Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

クラウンジュエルロック

ビーフィーター
クラウンジュエル
45ml
ロックグラス
好みでグレープフルーツピールを添える

ジントニック

ビーフィーター
クラウンジュエル
45ml
トニックウォーター 適量
ビルド/タンブラー
好みでカットライムやレモンを添える

ビッグ・ベンとロンドン塔

ロンドンの中心部、テムズ川の河畔にウェストミンスター宮殿がある。イギリスの国会議事堂であり、ビッグ・ベンの愛称で知られる大時計台というか時計塔を象徴としている。正午に奏でられる鐘の音は、日本の学校で鳴る、あのチャイムのメロディである。

学校嫌いで、サボることばかり考えている少年だったわたしが、大人になってロンドンへ行き、はじめて正午のビッグ・ベンの鐘を耳にしたときはかなりショックを受けた。ロンドンに来てまでこのメロディを聞くとはなんてこった、と脱力感を覚えた。

曲名を“ウェストミンスターの鐘”というらしい。日本では学校や防災無線のチャイムに取り入れたのだと知り、そうか仕方がないか、ビッグ・ベンにはなんの罪はないからな、とこころに言い聞かせつつ、新しいメロディに変更すればいいのに、と呟いてしまった。誠に申し訳なく、失礼なことをした。

ただし宮殿は見事なまでの荘厳な建造物である。現在の建物の主要部分は1834年の火災で焼失した後、1840年の礎石から20年の年月をかけて築き上げられたものだ。ただし1941年にドイツの爆撃で一部が破壊され、1950年に復元されている。ちなみにビッグ・ベンは1859年に完成している。

この威厳と格式に満ちたウェストミンター宮殿をテムズ川の対岸(南側)から臨む場所、ケニントン地区のモントフォード・プレイスにビーフィーター蒸溜所(蒸溜所は1820年創立)がある。

ジンといえばロンドン・ドライジン、といわれるほど名高い。しかしながら世界的なイギリスのジン・ブランドで現在もロンドンの地でジンをつくりつづけているのは「ビーフィータージン」だけである。ウェストミンスター宮殿のお膝元で、伝統と誇りを守りつづけている。

面白いのは、ビーフィーターとはロンドン塔の衛兵の愛称であり、ロンドン塔は蒸溜所近くのウェストミンスター宮殿よりもずっと東のテムズ河畔にあることだ。「ビーフィータージン」を生んだジェームズ・バローは王室を愛したのであろう。

ここには王室に伝わる王冠、宝剣、宝石などの歴史的な宝飾品が多数納められている。ジェームズにとって生粋のロンドン・ドライジンのブランド名には、王室の威厳を守り、イギリスに繁栄をもたらす、といった気概を込めたかったのではなかろうか、とわたしは決めつけている。

とにかく、ブランド名が衛兵の愛称でよかった。もし「ビッグ・ベン」という名だったら、いくら素晴らしい香味を誇っていても、わたしの場合は飲むたびに学校のチャイムの音がアタマの中で響き、嫌になっちゃったかもしれない。

力強い厚みと柑橘系の爽やかさ

さてジン製造は最初、穀類(麦芽、トウモロコシ、ライ麦など)を原料に仕込み、連続式蒸溜機でアルコール分95%以上のグレーンスピリッツを得る。次に単式蒸溜器(ポットスチル)で再蒸溜する。

「ビーフィータージン」の大きな特長はグレーンスピリッツを入れた単式蒸溜器内に約24時間にわたり風味を決定づけるボタニカル類(草根木皮)を浸し、そして再蒸溜する点だ。このスティーピング(浸漬)をまる一日かけておこなうドライジンは稀である。

ジンの多くはボタニカルの浸漬時間がもっと短く、また蒸溜器内の上部にジン・ヘッドと呼ばれる上下金網の円筒にボタニカルを詰めて、蒸溜によって立ちのぼるスピリッツ蒸気とともに香味成分を抽出するやり方をおこなっている。また最近ではグレーンスピリッツにハーブやフレーバーエッセンス、糖分などを加えただけのコンパウント・ジン(いわゆる合成酒的なジン)も見かけられるようになった。


ジンの風味の特長として、日本で杜松(ねず)の実と呼ばれるジュニパーベリーが不可欠である。「ビーフィータージン」はそのジュニパーベリーの他、レモンピール、セビルオレンジピール、コリアンダー・シード、アンジェリカ・シード、アンジェリカの根、アーモンド、オリスの根(におい菖蒲)、リコリス(甘草)の9種の高品質な天然ボタニカルを使用している。

薬学の知識のあったジェームズはこれらの配合研究を重ねた。彼の大きな功績はジンではじめてセビルオレンジのピールを採用したことである。これにより他にはない、力強く柑橘系のフレーバーが豊かなジンを完成させた。

この4月にプレミアムジン「ビーフィーター クラウンジュエル」が発売された。かつて免税店限定品であったものだが、ファンの熱い声に応えて数量限定で再び登場となった。

上記の天然ボタニカルに加えてグレープフルーツを使用することで、より爽やかな柑橘系の味わいに仕上がっている。ストレート、ロックでじっくりと味わうことをおすすめする。アルコール度数50%の力強さに香味としての厚みが感じられるなか、グレープフルーツが効いているのだろう、独特の爽やかさがある。ジン愛飲家にはたまらない味わいのはずだ。カクテルにするならば「ジントニック」ですっきりと。

わたしはロックで味わってみた。なんともいえぬ心地よさがある。ただし先述したように数量限定。もし運良く行きつけのバーにあったなら是非どうぞ。

(「ビーフィータークラウンジュエル」は現在取り扱っていません)

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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