Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ティフィン・ティードライバー

ティフィン 30ml
オレンジジュース 90ml
ビルド/ロックグラス
オン・ザ・ロックで味わう。
別名「ティフィン・オレンジ」

ティフィン・ティングラー

ティフィン 20ml
ライムジュース 20ml
クルボアジェV.S.O.P. 10ml
ソーダ水 適量
ビルド/タンブラー
グラスに材料を入れ、
氷を加えて
ソーダ水を満たす。

激しいティーレース時代の一喜一憂

紅茶の国といえばイギリスである。減少傾向といわれるものの、国民1人当たりの年間消費量がティーカップ換算1000杯以上の国だけに、いろいろな紅茶物語がある。

喫茶の習慣を広めるきっかけをつくったのはトーマス・トワイニング。17世紀末に中国茶貿易で独占権を握った東インド会社との取引関連の仕事をしていた彼は1706年、ロンドンの金融中心街シティの西側、ストランドにあったコーヒーハウスを買収する。

その頃は上流階級、富裕商人の間でコーヒーが大ブームだったのだが、彼は良質な紅茶を販売して評判を得るようになる。1717年にはコーヒーハウスの隣にイギリス初の紅茶専門店「ゴールデン・ライオン」をオープンした。茶貿易が一大産業として大英帝国発展を担うようになるその先駆けとなった店であり、およそ300年経った21世紀のいまも同じ場所で営業している。

トーマスの功績は、女人禁制だったコーヒーハウスに対して、「ゴールデン・ライオン」を女性でも自由に出入りできるようにし、厳選された茶葉の量り売りをはじめたことだった。これが喫茶の習慣につながり、1723年には茶の輸入がコーヒーを上回るまでになった。

さらに追い風が吹く。1784年に茶葉が大幅減税となる。それまで東インド会社からの正規ルートには高い税金がかけられ、オランダ経由の密輸が横行していた。減税となり密輸のうま味は消滅。価格が下がり、中流階級への紅茶普及へとつながっていく。王室が茶を愛したことも大きい。ただし労働者階級にまで喫茶が広がり、真の国民的ドリンクとなったのは1890年代からになる。

さて、ここからはちょっと切ないティークリッパー、茶葉輸送高速帆船の話をしよう。1834年、東インド会社の中国茶貿易の独占権が終了。自由競争の時代となり、さまざまな船主が競うように輸送に参戦する。ティーレースのために高速帆船が次々に造船された。イギリスに限らず海外からの参戦もあった。

とくに新茶の場合、インドや中国からいち早くイギリスに届けることのできた船主、船長だけが莫大な利益を得た。東インド会社の船団は中国からイギリスまで18~24ヵ月かけて茶葉を運んでいた。ところが、ティークリッパーが登場すると12ヵ月となり、ついには年内輸送が可能となる。そして輸送日数はどんどん短縮、更新され、スポーツのように記録に一喜一憂するまでになった。

ボンタンアメ風味の紅茶カクテル

ここで登場したのが帆船カティサーク号。実はとても不運な高速帆船だった。登場が遅過ぎたのだ。1869年11月17日スエズ運河が開通。カティサーク号はその5日後に進水式をおこなった。悲しいかなスエズ運河は強い風を期待できず、帆船には向かない。早い話、時代は蒸気船の時代になっていたのである。

それでもしばらくはクリッパーが活躍した。蒸気船は石炭を搭載するため荷物の積載量が少なくなり、途中で給炭地に寄港するため金もかかる。さらには当時、鉄の船は茶葉を劣化させると信じられていたこともある。

カティサーク号は花形だった。上海からイギリスまでを107~122日で航海した。しかしながら主役が完全に蒸気船になると茶葉に変わりさまざまな荷を運ぶしかなく、最終的には羊毛船となる。1892年にシドニーとイギリス間72日という記録を打ち立て、蒸気船をも追い抜くという輝かしいエピソードを持つ。

だが華やかだったのはそこまで。ついにはポルトガルに売られ、後にイギリスに買い戻されるのだが、長く忘れ去られた悲運の船となる。

前回エッセイでゴルフの聖地、スコットランドのセント・アンドリュース・ゴルフコースについて少し触れた。実はセント・アンドリュースのクラブ旗とスコットランド旗を掲げるクラブハウスのポールは、帆船カティサーク号のメインマストだったものである。


さて、高級茶葉を贅沢に使ったリキュールがある。イギリス産ではなくドイツのアントン・リーマーシュミット社(創業1835年)が生んだ「ティフィン」は、ティーリキュールの代名詞といってもよいほどの名品だ。

このリキュールをカクテルでどう味わうか。ウオツカとオレンジジュースの「スクリュードライバー」のアレンジ、「ティフィン・ティードライバー」(ティフィン・オレンジとも)をおすすめする。口に含むと、なんだか和の感覚が漂う。後口に紅茶の風味とともに枇杷(びわ)のような甘みと酸味が感じられる。よく知っている、ちょっと懐かしい味わいなのだ。

友人が「この味、ボンタンアメに似ている」と見事なたとえをした。ゼリー状のものをオブラートで包んだ古くからあるお菓子のことだ。

もうひとつ「ティフィン・ティングラー」も美味しい。「ティフィン」にライムジュース、少量のブランデーを加え、最後にソーダ水で満たす。紅茶にライムの爽やかな青っぽい酸味は強過ぎる、と想わせるが、ブランデーが巧みな調整役となり、ほどよい甘みとコクさえもたらしている。ソーダ割だからとても飲みやすい。

では最後に我が国のお話。日本人ではじめて本格欧風紅茶を飲んだのは、井上靖が小説『おろしや国酔夢譚』に描いた大黒屋光太夫であるとされている。1791年11月1日、ロシア女帝エカテリーナⅡ世の茶会に彼は招かれ、Tea with Milkでもてなされたそうだ。ゆえに日本では11月1日は“紅茶の日”となっている。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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