植生・鳥類調査
植生調査
全国にある「天然水の森」に、ひとつとして同じものはありません。そればかりか、ひとつの森をとっても、いろいろな要因が複雑に絡み合う条件の違いで、場所ごとの植生(=生えている植物の種類や状態)が大きく変わります。
それぞれの森に適した整備を行うには、植生のあり方や森林のタイプごとにエリアを分け、整備計画を立てる「ゾーニング」が重要になります。
そして適切な「ゾーニング」を行ううえで欠かせないのが、森の状態を把握するための綿密な植生調査です。
植生調査を行う際には、まず航空写真を基に、おおまかな植生の予察を行います。次に実際に現地に向かい、各群落(※)の中で10メートル×10メートルの調査区を設定し、その中に生えている全ての植物を調査・記録していきます。
同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと
植生調査を基に、森に生息する植物の種類が一目でわかる「植生図」を作成します。この「植生図」は森の50年、100年後の整備計画を立てるための重要な手掛かりとなります。
この活動に携わる専門家
服部 保
兵庫県立大学 名誉教授
日置 佳之
鳥取大学 特任教授
株式会社地域環境計画
株式会社里と水辺研究所
合同会社MORISHO
株式会社愛植物設計事務所
鳥類調査
野鳥は森林の状態を知ることができる大切なバロメーターです。「天然水の森」では、森の状態を知るため、そして鳥たちが暮らしやすい森を維持していくために、専門家の協力のもと鳥類調査を実施しています。調査は主に定点調査、ルートセンサス、任意踏査を行っています。
「定点調査」は、各「天然水の森」ごとに森のエリアが見渡せる見晴らしの良い場所を決めて長時間留まり、そこに出現した鳥類を記録します。特に森の生態系の頂点に君臨する猛禽類については、どこを飛んでいたか、どんな行動をとっていたかも重要な情報として記録します。
「ルートセンサス」は、各「天然水の森」の中で、主要な環境を見ることができて、かつ歩きやすい場所に1~2キロメートルを目安にしてルートを設定し、そこをゆっくりと歩きながら出現した鳥類の種名や個体数などを記録します。森の中に生息する鳥類の全体像を把握し、経年変化を見ていくことを目的としています。
「任意踏査」は、定点調査やルートセンサスだけでは把握できていない季節や場所の情報を補足するためなどに行います。特に猛禽類が巣を作っていそうな場所は施業による影響が出ないよう、あらかじめ任意踏査を実施します。
これらの調査の中で猛禽類の営巣が確認された、あるいはよく餌場として使っていることが分かった場合は、施業による影響が及ばないよう、またはより暮らしやすい環境を提供できるよう、繁殖、生息状況を重点的にモニタリングしていきます。
他にも、「天然水の森」ではフクロウの巣箱を設置して、フクロウの営巣をサポートしています。フクロウが子育てするには大きな木の洞が必要ですが、近年そのような場所が少なくなって住宅難に陥っています。サントリーがつくる森が成長して自然な樹洞ができるまでの仮の住まいですが、その巣箱で営巣したフクロウが何を食べ、ヒナに何を与えていたかを巣箱の中に残された痕跡から調べ、その食性から森の状態を知る取り組みも行っています。
このようにサントリーはいろいろな角度から継続的な鳥類調査を行い、どんな鳥たちがどのように暮らしているか、生態系の頂点で暮らす猛禽類がちゃんと生きていけているか、鳥たちを見守りながら鳥にとっても人間にとっても良い森をつくっていくための重要な指標としています。
この活動に携わる専門家
藤井 幹
(公財)日本鳥類保護連盟 調査研究室 室長
合同会社MORISHO
野中 純
日本オオタカネットワーク 代表
「調査」に関する活動を見る
専門家と共に行う調査
現地調査とシミュレーションを組み合わせ、森の「今」を理解し「未来」を予測します。
調査をベースとした計画
ビジョン策定
「天然水の森」では、30年から100年という長期的な視点で森林の保全と再生に取り組んでいます。その基盤となるのが、ビジョンの策定です。
森林の状況は場所ごとで大きく異なるため、過去の経緯や現在の状況を徹底的に調査します。調査項目は、地形図や航空写真、現存植生区分、群落(※)ごとの特徴など多岐にわたります。
調査結果を基に、植生コンサルタントや林業専門家、有識者の皆さんとディスカッションを重ね、群落ごとに課題を抽出します。そのうえで、それぞれの課題に複数の解決策を策定し、整備方針を決定します。5年から10年をめどにビジョンを更新することで、検証や改善につなげていきます。
同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと
この活動に携わる専門家
株式会社地域環境計画
株式会社里と水辺研究所
合同会社MORISHO
株式会社愛植物設計事務所
森林整備計画の実行
各分野のプロの皆さんと協力しながら、整備活動を進めています。
継続的な調査による改善
森に生息する生き物や植物の状態は常に変化しています。「天然水の森」では、継続的な調査を基に改善につなげています。
活動の中での実例
自然相手の仕事では、整備が思い通りに進まないこともしばしばあります。そのため、整備後も継続的に調査を続けることがとても重要です。時には、思った以上に良い結果になることもあれば、完全な失敗に終わることもあります。ここからは、活動の中の失敗や発見の一部をご紹介します。
去年までシカはいなかったのに
「天然水の森 奥大山」では、冬場に2~3メートルもの雪が積もります。そのため、最近まで、シカの姿は一切ありませんでした。ところが、草や低木にシカの食痕が見られるようになってしまいました。緊急でカメラを設置した所、そこには多くのシカが写っていました。
「天然水の森 奥大山」の整備方針は、シカがいない前提で立てられています。これまでは、全国でも例外的に整備による効果が表れやすい、生物多様性豊かな森でした。
しかし残念ながら、その方針を全面的に見直す必要が出てきました。まずは重要な箇所を柵で囲むことから始めましたが、通常の金属柵では、雪解けの時期の雪の移動で柵が破壊されてしまいます。そこで、雪解け直後に樹脂ネットを設置し、雪が積もり始めた頃に、このネットを地面に寝かすという窮余の策を行っています。
軽石で出来た山?
「天然水の森 しずおか小山」の協定を結んだ際に、一番驚いたのは、この山の崩れやすさでした。既設の作業道の大部分が、大雨の際に大きく削られ、いたる所に深い溝が掘られていたのです。
実はこの山は、富士山の噴火で吹き出した火山灰と、スコリアと呼ばれる小さな軽石の層が交互に重なっており、作業道などをつくって地面を剥き出しにしてしまうと、軽石層が、あっという間に水で削られてしまうのです。
そこで私たちは、今後使う予定がない作業道を森に戻すことにしました。残念ながら、ここもシカが多い土地なので、道の平面部分には、シカに食べられにくいミツマタとススキを植えました。ススキはシカが好まない草なのですが、なぜかシカに引き抜かれることが多いため、しっかりと根が張るまでは農業用の防鳥ネットで覆っています。その片側に植えた広葉樹は、単木保護です。
森づくりを進める中での新発見
継続的にR-PDCAのサイクルを回す中で、意外な事実が見つかることもあります。活動の中での、生き物や植物に関する新発見をご紹介します。
冬場のシカが、落ち葉ばかり食べていた
「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」で、シカが季節ごとに何を食べているかを調べるために、フンのDNA解析を行ったところ、驚くべき結果が出ました。
なんと、冬場のメインの餌がカエデとミズキの仲間だったのです。カエデもミズキも落葉樹です。つまり、冬には緑の葉っぱは存在しません。その後、定点カメラの映像に、落ち葉を食べているシカの群れが写っていました。ご覧のようにシカたちは、全く痩せていません。
落ち葉で生きていけるなら、餌資源は無限大になってしまいます。「緑を食べ尽くせば、シカが飢えて減るだろう」というかつての楽観的な仮説は、もはや通用しないということです。現在は、生物多様性を守るための、新たな作戦を立案中です。
この活動に携わる専門家
平尾 聡秀
東京大学 講師
プロジェクト」の活動を見る
侵入竹林問題の救世主になるかも?
「天然水の森 天王山」で、竹林に隣接して作業道を通した場所があります。その際、作業道の法面(※1)を保護するために、シカが食べないミツマタという木を植えました。
すると、予想外のことが起こりました。ミツマタが密植されている道路の側には、タケノコが生えてこなくなったのです。ミツマタには、竹の根が嫌うアレロパシー効果(※2)があるようです。もしそれが正しいなら、全国の侵入竹林問題への明るい光になるかもしれません。
- 作業道の両側につくられた斜面のこと。「のりめん」と読む
- ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象のこと