Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ホット・バタード・ラム・カウ

ロンリコ ゴールド 30ml
ブルガルアネホ 15ml
角砂糖 1個
バター
(角砂糖大)
1片
牛乳 適量
ビルド/タンブラー
温めたタンブラーに角砂糖を入れ、少量の牛乳で溶かす。2種のラムを注ぎ、温めた牛乳を満たし、軽くステア。バターを浮かべ、シナモンスティックを添える

ホット・バタード・ラム

ブルガル1888 45ml
角砂糖 1個
バター
(角砂糖大)
1片
熱湯 適量
ビルド/タンブラー
温めたタンブラーに角砂糖を入れ、少量の熱湯で溶かす。ラムを注ぎ、熱湯を注ぎ、軽くステア。バターを浮かべ、シナモンスティックを添える。好みでクローブを数粒浮かべる

水で薄めてグロッギー

ラムという蒸溜酒は、英国海軍と深い関わりがある。樽で長く寝かせるダークラムは、彼らが生んだともいえる。ラム酒の誕生や語源はこのサイト内にある『スピリッツ入門』をご一読いただくとして、今回は英国海軍の酒として語ってみることにする。

非公式として、英国海軍ではじめて水兵にラムが支給されたのは1655年のことだといわれている。前年末にペン海軍中将の艦隊は植民地拡大のためにカリブ海、西インド諸島のバルバドスの海軍基地に到着。すぐさまスペインと戦い、ジャマイカ島を征服した。ペン中将はその時、船上で海兵にラムの支給をおこなったとされている。

当時、航海中の飲料は樽に入れた水とビールだけだった。飲料は極めて貴重であり、どこかに寄港しないかぎり補給することはできない。冷蔵設備のない時代だから日持ちもよくない。それぞれの艦の艦長は貯蔵量に従いながらも、自らの裁量でその日その日の配給量トット(tot/一杯、少量)を決めていた。

英国海軍はビールの代わりにワインやブランデーの配給も許していたが、西インド諸島ではどちらも入手することは不可能だった。そこで特産の蒸溜酒ラムの登場となったのである。

それからは西インド諸島の英国海軍拠点基地ではラムの配給が慣例化するようになる。やがて1731年、海軍省はラムの1日のトットを一人1/2パイント(1パイント568ml)と決定し、1日2回に分けての配給を公式に承認した。

海軍省は1740年にはトリニダード、バルバドス、ジャマイカ、南米ガイアナのデメララ産といったラムを本国に輸送させ、ロンドン東部のテムズ川河畔に位置するデッドフォードで食料供給部にブレンドさせるようになった。この供給所は1961年に閉鎖されるまでつづいた。

ただし1日半パイントものラムは暴飲を招く。そんな海兵に艦隊勤務をつづけさせなくてはならない艦長はたまったものではない。

そこで同じ1740年、バーノン提督はラム配給前に水で薄めることを強制。さらにライムジュースと砂糖を加えることを奨励する。もちろん当初は「水で薄めるなんて」と乗員から不満の声が上がった。

ケチ臭いという意味合いも含め、バーノン提督がいつも着古したグロッグラム・クローク(ウールとシルクの交織の目の粗い生地)という防水性の外套を羽織っていたことにかけて、海兵たちはラムの水割り(混ぜ物)を“グロッグ”と呼ぶようになる。やがてアルコール分の弱い酒でも飲み過ぎればフラフラになるところから“グロッギー”(groggy)という言葉が生まれた。

このグロッグ、ライムジュースが入ったことで長い航海で不足するビタミンCを補い、壊血病対策につながった。当時はそんな効能はわかっていなかったが、バーノン提督の強制した規則は大きな効果をもたらしてもいる。

グロッグにライムジュースを加えた飲み物は“ライミー”と呼んだ。また英国船や英国海兵には“ライムジューサー”のあだ名がつく。

面白いことに、海軍省ではその後も配給量や水を何倍に薄めるかの検討、変更が何度もおこなわれており、その度に“グロッグ委員会”なるものが開かれている。提督を揶揄したドリンク名がいつの間にか公式に承認されていたのだ。

寒さに負けそうな夜に、ホットラム

英国海軍のラム配給は非公式には300年以上、公式には200年以上つづく。最後のラム配給日は1970年7月31日。“ブラック・トット・デー”と呼ばれている。海軍関係者や西インド諸島をはじめとした海軍にラムを供給していた蒸溜業者たちはこの日、悲しみのあまり喪章をつけたという。

尚、現在「グロッグ」というカクテルは、ダークラム、レモンジュース、角砂糖、シナモンスティック、熱湯という材料でつくるホットドリンクとして飲まれている。単にラムの水割りを指す場合もある。


では、この季節にふさわしいラムベースのホットドリンクを紹介しよう。まずひとつ目は「ホット・バタード・ラム・カウ」である。

カクテルブックのレシピではゴールドラムとダークラムを使う。それに角砂糖、バター、温かい牛乳を加える。寒さに疲労した身体の滋養にふさわしいカクテルだといえる。甘くコクのあるミルキーな味わいを想像できるはずだ。優しくふくよかな味わい。

ただしわたしはゴールドとダークを使う意味がわからなくて、ダークだけでいいじゃんと思いつつ、いろんなラムを組み合わせて遊ぶ。今回はまろやかなプエルトリコ産「ロンリコ ゴールド」と、2年〜5年樽熟成原酒をブレンドしたほのかなチョコレート香のあるドライなドミニカ共和国産「ブルガルアネホ」。深い意味はない。美味しいからいいじゃん、なのだ。

もうひとつは「ホット・バタード・ラム」。これはダークラムに角砂糖、バター、そして熱湯でつくる。ラムは8年ホワイトオーク樽熟成後、さらにスパニッシュオークのシェリー樽熟成させたスーパープレミアムラム「ブルガル1888」。ラムのコクとバターのコクが溶け合ってまったりとした感覚があるが、割材が熱湯である点、こちらのほうがラムの味わいをしっかりと堪能できる。

牛乳かお湯かの違いは大きい。でも、どちらも美味しい。気分しだいってこと。寒さに負けそうな夜にラムの温かい味わいを、さあ、どうぞ。

(「ブルガル」は現在取り扱っていません)

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ロンリコ ホワイト
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