桜の季節がやって来る。わたしの住んでいる場所の近くにはソメイヨシノの桜並木があって、満開となるとその並木道が眩いまでに輝く。
ソメイヨシノには圧倒的な美しさがある。わたしは咲き誇った姿を直視できない。理由はよくわからない。幻想的、神秘的に語られたりもするが、深く考えたことがない。とにかく、あまりにも眩しすぎる。緑に輝く葉桜へと移ると安堵するほどだ。
ふっくらとチャーミングな八重桜のほうがこころ安らぐ。八重桜を特別に意識するようになったのは20年ほど前の5月半ば過ぎ、スコットランドの古都エディンバラでのことだった。
エディンバラ大学近くにあるメドーズという公園に八重桜が咲き誇っていた。気温が低いから長く咲きつづける、と聞いたような気がするが、海外で見る桜がとても新鮮だった。関山(カンザン)という品種だったはずだ。
異国の公園で濃いピンク色した並木を眺めながら、すっと気持ちが軽くなった。スペイサイドやアイラ島のモルトウイスキー蒸溜所を巡る取材を控えていたので、肩にチカラが入っていたのかもしれない。たくさんの花弁が重なりながら陽の光を浴びる姿は、ふくよかな笑顔のお嬢さんのようで親近感を抱いた。
それからは日本でも八重桜を見るとこころが穏やかになった。
一度桜のシーズンに訪ねてみたいと思っている場所がある。ドイツ、ベルリンの桜並木である。
1989年11月にベルリンを東西に分断していた壁が崩壊した。その後すぐに日本のテレビ局が、世界平和を願い、ベルリンの壁跡地に日本の桜を植樹しよう、というキャンペーンをおこなった。募金によって1990年11月から2010年11月の20年間に9000本以上もの桜が植えられたという。
八重桜が多いと聞く。毎年桜祭りも開催されており、現地でも“ハナミ”と呼ばれているらしい。ドイツだから、花見にはソーセージを頬張りながらビールをグビグビッなんだろうか。屋台がたくさん登場するのだろか。
なんだかんだ言いながら、花より団子、でいいんだろうとわたしは思っている。江戸時代の人たちは、あっけらかんとしていていい。
花見といえば白、ピンク、緑の三色団子。豊臣秀吉が醍醐の花見(1598)を催したときに考案させたものと言われている。これが江戸時代に庶民に伝わり、花見に欠かせないものとなった。
白は冬の雪。ピンクは春の桜。緑は夏の新緑。団子屋は、秋がないのはいくら食べても“飽きない”のシャレから“商い”の商売繁盛に引っ掛けた。
さて、団子もいいけれど、桜のカクテルはかなりクールだ。とくに八重桜が世界を楽しく明るく味わい深くすることをお伝えしたい。
今回紹介する「ジャパニーズクラフトリキュール奏<桜>」を材料とする2品は日本人だけでなく、海外の人に喜ばれるような気がしている。
「奏<桜>」は八重桜や大島桜の葉の香味特性を最大限に引き出す高度な抽出製法によって、繊細な風味が香る逸品である。厚み、伸び、余韻にリキュールとしての品質の高さを感じ取れる。
まずは「桜マティーニ」。材料2品だけをステアという、マティーニ的な潔いレシピである。「ジャパニーズクラフトジンROKU」とのミックスが素敵な味わいを生むのだ。
桜の風味はかなりインパクトが強い。この「桜マティーニ」も香り立ちはたしかにイメージ通りのものだ。ところが口にすると意外なほどキレ味があり、新鮮な感覚がある。桜なんだけれど、サクラ、サクラしてはいない。ジンのシャープさのなかに春の象徴的な風味がふんわりと花開く。
おそらくジンが「ROKU」だからいいのだろう。「ROKU」にはジュニパーベリーを基調としたトラディショナルなジンの香味とともに6種の和のボタニカル原料酒が織り込まれ(ブレンド)ている。八重桜、大島桜の葉、煎茶、玉露、山椒の実、柚子の皮である。桜花、桜葉という素材を使っているから、相性のいいのは当然だろう、と言えるが、それ以上に6種の和のボタニカルと「奏<桜>」の香味が繊細に巧みに調和しているのだ。
そしてスッキリとしたジンとしての香味がしなやかさを生んでいる。思いのほかクールで、飲む季節は問わない味わいといえよう。
もう一品は、「奏<桜>ロワイヤル」。カシスリキュールとシャンパンの「キール・ロワイヤル」が名高いが、「奏<桜>」とシャンパンの組み合わせは是非お試しいただきたい。シャンパンはエレガントでみずみずしいフレッシュな感覚のある「ローラン・ペリエ ラ キュベ」を選んでみた。
サクラ色に染まったシャンパングラスを可憐に立ち上る気泡にこころ躍る。グラスを傾けると桜の香が柔らかく鼻をくすぐる。口中ではシャンパンの澄んだ華やぎに「奏<桜>」の風味が軽やかにそよいでいる。
こちらも季節は問わない味わい。とくにお祝いの宴にはベストといえよう。すべてに気品が漂っている。明るい笑顔が似合うカクテルであり、晴れやかな心地へと誘う。
スパークリングワインでもいいが、できるならばシャンパンで味わっていただきたい。
先述したように、「桜マティーニ」「奏<桜>ロワイヤル」ともに、海外の人にすすめてみたいカクテルである。