ウオツカというのは謙虚なスピリッツである。先日「ゴッド・マザー」を久しぶりに飲んで実感した。
このカクテル、スコッチウイスキーと杏(あんず)の核の芳香が効いたリキュール「ディサローノ・アマレット」を使った「ゴッド・ファーザー」のアレンジで、ウイスキーをウオツカに代えると「ゴッド・マザー」になる。
ひと口含んで感嘆した。「ディサローノ・アマレット」のアーモンド的な感覚はもちろんのこと、クリーミーさをうまく引き出しているのだ。
カクテルベースとしてウオツカはアルコール分というか、酒としての厚みをしっかりと出す役割を果たしながら、他の素材の風味を引き立てる。無色透明で、ほとんどがすっきりとしたキレを特長としているのだから当然ともいえるのだが、あらためてこのスピリッツの偉大さを認識した。
ところでウオツカは、歴史的にはロシアやポーランド、フィンランドをはじめ北欧、東欧系のスピリッツのイメージが強い。ポーランドでは11世紀には存在していたらしいし、ロシアでも12世紀には地酒として飲まれていたということだが、現代はウオツカといえばアメリカなのだ。生産量がいちばん多い国はアメリカであり、ブランドも数がわからないほどたくさんある。
この連載の第2回でも触れたが、1970年代、アメリカは白色革命と呼ばれるスピリッツブームが起こった。ジュースやソーダをミックスしたお手軽カクテルが流行し、ここからウオツカがぐんぐん伸張していく。
70年代から80年代前半までディスコの時代だった。日本のディスコのカウンターでもウオツカベースの「ウオツカ・トニック」「ブラッディ・メアリ」なんかがよくオーダーされていた。その頃、わたしがよく飲んだのは「ソルティ・ドッグ」である。
女子とチークを踊り、「ソルティ・ドッグ」を飲んでまた踊り、そしてフラれる、ということを毎週末繰り返すアンポンタン野郎であった。いまでもあまり変わらないのだけれど。
そもそもこのカクテル、1940年代にイギリスで生まれたジンとライムジュース、塩をシェークする「ソルティ・ドッグ・コリンズ」が原型である。ベトナム戦争後にアメリカの西海岸で大人気となったのだが、アメリカ人はグラスの縁に塩をまぶして、材料もウオツカとグレープフルーツジュースに代え、シェークもせずにオン・ザ・ロックで飲むスタイルにアレンジした。
「ソルティ・ドッグ」の名の由来は、イギリスで船の甲板員を指すスラングだそうで、潮をいっぱい浴びる仕事だから"しょっぱい奴"ということらしい。わたしの場合、踊って「ソルティ・ドッグ」を飲んでフラれるのだから、ほんとうに"しょっぱい"学生だったといえる。でも、グレープフルーツの酸味と塩の苦味が汗をかいたときにはたまらなく旨い。あの頃、喉を鳴らしながら何杯も飲んでいたから、若さってのは凄い。