チーズとワイン

気軽にマリアージュ

カジュアルなワインとカジュアルなチーズの相性を
担当 柳原が独断で評価します

エポワス

第34回 2017年10月

エポワス

チーズの味わい

フランス東部・ブルゴーニュ地方のチーズで、16世紀頃から修道院でつくられていたと言われる歴史あるチーズです。
チーズの表皮を地元産のマール(ぶどうの搾りかすからつくられるブランデー)で洗って熟成させる、「ウォッシュタイプ」を代表するチーズの一つです。
オレンジ色の表皮は熟成中に表皮で活動するリネンス菌という細菌による自然の着色です。
特有の強めの香りがあるので、苦手な方もいますが、熟成によって生まれるスベスベかつトロトロの質感と深い旨味には他のチーズでは味わえない、やみつきになるような魅力があります。
このチーズの香りは皮の部分に目立つので、香りが苦手な方は皮を取り除いて食べると良いと思います。


よく合うワイン

ウィリアム フェーブル  シャブリ 2015

独断!マリアージュおすすめ度

味わい

アロマ

レモン 石 青リンゴ

素直に馴染みながら味わいを膨らませる、とても良いマリアージュ。

最も有名な辛口白ワインの一つである「シャブリ」の典型と言われるワインです。清々しい柑橘類のタッチと土壌を感じさせるスモーキーな香り。くっきりとした酸と豊かなミネラル感のうまみを感じる味わい。余韻が長く、もう1杯飲みたくなる深い味わいが特長です。
チーズと合わせてみると、ワインの味わいに深みや広がりを感じるようになりました。ワイン単体だと、引き締まった酸味や、土壌から来る石のような硬いフレーバーが目立つのですが、チーズと一緒になると、洋梨やフランスパン、少しゴマ油のような香ばしい感じが出てきます。通常のシャブリではなく、格上で高価な1級のシャブリを味わっているかのような満足感が得られました。シャブリ独特のスモーキーなフレーバーやピュアな酸味はしっかりと残しながらの味わいの広がりで、その点も大満足です。
チーズのクセのある香りもワインの香りとスッと溶け合う感じで、ふくらみつつ馴染む、とても良いマリアージュでした。

カザマッタ ビアンコ
※終売しました

イタリア
カザマッタ ビアンコ※終売しました

独断!マリアージュおすすめ度

味わい

アロマ

黄桃 蜜蝋 はちみつ

派手さはないが、しっとりとした趣きのあるマリアージュ。

21世紀のシンデレラワイン “テスタマッタ” を手がけた鬼才 ビービー グラーツがつくる定番ワインです。ヴェルメンティーノ種を主体にトレッビアーノ種とモスカート種をブレンドした華やかでフレッシュな味わいが特長です。あえて複数年のワインをブレンドして複雑さを出しているため、ラベルにヴィンテージ表記がありません。
チーズと合わせてみると、ワインの重さやコクがグッと引き出されて、力強い味わいに感じられるようになりました。充実した完熟の黄桃や杏、コクのあるハチミツ、ギュッと引き締まった凝縮した果実感などで、単体でワインを飲んだ時よりもワインの味わいの集中度が増す感じで、ワイン的にはかなり好印象な組み合わせです。チーズ側は少し引いた感じはありますが、熟成によるマッシュルームの香りや、滑らかな旨味を出してきてくれました。派手さはないですが、秋らしいしっとりとした趣きのあるマリアージュだと思います。

ブーケ ド フロリアシラーズ/ヴィオニエ2016 ※終売しました

独断!マリアージュおすすめ度

味わい

アロマ

ブラックチェリー スミレの花 ミックススパイス

悪くないけどしっくり来ない、時間軸のズレを感じるマリアージュ。

「楽しいときに花をそえて」をコンセプトにした新商品です。ワイン名の「フロリア」は、花のような(フローラルな)、オーストラリアワインからの造語で、ラベルにも花束をデザインしています。スパイシーなシラーズに白ぶどうのヴィオニエ種をブレンドすることで、なめらかかつ華やかさのあるワインに仕上げています。
チーズと合わせてみると、ワインの華やかで果実感タップリの香りとチーズの動物的な香りとがややぶつかるような印象を受けました。フレッシュでフルーティな若々しさタップリのワインの時間軸と、熟成によって複雑な旨味を醸しだしている落ち着いたチーズの時間軸にギャップを感じてしまいます。別に何か悪い感じの味が出てくるわけではないにもかかわらず、しっくりとこないもどかしさを感じる組み合わせです。例えるなら、年の差カップルのジェネレーションギャップという感じになるでしょうか。お互いに気も遣っているし、破綻はしないのですが・・・。

お互いが力強く主張し合う、ガチンコ勝負的なマリアージュ。

世界に名高いブルゴーニュの赤ワインの中でも特に有名な村の一つがジュヴレ・シャンベルタン。ナポレオンが愛した事でも知られる、骨格のしっかりした力強い長期熟成型のワインが生まれる産地です。ブシャール社のワイン調達責任者であるジェラール アーセンドゥー氏がセレクトしたワインを使用した、特別な1本です。
チーズと合わせてみると、ワインとチーズがそれぞれ力強く主張しあう、個性派同士のガチンコ勝負的なマリアージュになりました。ワインのバラを思わせる香りがよりゴージャスに、果実味はより深く甘みを増し、この産地らしい大地を思わせるフレーバーやガッチリした骨格が際立つ感じになりました。チーズはチーズでより香り複雑に、微妙な熟成のニュアンスを全面で出してきます。お互いの味わいを引き出すという意味ではとてもいいマリアージュなのだと思いましたが、現時点では口の中が色々な香りでいっぱいになってしまって、少し落ち着かないのも事実です。十分に美味しいんですけどね。

チャレンジまとめ

冒頭にも書きましたが、エポワスはフランス・ブルゴーニュ地方のチーズ。マリアージュの定番は地元ブルゴーニュの赤ワインです。ジュヴレ・シャンベルタンはそういう意味ではお互いの個性を存分に引き出し合うという意味で、地元同士ならではのマリアージュを見せてくれたと思います。ただ、主張し合いすぎてちょっと疲れる部分もありました。もう少しワインが熟成して落ち着いてくると、本当にピッタリと来る組み合わせになると思います。今愉しむのであれば、緩衝材としてバゲットなどのパンと一緒に味わって頂くとお互いのクセの部分をパンが吸収してくれて、いい感じのマリアージュを愉しめると思います。
それに対して今回の驚きはシャブリでした。エポワスのような香りも個性も強いチーズだと、ワインがチーズに負けてしまうのではないかと思っていましたが、いえいえどうしてしっかりとエポワスを受け止めて大きなふくらみを見せてくれたのは嬉しい驚きでした。シャブリは実はとても強いワインなんだなと見直しました。シャブリもブルゴーニュ地方のワインなので、「土地のチーズに土地のワイン」という定説が、ここでもまた生きていることになります。
もう一つ、ブーケ ド フロリアとエポワスが悪くないけど、しっくり来なかった理由についても考えておきたいと思います。本文にも書きましたが、時間軸を合わせる事もワインとチーズを合わせる一つのポイントという事です。フレッシュな果実を愉しむタイプのワインにはフレッシュな乳の旨味を愉しむタイプのチーズ。熟成による落ち着いたコクを愉しむタイプのワインには、今回のような熟成感による複雑さの出たタイプのチーズという事です。ここが合ってないと、なんとなく落ち着かない感じになってしまいますのでご注意下さい。そこには季節感も結構出てくる感じになります。爽やか、フレッシュ、フルーティという感じのチーズやワインは春~夏に向けて、落ち着きのある熟成タイプは秋~冬にかけて美味しく感じることが多い気がします。
そう考えてみると、熟成による落ち着き、深い旨味、複雑な香りなど、改めて食べてみて、エポワスは秋からの季節にピッタリのチーズだと思いました。

柳原 亮 (やなぎはら りょう)

野菜と穀物(ライ麦パンが好き)、豆腐が主食の草食系。
ヤギ乳製チーズをこよなく愛する、通称ヤギ原。
年間3,000種類超のワインをテイスティングし、お小遣いの総てをワインに投じる徹底したワイン愛好家。

(一社)日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ
NPO法人チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル
第9回(2013年)全国ワインアドバイザー選手権大会準優勝

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