名作カクテル「雪国」の創作者、井山計一氏は2021年に95歳を迎えられる。現役最高齢のバーテンダーである。しかしながら、昨今は体調を崩され、時折店に顔をだされる、といったご様子らしい。
井山氏は山形県酒田市で1926年に生まれ、終戦後に仙台市、福島市などでのバーテンダー修業を経て、1955年12月10日、酒田市でバー・喫茶「ケルン」(Kern)を開業された。店は65年以上つづく老舗である。
開業から3年後、1958年にサントリー(当時寿屋)の第3回『ホーム・カクテル・コンクール』の作品募集があり、「雪国」を創作、出品。東北地区で3位に入賞し、翌1959年の全国大会、つまり決勝にすすむ。決勝ではグランプリを獲得するという快挙を成し遂げられた。
東北地区の大会ではミントチェリーをグラスの縁に飾っていたのだが、東北のバーテンダー界の重鎮のアドバイスにより、全国大会ではグラスの中に沈めるスタイルにしたという。
カクテル名に、川端康成の小説『雪国』との結びつきはない。常連客の誰かが店の壁に落書きした“人里離れた雪国の宿”の一文からイメージしたものらしい。言われてみれば、川端の『雪国』の舞台は越後湯沢である。
日本のカクテル史において、「雪国」はスタンダードとして定着し、カクテルブックのウオツカベース・レシピに必ずといっていいほど登場する。そして海外にも知られた名品である。
今回、「ジャパニーズクラフトウオツカHAKU」を「雪国」のベースとして、しかも井山氏のオリジナルレシピを少し変更して紹介することへのお許しをいただくためにご連絡した。本来ならばお訪ねして直接お願いするのが筋である。しかしながら、コロナ禍においてご迷惑はおかけできない。
井山氏は「HAKU」ベースをご快諾くださるとともに、“撮影のためにお使いください”と、グラスまでお送りいただいた。掲載しているカクテル「雪国」の画像は、井山氏が長年にわたり使いつづけていらっしゃる専用グラスで撮影したものである。
さて、何故にベースを「HAKU」にするのか。これは「HAKU」というクラフトウオツカの酒質と見事にマッチするスタンダードカクテルを探っているなかで「雪国」がフッと浮かんだのである。試してみると、祝福されるべき幸運というか、井山氏が「HAKU」を呼び寄せたのではないか、というほどの驚きであった。ベスト・マッチ、と表現するしかない。
井山氏のオリジナルは「ヘルメスウオツカ」100プルーフ(50度)がベースだった。現在は「サントリーウオツカ」80プルーフを使われているらしい。