Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

グリオットチェリー・ロワイヤル

ルジェ
グリオットチェリー
1/6
シャンパン 5/6
ビルド/フルート型シャンパングラス
分量は1対5から、シャンパンの味わいを強調したい場合は1対9くらいまでお好みでどうぞ

バレンシア

ルジェ クレーム
ド アプリコット
1/2
オレンジジュース 1/2
オレンジ
ビーターズ
1dash
シェーク/カクテルグラス

太宰治に教えられる

酒場で小説の話になると、決まって「小、中、高と3回、太宰治の『走れメロス』で読書感想文を書いた。太宰には大変お世話になった」と得意気に話す友人がいる。読書家の彼とは大学時代からの付き合いだから、おそらくもう30回以上はこの話を耳にしているはずだ。

その場に他にも友人がいるときはいいのだが、彼とわたしのふたりきりで飲んでいるときに『走れメロス』が登場した途端、もういけない。毎度わたしは「そうか。3回も書いたのか」と答えたきり黙ってしまい、しばらく話が弾まなくなってしまう。

太宰の名作といわれている作品をわたしは苦手としている。学生時代にしっかり読もうと何度も挑戦してみた。しかしながらどの作品も途中から超猛スピードの斜め読みになり、結末まで辿りつくと「ああ、こういう話なんだ」で片付いてしまい、何の感慨も湧いてこない。このエッセイの読者に熱烈な太宰ファンがいらっしゃったらゴメンナサイ。

なんとなく好感を持って読めたのは、『ヴィヨンの妻』の中に収録されている『親友交歓』と『トカトントン』の2作品である。しかも大学生の頃に読んだ作品だから、いまとなっては筋を忘れてしまっている。

友人がまんざらでもない顔で語る『走れメロス』は、たしか小学校の教科書に載っていたような気がする。たぶんその頃は面白いと思って読んだはずである。それから随分と歳を重ねてはいるが、作品について語れるほどの文学の素養がわたしには身に付かなかった。わたしなんぞよりはるかに読書家の友人はといえば、何故か『走れメロス』以外の太宰作品に一度も触れたことがないらしい。


さて、6月。この月のTVニュースのトピックスのひとつとして、よく取りあげられるのが“桜桃忌”(おうとうき)である。

太宰が1948年6月13日、東京三鷹市近郊の玉川上水で愛人と入水自殺した(享年38)。遺体が上がったのが6月19日で、奇しくもこの日は太宰の誕生日であり、さくらんぼの季節と太宰晩年の作品「桜桃」にもちなみ、太宰を偲ぶ日として桜桃忌(太宰忌とも)と名づけられたようだ。

実はわたしはこの短編によって、さくらんぼのことを桜桃と呼ぶのだということを知った。内容はちっとも理解できなかったが、作品は苦手であっても太宰に少なからず恩恵を受けている訳である。そしてさくらんぼが店頭に並びはじめると、桜桃の季節になったのか、と毎年呟くようになった。

そして誰かがわたしに桜桃について何か書け、ともし命じてきたら、桃は好きだが桜は嫌いだ、なんてすっとこどっこいな文章を書いちまうんだろうなと苦笑しつつチェリーリキュールを使ったカクテルを想い浮かべる。

桜桃と杏子の季節

世界的に名高いチェリーリキュールに第14回『さくらんぼの実る頃』で紹介したデンマークの「ヒーリング チェリー」がある。今年はこれに新たな選択肢が加わった。3月に登場した「ルジェ グリオットチェリー」である。

ルジェ・ラグート社はフランス・ブルゴーニュ地方に1841年に生まれたフルーツリキュールメーカー。とくにカシスリキュールの「ルジェ クレーム ド カシス」は世界的な名品として知られている。他にも素晴らしいフルーツリキュールをたくさん創造してきているが、わたしは「ルジェ クレーム ド アプリコット」も逸品だと大きな声で言いたい。

そして「ルジェ グリオットチェリー」である。グリオットとは桜桃のフランス語。一般にはサワーチェリー(酸果桜桃)に分類され、英語ではモレロチェリーと呼ばれている。

チェリーは大まかに3つに分類されるらしい。甘くてそのまま食べることが多いのがスイートチェリー(甘果桜桃)。生でそのままだといくぶん甘みが弱いので、ジャムやシロップに漬けたり料理のソースやスイーツに使われるのがサワーチェリー。もうひとつはジビエ料理に使われたりする酸味が強く、渋みもあるワイルドチェリー(野生桜桃)がある。

新登場のグリオットチェリー・リキュールはルジェ・ラグート社ならではのみずみずしさがあり、甘みと酸味のバランスがとてもよい。まずは手軽にソーダ水で割って楽しんでいただきたい。

とくにおすすめは「グリオットチェリー ロワイヤル」。シャンパンで割ると上品な香り立ちに、天使のいたずらのようなシャンパンの泡の可憐な小珠が麗しい味わいを運んでくる。眩い陽光に似た華やぎがあり、太宰の桜桃の世界とは随分とかけ離れている。当たり前の話だが、ひと口にチェリーといっても、その様子、姿や味わいで印象は大きくかわってくる。


6月は杏(あんず/杏子とも)の季節でもある。そこでわたしの一押し、ルジェ社 のアプリコット・リキュールも紹介しよう。わたしはアプリコットはルジェに限る、と言いたい。他のブランドのアプリコットはアマレットの味わいに近く中途半端な味わいのような気がする。それならば「ディサローノ・アマレット」のほうがはるかにいい。

カクテルは「バレンシア」。バーテンダーにはあえてアプリコット・リキュールとオレンジジュースの1対1にしてもらい、ジューシーな感覚を高める。この飲み心地は素晴らしい。口中から胸中へ地中海の光があふれるような明るい気持ちになれる。是非にとおすすめする。

チェリーリキュールに関するエッセイはこちら

第12回「さくらんぼの実る頃」ヒーリングチェリー

第43回「イギリス諜報員は飲んだか」シンガポール・スリング

ルジェ クレーム ド アプリコットに関するエッセイはこちら

第22回「フランス領ルイジアナ」

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

ルジェ グリオットチェリー
ルジェ グリオットチェリー

ルジェ クレーム ド アプリコット
ルジェ クレーム ド アプリコット

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