「プレスビテリアン」(Presbyterian)、“長老派の人” という変わった名前のハイボールがある。古いカクテルのようだが、いつ頃誕生したかは不明のようだ。
ウイスキーベースで、バーボンウイスキーやライウイスキー、アイリッシュウイスキーなどでも紹介されてもいる。海外の文献をいろいろ探ってみると、スコッチウイスキーが正統、と書かれていたりする。
たしかに。長老派はキリスト教プロテスタントの一派。スコットランドで発展し、広まった。1567年にはスコットランドの国教になった歴史がある。だから、ベースはスコッチ、という見解は自然といえるだろう。
カクテル名に加えてさらに独創的といえるのがふたつの炭酸飲料を使う点だ。スコッチにジンジャーエールとプレーンのソーダ水を加えるというもの。ジンジャーエールの甘みをソーダ水で抑えて、ドライな仕上がりにする。
甘味やフレーバーのついた炭酸飲料とプレーンなソーダ水の2種で割るスタイルを“プレス”と呼ぶ。
日本には、アメリカの報道関係者がこのカクテルを好んだから“プレス”(press)となった、といった説が伝わっている。こちらに関してはいまひとつ信憑性がない。あくまで「プレスビテリアン」を基にした“プレス”スタイルなのではなかろうか。
さて、似たスタイルでスピリッツやリキュールをトニックウォーターとソーダ水で割るカクテルを“ソニック”(sonic)という。ソーダとトニックを掛け合わせた造語である。海外の文献のなかに、“日本の東京で、遊び心(いたずら)から生まれた”と書かれたものがあった。どうやら和製英語のようだ。
わたしが最初に“ソニック”を文章に記したのは「ウイスキーソニック」だったような記憶がある。1990年前後だったはずだ。
80年代後半にサントリーが運営するJIGGER BARという、直営店だけでなく全国にフランチャイズ展開したバーがあった。90年代はじめにはかなりの店舗数を誇っていて、店内で配布していた『JIGGER’S』というモノクロ・タブロイド紙の執筆・編集にわたしは携わっていた。ある時、イレギュラーの特別版で「ウイスキーソニック」を紹介してくれ、と頼まれたのである。
いま、とても後悔している。わたしは若かった。特別版の特集ページを格好いい内容にすることばかりに気を取られ、“ソニック”というスタイルにまったく興味を示さなかったのである。アメリカ人が“何でも混ぜちゃえ精神”で面白い飲み方をまた流行らせた、くらいにしか捉えていなかった。
この時、Sonicというワードからわたしがイメージしたのは音響的なものであった。語呂合わせと、そしてダブルソーダだから泡がパチパチ弾ける音の感覚も含んでいるのだろう、と勝手な想像をしただけで気にも留めていなかった。