活動の方針・体制
水と生命の未来を守る
「天然水の森」では、良質な地下水の安全・安心とサステナビリティ(持続可能性)を守るために、国内工場の水源エリアの森において、地域の皆さんや、さまざまな分野の専門家と共に、森林と生物多様性を保全・再生する取り組みを進めています。
50年、100年先を
見据えた森づくり
「天然水の森」は、R-PDCA(Research調査・Plan計画・Do実行・Check検証・Action改善)のサイクルを回し、森林と生物多様性の保全・再生を進めています。特に大切にしていることが、Plan計画に入る前の徹底的な調査です。その調査の結果を基に、それぞれの森に適した整備を行っています。
専門家と共に行う調査
現地調査とシミュレーションを組み合わせ、森の「今」を理解し「未来」を予測します。
調査をベースとした計画
ビジョン策定
「天然水の森」では、30年から100年という長期的な視点で森林の保全と再生に取り組んでいます。その基盤となるのが、ビジョンの策定です。
森林の状況は場所ごとで大きく異なるため、過去の経緯や現在の状況を徹底的に調査します。調査項目は、地形図や航空写真、現存植生区分、群落(※)ごとの特徴など多岐にわたります。
調査結果を基に、植生コンサルタントや林業専門家、有識者の皆さんとディスカッションを重ね、群落ごとに課題を抽出します。そのうえで、それぞれの課題に複数の解決策を策定し、整備方針を決定します。5年から10年をめどにビジョンを更新することで、検証や改善につなげていきます。
同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと
この活動に携わる専門家
株式会社地域環境計画
株式会社里と水辺研究所
合同会社MORISHO
株式会社愛植物設計事務所
森林整備計画の実行
各分野のプロの皆さんと協力しながら、整備活動を進めています。
継続的な調査による改善
森に生息する生き物や植物の状態は常に変化しています。「天然水の森」では、継続的な調査を基に改善につなげています。
活動の中での実例
自然相手の仕事では、整備が思い通りに進まないこともしばしばあります。そのため、整備後も継続的に調査を続けることがとても重要です。時には、思った以上に良い結果になることもあれば、完全な失敗に終わることもあります。ここからは、活動の中の失敗や発見の一部をご紹介します。
去年までシカはいなかったのに
「天然水の森 奥大山」では、冬場に2~3メートルもの雪が積もります。そのため、最近まで、シカの姿は一切ありませんでした。ところが、草や低木にシカの食痕が見られるようになってしまいました。緊急でカメラを設置した所、そこには多くのシカが写っていました。
「天然水の森 奥大山」の整備方針は、シカがいない前提で立てられています。これまでは、全国でも例外的に整備による効果が表れやすい、生物多様性豊かな森でした。
しかし残念ながら、その方針を全面的に見直す必要が出てきました。まずは重要な箇所を柵で囲むことから始めましたが、通常の金属柵では、雪解けの時期の雪の移動で柵が破壊されてしまいます。そこで、雪解け直後に樹脂ネットを設置し、雪が積もり始めた頃に、このネットを地面に寝かすという窮余の策を行っています。
軽石で出来た山?
「天然水の森 しずおか小山」の協定を結んだ際に、一番驚いたのは、この山の崩れやすさでした。既設の作業道の大部分が、大雨の際に大きく削られ、いたる所に深い溝が掘られていたのです。
実はこの山は、富士山の噴火で吹き出した火山灰と、スコリアと呼ばれる小さな軽石の層が交互に重なっており、作業道などをつくって地面を剥き出しにしてしまうと、軽石層が、あっという間に水で削られてしまうのです。
そこで私たちは、今後使う予定がない作業道を森に戻すことにしました。残念ながら、ここもシカが多い土地なので、道の平面部分には、シカに食べられにくいミツマタとススキを植えました。ススキはシカが好まない草なのですが、なぜかシカに引き抜かれることが多いため、しっかりと根が張るまでは農業用の防鳥ネットで覆っています。その片側に植えた広葉樹は、単木保護です。
森づくりを進める中での新発見
継続的にR-PDCAのサイクルを回す中で、意外な事実が見つかることもあります。活動の中での、生き物や植物に関する新発見をご紹介します。
冬場のシカが、落ち葉ばかり食べていた
「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」で、シカが季節ごとに何を食べているかを調べるために、フンのDNA解析を行ったところ、驚くべき結果が出ました。
なんと、冬場のメインの餌がカエデとミズキの仲間だったのです。カエデもミズキも落葉樹です。つまり、冬には緑の葉っぱは存在しません。その後、定点カメラの映像に、落ち葉を食べているシカの群れが写っていました。ご覧のようにシカたちは、全く痩せていません。
落ち葉で生きていけるなら、餌資源は無限大になってしまいます。「緑を食べ尽くせば、シカが飢えて減るだろう」というかつての楽観的な仮説は、もはや通用しないということです。現在は、生物多様性を守るための、新たな作戦を立案中です。
この活動に携わる専門家
平尾 聡秀
東京大学 講師
プロジェクト」の活動を見る
侵入竹林問題の救世主になるかも?
「天然水の森 天王山」で、竹林に隣接して作業道を通した場所があります。その際、作業道の法面(※1)を保護するために、シカが食べないミツマタという木を植えました。
すると、予想外のことが起こりました。ミツマタが密植されている道路の側には、タケノコが生えてこなくなったのです。ミツマタには、竹の根が嫌うアレロパシー効果(※2)があるようです。もしそれが正しいなら、全国の侵入竹林問題への明るい光になるかもしれません。
- 作業道の両側につくられた斜面のこと。「のりめん」と読む
- ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象のこと
活動体制
「天然水の森」は、森で暮らす生き物たち、さまざまな分野の専門家の皆さん、サントリーの社員が力を合わせて、森づくりを進めています。
地域の皆さんと共に
良質な地下水を育むためには、地域の皆さんの知恵や技術が必要不可欠です。
「天然水の森」では、地域の皆さんと共にさまざまな取り組みを行っています。
里山と一体となった
水源涵養活動
地下水を育むのは森だけではありません。「天然水の森 阿蘇」では、地元の農家の皆さんと共に、冬の間、水田に水を張る農法「冬水田んぼ」を実施。山 ・川・田んぼが一体となった整備を進めています。
森を育むために
伐る木を有効活用
サントリーでは、「天然水の森」の活動を通じて伐採した木を「育林材(いくりんざい)」と名付け、有効活用しています。「育林材」は、家具や建物など新たな形に生まれ変わっています。
子どもたちと取り組む
未来への森づくり
地元の子どもたちと共に、カブトムシが好むクヌギなどの苗木の育成と植樹をする「カブトムシの森プロジェクト」を行っています。