ポークブリトー
第89回 2022年05月
チーズの味わい
ホロホロに崩れるまで煮込んだ豚肉を中心に、味付けしたライス、リフライドビーンズ、トマト、ストリングチーズ、サワークリームなどを巻き込んだ具沢山のブリトー。具材の種類が多いだけに、実際に一人分だけをつくるのはかなり大変です。最近は専門店も多いので、今回はプロに任せて購入して来ました。クラシックなミッションスタイルのブリトーでした。
準備するもの
ブリトー1個
ワインスクエアTOP>チーズとワイン>チャレンジ!気軽にマリアージュ>第89回 ポークブリトー
チーズとワイン
気軽にマリアージュ
カジュアルなワインとカジュアルなチーズの相性を
担当 柳原が独断で評価します
第89回 2022年05月
ホロホロに崩れるまで煮込んだ豚肉を中心に、味付けしたライス、リフライドビーンズ、トマト、ストリングチーズ、サワークリームなどを巻き込んだ具沢山のブリトー。具材の種類が多いだけに、実際に一人分だけをつくるのはかなり大変です。最近は専門店も多いので、今回はプロに任せて購入して来ました。クラシックなミッションスタイルのブリトーでした。
準備するもの
ブリトー1個
力強い味わいで長く親しまれて来たロス ヴァスコスのグランド レゼルブが、クロマス グラン レセルバと名前を変えて、パッケージも新たに進化しました。クロマスとはギリシャ語で色を意味し、ラベルに使われているオレンジの混ざった赤はロス ヴァスコスの火山性土壌とアンデスから昇る太陽の光を表わしているとの事です。カベルネ・ソーヴィニヨン主体に、シラーとマルベックとカルメネールをブレンドしています。
ブリトーと合わせると、ワインが最初少し戸惑うような印象を受けました。ポークに対して果実味を出して行くのか、チリ風味に対して針葉樹やパプリカを連想させるカベルネの風味を出して行くのか、リフライドビーンズやライスに対してアーシーな風味を合わせて行くのか、チーズの脂肪分に熟したタンニンが重なった時の甘さを愉しむのか。お互いに共通する要素が多くて、逆にそれだからこそどこに焦点を置くのか迷ってしまう。そんな感じです。しかし、何回か試していくうちにどんどんとお互いが良さを見せ始めます。ワインの艶やかなカシスを連想させる果実味や、チョコレート感、ブリトーの混然一体となった複雑な味わいと、豚肉とチーズとトルティーヤの余韻の甘さ。何か、後で仲良くなる初対面の子供同士みたいな感じの組み合わせになりました。飲んでいるうちに段々と楽しくなってくる、良いペアリングだと思いました。
マクマレーはアメリカ カリフォルニア州で100年の歴史を持つワイナリー。ピノ・ノワールが生産量の殆どを占める、この品種に特化したワイナリーです。このワインはカリフォルニアでも特に冷涼なセントラル・コースト産のピノ・ノワールを使用。華やかな香りと、甘さを感じさせる豊かな果実味が融合した、カリフォルニアのピノ・ノワールらしい親しみやすいエレガントさが魅力です。
ブリトーと合わせると、ワインの甘い果実味が広がる感じがありました。ピノ・ノワールの特徴である、魅力的なラズベリーを連想させる赤い果実味と樹脂のトーンが口いっぱいに広がっていきます。ブリトーの方では、豚肉の香りとトマトの青さを含んだ赤い色素の感じが前に出て来て、ああこれは確かにポークのブリトーなんだなと実感します。色々な具材が入って口の中で織り成すように複雑な味わいが出て来るブリトーを、ワインが整理してわかりやすくしてくれるような、あまりこれまでにも記憶に出て来ない興味深いパターンの組み合わせになりました。
カーニヴォとは肉食動物、転じて肉好きの人の事。「肉専用黒ワイン」の異名を持つ、肉を食べるために開発されたワインです。カリフォルニアの太陽をタップリ浴びた熟度の高い果実から来る、驚く程に濃厚な色調と、甘くて濃密な味わいが特長です。
ブリトーと合わせると、口の中が甘さで一杯になりました。元々が果実味がとても強いワインで、単体でも口の中は甘さで一杯になるのですが、そこに豚肉とチーズとライスの甘さがさらに加わる感じになります。ブリトーはワリと特徴的な味付けのされた風味の強い食べ物だと思うのですが、カーニヴォもそれに全く負けない濃厚な強さを持つワインなので、それぞれがお互いの風味を主張し合いつつ、口の中が双方の味わいでいっぱいになる感じです。素直に甘くて美味しいと言える組み合わせですが、合わせる事によって出る新しい風味をそれ程感じなかったので、ベストとは言えないかなという事で点は辛めにしています。口の中の満足度は大きいんですけどね。
ヤルンバは現地のワイン評価本でワイナリー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた事もある、オーストラリアを代表する生産者の一つ。ワイシリーズはそのエントリーラインで、生産者のスタイルが強く表現されているように思います。シラーズと5%程度のヴィオニエ(白ぶどう)を一緒に発酵させてつくるこのワインは、濃厚でフルボディなオーストラリアン・シラーズとは一線を画した、華やかな香りとキメ細やかで涼やかな果実味を持ったエレガントな味わいです。
ブリトーと合わせると、ワインの味わいが引き締まる様な印象を受けました。ワイン単体で飲むよりも、随分と酸味が強調される感じがあります。ワインの果実もよりフレッシュな印象になり、ブルーベリーを連想させる紫色の果実の涼やかさを感じる様になりました。ブリトーの豚肉の味付けに使われているチリの風味がこのワインが持っているスモークやブラックペッパーの様な風味とあまり馴染まない感じがあって、口の中が最後になんとなく居心地の良くない感じになるのがやや残念でした。
今回はテックス・メックス料理の雄、ブリトーで試してみました。「テックス・メックスなんだから、そりゃカリフォルニアワインだろ。」そう思って、4つのうちの2つをカリフォルニアのワインにして臨んだこの実験。結果としてはチリが一番という事になりました。やはりやってみないとわからないのがワインと料理の相性の面白いところ。ちょっとした具材の噛み応えだったり、使われているスパイスの微妙な違いだったり、ワインの状態だったり、温度だったり、色々な要素で美味しさが変わってきます。今回のブリトーの様に豚肉、米、リフライドビーンズ、チーズ、トマト、レタス、サワークリームなど多様な具材が入ったものとなると、それぞれの微妙なバランスが合わせてみると結構大きな違いとなって顕れて来る気がします。最終的なキーとなったのは豚肉の味付けに使われていた、チリをベースにしたメキシカンシーズニングでしょうか。綺麗にカベルネ・ソーヴィニヨン(唐辛子の風味がある)の風味を出したワインが最も良い相性を見せたのはそこがポイントだなと思います。カベルネであれば良いというワケでもなくて、この全体の複雑さを受け止めるだけのボリュームを持った、少し格上のワインであった事もプラスに働いていると感じました。料理とワインのペアリングは深いです。
柳原 亮 (やなぎはら りょう)
野菜と穀物(ライ麦パンが好き)、豆腐が主食の草食系。
ヤギ乳製チーズをこよなく愛する、通称ヤギ原。
年間3,000種類超のワインをテイスティングし、お小遣いの総てをワインに投じる徹底したワイン愛好家。
(一社)日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ
NPO法人チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル
第9回(2013年)全国ワインアドバイザー選手権大会準優勝