Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ブラッディ・メアリー

ピナクル ウオツカ 45ml
トマトジュース 適量
レモンジュース
または
カットレモン
1tsp.

1/6
ビルド/タンブラー
タンブラーに氷を入れ、
材料を順に注ぎ、ステア。
スライスレモンを飾る。
カットレモンの場合は
飲み手が絞って好みに調整。
好みでセロリスティック、
塩、胡椒、タバスコ、
ウスターソースなどを
加えて楽しむ。

シンプルなようで面倒臭い

トマトの季語は夏なのだが、食べて美味しいのは春から初夏、秋から初冬の期間らしい。トマトがナス科だと、つい最近になって知った。ナスか、ヘーってな感じでちょっとだけ驚いた。

さて、そのトマトのジュースを使った「ブラッディ・メアリー」のお話。お好きな方がたくさんいらっしゃるだろう。

基本レシピはウオツカにトマトジュース、それにレモンジュース少量であるが、レモンを入れないで自宅で気軽に楽しむ人もいる。アルコール度数の調整も簡単である。ただ、バーではいろいろな出し方がある。グラスの縁に塩をつけたスノースタイルにしたり、セロリスティックや塩、胡椒、セロリソルト、タバスコソース、ウスターソースなどが添えられて出てきたりする。お好みのお味に調整してください、なのだ。こんなカクテルは珍しい。

「ブラッディ・メアリー」の名は、16世紀半ばにプロテスタント教徒を弾圧したイングランド女王メアリーⅠ世に由来しているという説があるが定かではない。アメリカの禁酒法時代に、ジンベースの「ブラッディ・サム」がよく飲まれていて、それがウオツカの人気の高まりとともにベースが替わりメアリーになったとも言われている。サムって、誰のことだろう。

ベースが替わると名前も変わるのでとても面倒くさい。トマトジュースで割るのだから、すべて何とかのメアリーちゃんでいいのじゃないかと思うのだが、やっぱり個々の名前が必要らしい。ベースがテキーラのメアリーちゃんは「ストロー・ハット」、ビールベースは「レッド・アイ」、スコッチウイスキーベースは「バノックバーン」である。ちなみにウイスキーはラフロイグやボウモアがおすすめである。

そしてクラマトジュースで割るとまた名前が変わる。「ブラッディ・シーザー」となる。クラマトジュースはクラムとトマトでクラマトであり、トマトジュースにハマグリやアサリのエキスが加えられたものだ。

もっとややこしくすると、クラマトジュースではなくトマト抜きのクラムジュースを使うとどうなるか。「ブラッドレス・メアリー」または「ブラッドレス・シーザー」で、わたしは冷血な感じがより深まるほうへ解釈してしまう。

最後にどうでもいいほどややこしくてみよう。「ブラッディ・メアリー」をつくり、それをまたビールで割ると「レッド・バード」になるのである。

隠し味は冷たいコンソメスープ

では、わたしが飲んでみたい、というか飲んでみたかった「ブラッディ・メアリー」のお話をしよう。

ファッション・デザイナーの故石津謙介氏のお話である。石津氏は“アイビーの神様”と称された方で、立ち上げられたVANブランドは1960〜70年代の若者たちから絶大な支持を得た。1964年の東京オリンピック日本選手団の赤い公式ブレザーをはじめ、日本航空、国鉄、警視庁までもが石津氏にデザインを依頼した時代もあった。

広告業界にも貢献されている。キャンペーン、プレミアム賞品などもVANのPR戦略からはじまった呼び方だ。カジュアル、Tシャツ、トレーナー、ヘビーデュティーといった和製ファッション用語はすべて石津氏が生んだものである。

70歳代の石津氏にわたしは何度かお会いしているが、毎回興味深いお話をお聞かせいただいた。なかでも印象に残った話のひとつが石津氏の「ブラッディ・メアリー」の思い出である。

それは、ニューヨークはマンハッタン、アルゴンクィンホテルのバーの味わいで、おそらく1960年代後半から70年代前半のことだろう。

石津氏はマンハッタンのアルゴンクィンホテルのバーをよく利用した。客からジョージと呼ばれていた名物バーテンダーのカクテルをとても気に入っていたからで、ニューヨーク在住のシュルレアリスムの画家、高井貞二氏(1911〜1986)とそこでよく飲んだ。

ジョージのカクテルのなかでも「ブラッディ・メアリー」は最高級の美味しさであった。いろんなバーで飲んだが、ジョージに勝る味わいはなかったとまでおっしゃっていた。

オリジナル・レシピを何度訊ねてもジョージは教えてくれない。石津氏は毎回のように高井氏に「ジョージのレシピを必ず聞き出しておいてください」と言い残して帰国するのだった。何年経ってもレシピはわからなかった。
「随分と時間がかかったんですが、高井さんのしつこさにジョージが根負けしたんですね。材料をそっと教えてくれたんです」

そう言ったときの石津氏の顔は忘れられない。いたずら好きの少年が満足そうにニコッと笑った、得意気な笑顔だった。70代なのに、子供のようだった。

そのレシピの材料とは。ウオツカ、トマトジュース。少量の隠し味にウスターソース、タバスコ、すりおろしたホースラディッシュ(洋わさび)、もうひとつ、これがポイントで、冷たいコンソメスープだった。
「高井さんも、ジョージももういない。大切な仲間を失った」

そう言って、石津氏は悲しい目をして遠くを見つめた。
「いま自分なりにジョージのレシピでつくって楽しんでいます。でもね、どう比率を変えても、同じ味わいは出せない。まあ、仕方ないですよ。跡を継いだアルゴンクィンホテルのバーテンダーでさえ、ジョージの味は出せないんですからね」

2005年5月24日、アイビーの神様は天国へ旅立った。享年93。「ブラッディ・メアリー」はわたしに石津氏との思い出をつくってくれた。

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第16回「カルフォルニアの夢」ピナクル ウオツカ

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ピナクル ウオツカ

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