最近、酒っていうのはほんとうに素晴らしいものだとつくづく感じ入る。大袈裟ではなく、平和の象徴だ。まったくもってボーダーレスなんだもの。
移民の国であり世界の酒の大消費地アメリカがそれを示している。ライウイスキーやバーボンウイスキーといったアメリカ産以外の酒の歩みを少しだけ見つめてみよう。
19世紀はビールが大きく伸張する。アイルランドやイギリスからの移民が自家製エールをつくり、東部にはエールハウスなるパブやサルーンが数多く生まれた。19世紀半ば以降にはいまも名高いいくつかのビール・ブランドがドイツ系移民によって誕生した。
20世紀のアメリカはホワイトスピリッツが飛躍する。主役はウオツカ。とくに1970年代からさまざまなカクテルベースに活用されはじめる。一般的にはロシアの酒として知られているが、現在の生産量世界一はアメリカである。しかもロシアの現代の若者たちはウオツカをあまり好まなくなってきているらしい。ウオツカに関してはすでにアメリカの酒といえるだろう。
1990年代後半のこと、マンハッタンの酒場で知り合ったカップルがスタンダードな「マティーニ」をわざわざ「ジン・マティーニ」と呼んでいたのには驚いた。「わたしは、ジン・マティーニはあまり飲まない。マティーニはウオツカ」。カップルの女性のほうがこう言った。
ただし、アメリカでは納得がいく。ジンとベルモットをきちんとステアできないバーテンダーが多いから、ピリピリ、ジンジンした味わいにしばしば出くわす。日本のように繊細な技術に達しているバーテンダーは少ない。だからクセのないウオツカベースに落ち着くのではなかろうか。
さて、ボーダーレスの典型はカクテル。近年、国際情勢がズン、ズンと重たくなってきて、負の連鎖がつづき、これからどんな方向へとすすむのだろうか不安にかられる。でもだ、カクテルを飲みながら、いま何かの問題で微妙な関係にある両国名産の酒のミックスだったりして、これってアレレと気づいて思わず笑っちゃうことがある。
揉めている関係各国の首脳の皆さん、会談前夜に美味しいカクテルを一杯やってから翌日の会議に臨んだらいかがだろうか。飲んで、まあるくなろうよ。みんな仲良くしよう。
この8月、北米自由貿易協定(NAFTA/カナダ・アメリカ・メキシコ)再交渉のニュースが流れた夜に、「テキーラ・マティーニ」「テキーラ・マンハッタン」と2杯つづけて飲んでみた。「マティーニ」はジン、「マンハッタン」はライウイスキーもしくはバーボンウイスキーをベースとするが、あえてメキシコの酒テキーラをベースにしたのだ。