Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ダイキリ

ロンリコ ホワイト 3/4
ライムジュース 1/4
シュガーシロップ 1tsp.
シェーク/カクテルグラス

豊かな港の酒

いま、ホセ・フェリシアーノが歌う『ケ・サラ』を聴きながら書いている。ラテンの情熱、そして哀愁。こころを熱くするギターと歌声だ。

先日、バーでカクテル「ダイキリ」を飲んだ後、店を出て街をのんびりと歩いてみた。とても心地よかった。するとベースのラム「ロンリコ ホワイト」のボトル・ラベルが浮かび、いつの間にか『ケ・サラ』を口ずさんでいた。

盲目の天才ギタリストで歌手のホセ・フェリシアーノは1971年、イタリアのサンレモ音楽祭でこの曲を歌った。わたしが中学生の頃で、日本でも話題になり、ヒットする。イタリアの人ではなく、プエルトリコの人。そんな国、いったいどこにあるんだ、と地図帳で探し、また調べたりもした。

カリブ海の独立した島国ではなく、19世紀末からアメリカ合衆国プエルトリコ自治連邦区だと知り、なんのこっちゃ、と中学生は思う。目の前の学業にはまったく身が入らないくせに、こういうところには執着する。

なんでアメリカ、と気になり、社会科の先生ところへ行って断片的な歴史とともに19世紀まで長くスペイン領であったことを教えられ、音楽の先生にはカリブ音楽について語ってもらい、吹奏楽でよく演奏される『エル・クンバンチェロ』はプエルトリコの国民的大作曲家ラファエル・エルナンデスが作曲したものだと教えられた。高校野球の応援でよく流れているノリのいい曲である。

そういえばプエルトリコは野球やバスケットボールなどが盛んで強い。スポーツの国際組織にはアメリカとは協会を別にして登録しているらしい。


さて、やがて成人して酒を嗜むようになり、熱いカリブの蒸溜酒、ラムに出会う。偶然にも好きになったのがプエルトリコ産ラム「ロンリコ」だった。

わたしはカクテルベースとして「ロンリコ」を最も好む。原料のサトウキビ由来のまろやかな甘みとコクが程よく、何よりもアルコールの刺激臭が抑えられていているのがいい。

スペイン語のPuertoは港、Ricoは豊か。「ロンリコ」のRonはラムであり、豊かなラム、リッチな美味しいラムってことになる。ロンリコ社はエンリコ家によって1860年創業。ネック・ラベルには紋章があしらわれている。これは1889年にスペイン国王からエンリコ家に下賜されたもので、“貴族のためのラム”であることを示しているらしい。

興味深いのは禁酒法時代(1920−1933)のアメリカ領にあって、ロンリコ社は唯一ラム製造を許されていたことだ。かつての宗主国スペインをはじめとした輸出用だったのか。自治連邦区であったからなのか。そのあたりのことはまだ調べていない。

現在は貿易や観光の拠点で政庁所在地のサンファンとその近郊には素晴らしいビーチとカジノがあり、アメリカ本土からの観光客で賑わっている。当時もこの地では合法的に飲めたのかもしれない。

産業は観光、製薬、農漁業にラム酒生産。世界最大の天文台がある地としても知られる。アメリカでありがながら住民の大多数がスペイン語しか話せない。その歴史を語るのは容易ではない。

情熱と哀愁

1990年代前半、わたしは何度かカリブ海の島国を訪ねる機会があったのだが、プエルトリコにはたしか1992年か93年にトランジットで半日ほど停まっただけである。せめて2泊でもすればよかったとずっと後悔している。「ロンリコ」ベースのカクテルをじっくりと味わう時間を何故つくらなかったのだろうかと。

酒は気候風土が生み育む。生まれた地で飲むととても美味しく感じられる。この地にこの酒か、と納得する。日本にいてはあまり飲むことがないゴールドラムのオン・ザ・ロックを熱いカリブで海風を感じながら口にするとほんとうに旨い。すすめられるがままにスイスイと飲んでしまう。

それとご当地ならではのカクテル・レシピがあったりする。これを東京の冷房の効いたバーで飲んでも甘ったるくて美味しくはないだろうと思いつつ味わったりして、楽しい酒となり、勉強にもなる。

かつてあのわずかな滞在時間中、アタマのなかは夏の甲子園のアルプススタンド化し、なんと『エル・クンバンチェロ』のメロディがグルグルと巡って困った。 青く染まった美しいカリブ海の色よりも、ラムの味わいよりもあのメロディは強烈である。タイトルは“飲んでお祭り騒ぎ”といった意味らしい。直訳では“大きな杯を叩く男”だと聞いた。たしかに大騒ぎの曲だ。だからわたしの意識は原点ともいえるホセ・フェリシアーノの歌声のほうへと向かうようになっている。

一度、バーで「ダイキリ」を飲みながら『ケ・サラ』を聴いてみたい。

このカクテルは1896年、キューバのダイキリ鉱山で働いていたアメリカ人技師が、鉱山名をカクテルに冠したといわれている。

「ロンリコ ホワイト」にライムジュース、そして少量のシュガー。ほどよい甘みと酸味のすっきりとした口当たりは、いまの灼熱の季節に涼をもたらす。ラムの香味自体が情熱的であり、そこにライムのなんともいえないクールさが寄り添う感覚は、ホセ・フェリシアーノの情熱的であるがゆえにどこか愁いさえ感じさせる歌唱と通じるものがあるような気がする。

火照った心身はやがてゆったりと穏やかに鎮まっていくことだろう。

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「スピリッツ入門 ラム」

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ロンリコ ホワイト
ロンリコ ホワイト

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