ましてや生足を見せるなんてことは冒涜的行為であった。逆に言えば、昔から性的シンボルだったということになる。
ただしエリザベス1世の場合は、ちょっと違う。シルクの履き心地だけではない。宮廷での舞踏会で、ダンスをしながらスカートの裾が揺れ上がり、ストッキングの華麗な刺繍がチラチラッと見える。彼女はそれを意識して、跳ぶように踊ったといわれている。これがとてもお洒落だったのだ。脚部露出タブーの時代に足下のファッションを広めた先駆者だったといえよう。
女性の脚部露出タブーの時代は長い。女性の脚が見えはじめたのは20世紀になってからで、ほんの100年前くらいのこと。完全に足首が見えるようになるとスカート丈はだんだんと短くなっていき、1960年代ついに膝上丈のミニスカートが登場する。
19世末からのレーヨン(人絹)の時代を経て、1940年にアメリカで発売されて大量生産となったのがナイロン・ストッキングである。これがスカート丈の長さとシンクロして一時代を築くことになる。そして21世紀のいま、生足とともにシルクのストッキングがまた見直されてきているようだ。