地形データの取得
見えない地形まで
把握できるレーザー航測
「天然水の森」の活動では、森を徹底的に、より正確に知るために、最新の技術を導入しています。レーザーによる航空測量(レーザー航測)も、その一例です。
ここからは、レーザー航測で得られるデータや情報について、いくつかご紹介します。
図1は、森林基本図と呼ばれる特殊な地形図で、縮尺は5千分の1です。私たちが一般に入手できる5万分の1や2万5千分の1の地図に比べ、10倍、5倍の精度を持っています。
図2は、レーザー航測で得られた同じ場所の地形図です。5千分の1の地形図でも明らかにできない細かな地形の変化を、レーザー航測による地形図は鮮明に捉えています。1秒間に数万〜数十万回の頻度でレーザーを発射しながら、地表の様子を数センチメートル単位の密度で計測するレーザー航測だからこそ、高い精度を実現できるのです。
また、レーザー航測は、図3のような超高精度な地形図情報を、図4のように立体的に視覚化することや、図5のようにそこに生えている木々の情報まで示すこともできます。
そして、下の図6のように、そのエリアにどのくらいの高さの木が、どのような密度で生えているかを断面図で知ることもできます。
さらに、レーザー航測のデータがあれば、3次元による立体画像で目に見えない地形を含む森の全体像をさまざまな角度から見ることもできます。
レーザー航測によって得られる詳細なデータと、それらをさまざまな形で視覚化できる技術を活用し、「天然水の森」は、科学的な裏付けのある森づくりを進めていきます。
【動画】レーザー航測
「調査」に関する活動を見る
専門家と共に行う調査
現地調査とシミュレーションを組み合わせ、森の「今」を理解し「未来」を予測します。
調査をベースとした計画
ビジョン策定
「天然水の森」では、30年から100年という長期的な視点で森林の保全と再生に取り組んでいます。その基盤となるのが、ビジョンの策定です。
森林の状況は場所ごとで大きく異なるため、過去の経緯や現在の状況を徹底的に調査します。調査項目は、地形図や航空写真、現存植生区分、群落(※)ごとの特徴など多岐にわたります。
調査結果を基に、植生コンサルタントや林業専門家、有識者の皆さんとディスカッションを重ね、群落ごとに課題を抽出します。そのうえで、それぞれの課題に複数の解決策を策定し、整備方針を決定します。5年から10年をめどにビジョンを更新することで、検証や改善につなげていきます。
同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと
この活動に携わる専門家
株式会社地域環境計画
株式会社里と水辺研究所
合同会社MORISHO
株式会社愛植物設計事務所
森林整備計画の実行
各分野のプロの皆さんと協力しながら、整備活動を進めています。
継続的な調査による改善
森に生息する生き物や植物の状態は常に変化しています。「天然水の森」では、継続的な調査を基に改善につなげています。
活動の中での実例
自然相手の仕事では、整備が思い通りに進まないこともしばしばあります。そのため、整備後も継続的に調査を続けることがとても重要です。時には、思った以上に良い結果になることもあれば、完全な失敗に終わることもあります。ここからは、活動の中の失敗や発見の一部をご紹介します。
去年までシカはいなかったのに
「天然水の森 奥大山」では、冬場に2~3メートルもの雪が積もります。そのため、最近まで、シカの姿は一切ありませんでした。ところが、草や低木にシカの食痕が見られるようになってしまいました。緊急でカメラを設置した所、そこには多くのシカが写っていました。
「天然水の森 奥大山」の整備方針は、シカがいない前提で立てられています。これまでは、全国でも例外的に整備による効果が表れやすい、生物多様性豊かな森でした。
しかし残念ながら、その方針を全面的に見直す必要が出てきました。まずは重要な箇所を柵で囲むことから始めましたが、通常の金属柵では、雪解けの時期の雪の移動で柵が破壊されてしまいます。そこで、雪解け直後に樹脂ネットを設置し、雪が積もり始めた頃に、このネットを地面に寝かすという窮余の策を行っています。
軽石で出来た山?
「天然水の森 しずおか小山」の協定を結んだ際に、一番驚いたのは、この山の崩れやすさでした。既設の作業道の大部分が、大雨の際に大きく削られ、いたる所に深い溝が掘られていたのです。
実はこの山は、富士山の噴火で吹き出した火山灰と、スコリアと呼ばれる小さな軽石の層が交互に重なっており、作業道などをつくって地面を剥き出しにしてしまうと、軽石層が、あっという間に水で削られてしまうのです。
そこで私たちは、今後使う予定がない作業道を森に戻すことにしました。残念ながら、ここもシカが多い土地なので、道の平面部分には、シカに食べられにくいミツマタとススキを植えました。ススキはシカが好まない草なのですが、なぜかシカに引き抜かれることが多いため、しっかりと根が張るまでは農業用の防鳥ネットで覆っています。その片側に植えた広葉樹は、単木保護です。
森づくりを進める中での新発見
継続的にR-PDCAのサイクルを回す中で、意外な事実が見つかることもあります。活動の中での、生き物や植物に関する新発見をご紹介します。
冬場のシカが、落ち葉ばかり食べていた
「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」で、シカが季節ごとに何を食べているかを調べるために、フンのDNA解析を行ったところ、驚くべき結果が出ました。
なんと、冬場のメインの餌がカエデとミズキの仲間だったのです。カエデもミズキも落葉樹です。つまり、冬には緑の葉っぱは存在しません。その後、定点カメラの映像に、落ち葉を食べているシカの群れが写っていました。ご覧のようにシカたちは、全く痩せていません。
落ち葉で生きていけるなら、餌資源は無限大になってしまいます。「緑を食べ尽くせば、シカが飢えて減るだろう」というかつての楽観的な仮説は、もはや通用しないということです。現在は、生物多様性を守るための、新たな作戦を立案中です。
この活動に携わる専門家
平尾 聡秀
東京大学 講師
プロジェクト」の活動を見る
侵入竹林問題の救世主になるかも?
「天然水の森 天王山」で、竹林に隣接して作業道を通した場所があります。その際、作業道の法面(※1)を保護するために、シカが食べないミツマタという木を植えました。
すると、予想外のことが起こりました。ミツマタが密植されている道路の側には、タケノコが生えてこなくなったのです。ミツマタには、竹の根が嫌うアレロパシー効果(※2)があるようです。もしそれが正しいなら、全国の侵入竹林問題への明るい光になるかもしれません。
- 作業道の両側につくられた斜面のこと。「のりめん」と読む
- ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象のこと