Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ウンダーベルク

ウンダーベルク1本 20ml
ラフロイグ10年 20ml
ハチミツ 20ml
熱湯 適量
ビルド/耐熱グラス
ハチミツまでを別容器に入れてよく混ぜる。グラスに移し替えて熱湯を注ぎ、軽くステア。お好みでレモンスライスを添える

ウンダーベルク・ハイボール

ウンダーベルク1本 20ml
ソーダ水 適量
ビルド/タンブラー
氷を入れたグラスにウンダーベルクを入れ、ソーダ水で満たす

ロックンロールなホットカクテル

「ウンダーベルク」は、わたしに音楽を運んでくる。連載第64回『マエストロの味わいが響く傑作』で、このスピリッツをベースにした創作カクテルを紹介した。それには「グレート・コンポーザー」(偉大なる作曲家)と命名している。何故、音楽が響いてくるのか。

理由は単純だった。連載第18回『運命第4楽章』で、「ウンダーベルク」を飲むとダダダダーンとベートーベンの名曲が耳の奥で鳴り響くと語っていた。ダダダダーンがアタマのなかに刷り込まれてしまっているのだ。

バーでのはじめの一杯を「ウンダーベルク&ソーダ」(ハイボール)にすることがよくある。そんなときも“さあ今夜も、ダダダダーン”とこころのなかで呟いている。

余計なお世話だが、「ウンダーベルク・ハイボール」はちょっと濃い目のほうが旨い。バーテンダーには、ちょい濃い目、と伝えていただきたい。


昨年の秋。寒さが忍び寄って来た頃のことだった。仲良しのバーテンダーに「ウンダーベルク」を使ったホットカクテルを飲んでみたい、とまた我が儘(まま)を言った。嬉しいことに年が明けた今年1月、バーテンダーは微笑みを浮かべながら「ウンダーベルク」、「ラフロイグ10年」、ハチミツを使ったホットカクテルを創作して、わたしの来店を待っていてくれた。お年玉である。

温かい蒸気にはクセのある独特の香りがあった。口にした瞬間、衝撃を受けた。余韻を確かめる間もなく、ふた口目を啜る。薬草的でかすかなスモーキーさがありながら、ふくよかな甘みが広がるホットカクテルである。ウーン、と深く唸なった途端にアタマのなかで曲が鳴り響く。

激しいアコースティックギターの音。“タイム”と三回、訴えかけるように繰り返すシャウトではじまり、最後は余韻を残すことなく断ち切るようにシャウトアウトするサイモン&ガーファンクルの名曲『冬の散歩道』(原題・A Hazy Shade of Winter)だった。50年ほど前、わたしが小学生の頃に耳にして衝撃を受けた曲でもある。

『冬の散歩道』が響いたのは、麗しいハーモニーで知られる彼らの曲のなかで、この曲はロック調であるからだろう。ホットカクテルでまず冬を感じた。そしてレシピは「ウンダーベルク」に「ラフロイグ10年」をぶつけてきた。激情のロックンロールではないか。

もう詳しく説明するまでもなく「ウンダーベルク」は生薬的な香味で知られている。「ラフロイグ10年」の香味はスモーキーで、潮や磯の香を想起させ、ヨード様といった表現でも語られる。どちらも尖った強烈な個性を持つ。

でもそれだけではない。激情のロックンロールをハチミツがやわらかに抱擁している。だから激しくありながらもサイモン&ガーファンクルのしなやかな歌声なのだ。

春を待つ、軽快な余韻

ところが面白いことに、添えられたレモンスライスをグラスに佇ませてじっくりと味わってみると、香味が清々しくすっきりとした感覚に変貌する。『冬の散歩道』の歌詞の重さを覆い隠し、軽やかさのほうへ気持ちを運んでくれる。

曲の原題は、くすんだような陰鬱な冬のことで、内容は晩年を迎えた男の苦い独り言とわたしは解釈している。自分の人生を季節の移ろいにたとえて、葉は茶色になって、地面には雪がある、という語り口だ。歌詞には邦題にある散歩道なんてワードは一切登場しない。

詞の内容を「ウンダーベルグ」と「ラフロイグ10年」の香味感覚にたとえてもいいかもしれないが、レモンを入れたグラスが空くと、すっきりとした甘みが明るい世界に導いてくれていることを実感する。

余韻に浸っているとサイモン&ガーファンクルの別の曲が耳の奥で流れはじめた。『冬の散歩道』と同時期に発表された『59番街橋の歌(フィーリン・グルーヴィー)』という曲である。

のんびりと行こう、人生っていいな、最高の気分だ、と清々しく軽快に歌っている。小石を蹴飛ばす、なんて歌詞もあり、コーラスは言うまでもなく素晴らしい。こちらのほうがはるかに散歩道の感覚だ。

副題のfeelin’ groovyは最高の気分とか、最高に心地いい、といった意味らしい。まさにこのホットカクテルの余韻である。

わたしはこの一杯を「フィーリン・グルーヴィー」と命名した。ホットカクテルのなかでも傑作といえるのではなかろうか。よくぞ声高に主張するふたつのスピリッツを合わせ、ふくらみのある甘さに仕立て上げた、とわたしはただただ感じ入った。そしてレモンの酸味がそっと寄り添うと、新鮮なようで、なんだか昔からあったようなスタンダードカクテルの安定感さえ漂わせる。

クセになる味わいである。また葉っぱは茶色になった。飲みに行かなくては。冬来りなば春遠からじ。寒さの厳しい季節に明るい陽気の楽しみを想う。春を待つホットカクテルだ。

およそ1年前に味わった衝撃を、やっと披露でき、いま最高の気分。

「ウンダーベルク」に関する他のエッセイはこちら

第64回「マエストロ味わいが響く傑作」

第18回「運命第4楽章」

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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