Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ザ・ローズ

ピナクル ウオツカ 4/6
ルジェ
グリーンアップル
1/6
ライムジュース 1/6
ルジェ ピンク
グレープフルーツ
1tsp
ルジェ カシス 1/2tsp
シェーク/カクテルグラス
ルジェ ピンクグレープフルーツまでをシェークしてグラスに注ぎ、最後にルジェ カシスをドロップする

雪の下には、太陽の愛を浴びる種がある

ウオツカはすっきりとした透明感、クセのあまりない清冽な味わいのスピリッツだ。カクテルにおいてはベースとして厚みのあるアルコール感をズンと効かせながら、他の材料の香りや味わいを引き立てる名脇役となる。

ところがフランスはコニャック地方でつくられる「ピナクル ウオツカ」をストレートで味わうと、クリアさのなかに独特のジューシーさがあり、とてもユニークな新鮮味を感じる。そのジューシーさというのが洋梨のようなフルーティーさ、なんともいえない瑞々しい(みずみずしい)シズル感にあふれている。

清冽ながらしなやかな弾力性ともいえるだろう。そこには嫌味がない。粘性とはまたひと味違うものだ。

「ピナクル」とは“山の頂き”のことらしい。ストレートでしっかりと味わいながら爽やかなライトブルーのボトルを見つめる。中央上部には小さく白い山の頂きがデザインされている。

味わいとともにわたしのアタマに浮かび上がった映像は、春を知らせる雪解け水の流れだった。まだ少し寒いけれど、冬に縮こまった心身を清々しく洗い、解きほぐし、大地の温もりを待つ感覚である。

すると「ピナクル ウオツカ」の味わいと映像イメージに重なるようにひとつの曲、しかも最後の部分だけが耳の奥から聴こえてきたのだった。それは、こんな歌詞である。

---------思い出して。厳しい冬の雪の下には、陽の光の愛を浴びる種があり、春になればバラの花が咲くことを-------


誰にでも衝撃を受けた映画がいくつかあるはずだ。とくに感性が鋭敏な年若い頃に観た映画で胸を熱くした作品は、かなりの年齢を重ねてもこころに強く刻まれている。

1980年に日本で公開された映画『ザ・ローズ』(アメリカ1979年)。メアリー・ローズ・フォスターというロック・シンガー役のベット・ミドラーのぶっ飛んだ演技、魂の叫びそのもののライブシーンにわたしは衝撃を受けた。

ジャニス・ジョップリンをモデルにした映画ではあるが、ロックミュージックがビジネスとして成り立ち、ベトナム戦争の悲惨さを引きずり、そしてドラッグに犯された時代を描いている。この時代背景からすれば、ジャニスがすべてという訳ではないとわたしは思っている。

多分、いま再びこの映画を観たとしても、ベット・ミドラーのライブシーンだけを追いかけて、ストーリー展開には目を向けないであろう。遠い昔の現実、自分自身のこころがすでに歴史解釈に染まってしまっている。あの時代にアメリカ文化をシャワーのように浴びていた若者であったからこそ共感でき、胸を熱くしたのだろう。

しかしながら、主題歌といえる映画のラスト曲『ザ・ローズ』のインパクトは強烈だった。魂の叫びで全編染まっていたはずなのに、最後に突然、静かに抑えたバラード調の曲が流れたのだ。“愛は花。その種があなた”という内容の歌詞だが、わたしには美しい讃美歌のようにこころに沁みた。ローズが神に抱かれたのだった。

いまでもあのラストの衝撃は忘れられない。

これまで国内外の多くの歌手が『ザ・ローズ』をカバーしている。日本でもドラマの主題歌や番組内のBGMに使われ、また日本語歌詞にして歌われてもいる。それはそれでよしとしよう。でも、誰が、どんなにこころを込めて歌い上げようとも、讃美歌としてわたしの胸を打つことはない。1980年晩秋、劇場席でしみじみと聴いたベット・ミドラーの歌声に勝るものはない。

「ピナクル」の香味特性を見事に生かした佳品

2018に年があらたまってすぐのこと。バーで「ピナクル ウオツカ」をストレートで味わいながら、親しいバーテンダーに映画『ザ・ローズ』への想いを語った。すると1週間ほどしてまた顔を出すと、いきなり彼は「ピナクルは思いのほかフルーツ系のリキュールと相性がいいので、ちょっと創作してみました。シェークしてもピナクルの香味特性が崩れない」と言う。

そしてカクテルをつくりはじめた。「ピナクル ウオツカ」にリキュール「ルジェ グリーンアップル」、ライムジュース、そして「ルジェ ピンクグレープフルーツ」を微量加えてシェークした。ほのかに黄緑がかった液体がカクテルグラスに注がれる。そこに「ルジェ カシス」がドロップされた。

バーテンダーは「ザ・ローズです」といってわたしの前に差し出した。

カクテルの色感は冬を物語っている。すぐにわたしは、名曲の最後の歌詞をイメージしてつくってくれたのだと察した。彼の温かい気持ちが伝わってきた。

ひと口啜って、創作意図を理解する。最初にライムの香を感じるが、グリーンアップルの柔らかい甘みが優しく寄り添っていることに気づく。そしてわずかなピンクグレープフルーツが甘酸の味わいをうまく引き締め、ジューシーながら冴えた感覚をもたらしている。

さらにはグラスの底に沈められたカシスが、深い雪に耐えるバラの種として佇む。春の陽光が待ち遠しいように、早く種に行き着きたい気持ちを抑えながら、じっくりと堪能する。

最後に口にするカシスの風味には驚かされる。上部のカクテルの味わいにしなやかに馴染み、とてもすっきりとした甘さに変貌している。それは陽の光を浴びる喜び。口中でバラの花となって薫る。

「ピナクル ウオツカ」の香味特性を見事に生かした佳品である。まるでスタンダードとして何十年も前から存在していたような安定感がある。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ピナクル ウオツカ
ピナクル ウオツカ

ルジェ グリーン アップル
ルジェ
グリーン アップル

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