活動の方針・体制

伐採した木の有効活用(育林材)

育林材プロジェクト

豊かな森を育むためには、時に木を伐ることも必要です

森を育てるというと、木を植えることを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、日本の森をより豊かに、健全に整備していくためには、木を伐ることも、とても大切です。

例えば、手入れがされずスギやヒノキが密生した人工林や、かつて薪や炭のために育てていた里山林が放置され、地面が真っ暗になっているような放置里山林。

そのような森に光を入れ、さまざまな木や草が育つ多様性に満ちた環境に誘導するためには、丁寧な植生調査をしたうえで、残す木、伐る木を選ぶ必要があります。病気の蔓延を防ぐために、「予防伐採」をすることもあります。また、森林整備のために、作業道をつくる際にも、木を伐らなければなりません。

そうして伐った木を、可能な限り大切に有効利用したい。そんな思いを込めて、私たちはそれらの木に「育林材(いくりんざい)」という名前をつけました。

育林材のロゴイラスト

「育林材」で育みたい、もうひとつのこと

森を育むために伐った木から生まれる材。だから「育林材」なのですが、「育林材」の「育」の部分に込めたもうひとつの思いがあります。それは、「育林材」の利活用によって生み出されるモノ・コトが、「天然水の森」の森づくりに携わってくださる皆さんの継続的な活動を支える仕組みを「育む」ことです。

例えば、失われがちな伝統的な木工技術の新たな下支えになるなど、さまざまな可能性を創っていきたいと考えています。

育林材の活用例

さまざまな分野の職人、メーカーの皆さんと共に、「育林材」を利活用しています。

育林材のカフェ

2020年9月に、東京・田町駅前にオープンしたカフェ&バー「PRONTO(プロント)」。バーカウンターやビッグテーブルなど店内にあるテーブルの天板全てに、「天然水の森 きょうと南山城」で伐り出された「育林材」が活用されています。

PRONTOの店舗の写真
店内にあるテーブルの写真
店内にあるカウンターテーブルの写真

育林材の学校

東京農業大学世田谷キャンパスにある、東京23区内最大級の教育研究施設「農大サイエンスポート」。この研究棟のエントランス天井材、中間ブースの化粧材、大階段の床材には「天然水の森 東京農業大学奥多摩演習林プロジェクト」で行った整備によって伐り出された「育林材」(スギ)が利活用されています。

エントランス天井材の写真
中間ブースの化粧材の写真
大階段の床材の写真
「天然水の森 東京農業大学奥多摩
演習林プロジェクト」の活動を見る

育林材の器

「育林材」は、器にも生まれ変わっています。

金指ウッドクラフト×天然水の森

整備によって伐り出された「育林材」は、無垢の寄木細工を確立した職人、金指勝悦さんの手によって、森の樹木の多様性が一皿に凝縮した寄木ならではの器に生まれ変わりました。

一般的な寄木細工では、色違いの樹木を組み合わせた「種木」をかんなで削り化粧板として使いますが、無垢の寄木細工では、「種木」を直接削って作品にします。

公開年月:2020年11月

La Luz Inc.×天然水の森

「育林材」が、小田原に木工場を構える「ラ・ルース」によって、タンブラー(コップ)に生まれ変わりました。

この作品で使われた「育林材」は、東京大学とサントリーが協働して調査や研究を行っている「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」の作業道づくりの際に伐り出されたものです。

タンブラーの写真
公開年月:2017年4月

育林材の家具

台風で倒れ、一度はいのちを失った木々も、日本有数の家具職人の手によって家具に生まれ変わっています。

2018年、「育林材」を使った新たな家具づくりに向け、家具メーカー「カリモク家具」と「天然水の森」がコラボレーションの話し合いを進めていたさなか、台風が関西地方を直撃。「天然水の森 天王山」も、ヤマモモやヤマザクラ、アカマツなどの巨木が倒れる大きな被害にあいました。

台風が過ぎ去った後、カリモク家具の加藤副社長は、サントリー社員らと共に、自ら天王山に登り、倒木の中から家具にする木を直接選んでくださいました。

加藤副社長は次のように語ります。

「育林材には、曲がっていたり、シミが入っていたり、普通の家具屋の目で見たら欠点だらけのように思える材も多いかもしれません。

でも、見方を変えれば、それは厳しい風雪に耐えてきた歴史の表情ですし、その木目には、温かいぬくもりと均質でない魅力があります。そういう1本1本異なる個性に触れて、その個性をまるごと生かせないものか、という思いをあらためて強く抱きました。」

育林材の写真
公開年月:2020年11月

「天然水の森」から運び出されたヤマモモの「育林材」は、カリモク家具の職人の皆さんの手で美しいテーブルになりました。

現在、このテーブルは、東京・台場にあるサントリーの社屋「サントリーワールドヘッドクォーターズ」のロビーに置かれています。

「育林材」(ヤマモモ)のテーブル
「天然水の森 天王山」の活動を見る

育林材の家

2020年10月、サントリー「天然水の森 近江」の育林材を使った家が、滋賀県に完成しました。これまでも育林材を活用した家は数多くありましたが、通し柱と間柱以外の全ての柱に育林材を使用したことが確認できた家はこれが初めてです。

滋賀県では地産地消推進活動の一環として、県産の木材を使用した住宅建設を支援しています。今回の家も、その活動の延長として生まれました。宮大工でもある施主の高井さんは、自らの手でご自身の家を建築。マツイ工業、白谷製材、綿向生産森林組合、住友林業山林部の協力のもと実現しました。

育林材の柱
完成した家
高井さんご一家

【動画】育林材プロジェクト

公開年月:2016年3月

実行」に関する活動を見る

調査をベースとした計画

ビジョン策定

「天然水の森」では、30年から100年という長期的な視点で森林の保全と再生に取り組んでいます。その基盤となるのが、ビジョンの策定です。

森林の状況は場所ごとで大きく異なるため、過去の経緯や現在の状況を徹底的に調査します。調査項目は、地形図や航空写真、現存植生区分、群落(※)ごとの特徴など多岐にわたります。

調査結果を基に、植生コンサルタントや林業専門家、有識者の皆さんとディスカッションを重ね、群落ごとに課題を抽出します。そのうえで、それぞれの課題に複数の解決策を策定し、整備方針を決定します。5年から10年をめどにビジョンを更新することで、検証や改善につなげていきます。

同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと

この活動に携わる専門家

株式会社地域環境計画

株式会社里と水辺研究所

合同会社MORISHO

株式会社愛植物設計事務所

継続的な調査による改善

森に生息する生き物や植物の状態は常に変化しています。「天然水の森」では、継続的な調査を基に改善につなげています。

活動の中での実例

自然相手の仕事では、整備が思い通りに進まないこともしばしばあります。そのため、整備後も継続的に調査を続けることがとても重要です。時には、思った以上に良い結果になることもあれば、完全な失敗に終わることもあります。ここからは、活動の中の失敗や発見の一部をご紹介します。

去年までシカはいなかったのに

「天然水の森 奥大山」では、冬場に2~3メートルもの雪が積もります。そのため、最近まで、シカの姿は一切ありませんでした。ところが、草や低木にシカの食痕が見られるようになってしまいました。緊急でカメラを設置した所、そこには多くのシカが写っていました。

「天然水の森 奥大山」の整備方針は、シカがいない前提で立てられています。これまでは、全国でも例外的に整備による効果が表れやすい、生物多様性豊かな森でした。

しかし残念ながら、その方針を全面的に見直す必要が出てきました。まずは重要な箇所を柵で囲むことから始めましたが、通常の金属柵では、雪解けの時期の雪の移動で柵が破壊されてしまいます。そこで、雪解け直後に樹脂ネットを設置し、雪が積もり始めた頃に、このネットを地面に寝かすという窮余の策を行っています。

奥大山のシカ
設置した樹脂ネット
シカの生態ついて見る

軽石で出来た山?

「天然水の森 しずおか小山」の協定を結んだ際に、一番驚いたのは、この山の崩れやすさでした。既設の作業道の大部分が、大雨の際に大きく削られ、いたる所に深い溝が掘られていたのです。

実はこの山は、富士山の噴火で吹き出した火山灰と、スコリアと呼ばれる小さな軽石の層が交互に重なっており、作業道などをつくって地面を剥き出しにしてしまうと、軽石層が、あっという間に水で削られてしまうのです。

そこで私たちは、今後使う予定がない作業道を森に戻すことにしました。残念ながら、ここもシカが多い土地なので、道の平面部分には、シカに食べられにくいミツマタとススキを植えました。ススキはシカが好まない草なのですが、なぜかシカに引き抜かれることが多いため、しっかりと根が張るまでは農業用の防鳥ネットで覆っています。その片側に植えた広葉樹は、単木保護です。

ミツマタ
防鳥ネットで守っているススキ

森づくりを進める中での新発見

継続的にR-PDCAのサイクルを回す中で、意外な事実が見つかることもあります。活動の中での、生き物や植物に関する新発見をご紹介します。

冬場のシカが、落ち葉ばかり食べていた

「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」で、シカが季節ごとに何を食べているかを調べるために、フンのDNA解析を行ったところ、驚くべき結果が出ました。

なんと、冬場のメインの餌がカエデとミズキの仲間だったのです。カエデもミズキも落葉樹です。つまり、冬には緑の葉っぱは存在しません。その後、定点カメラの映像に、落ち葉を食べているシカの群れが写っていました。ご覧のようにシカたちは、全く痩せていません。

落ち葉を食べるシカの写真
落ち葉を食べるシカ

落ち葉で生きていけるなら、餌資源は無限大になってしまいます。「緑を食べ尽くせば、シカが飢えて減るだろう」というかつての楽観的な仮説は、もはや通用しないということです。現在は、生物多様性を守るための、新たな作戦を立案中です。

この活動に携わる専門家

平尾 聡秀

東京大学 講師

「天然水の森 東京大学秩父演習林
プロジェクト」の活動を見る

侵入竹林問題の救世主になるかも?

「天然水の森 天王山」で、竹林に隣接して作業道を通した場所があります。その際、作業道の法面(※1)を保護するために、シカが食べないミツマタという木を植えました。

すると、予想外のことが起こりました。ミツマタが密植されている道路の側には、タケノコが生えてこなくなったのです。ミツマタには、竹の根が嫌うアレロパシー効果(※2)があるようです。もしそれが正しいなら、全国の侵入竹林問題への明るい光になるかもしれません。

  • 作業道の両側につくられた斜面のこと。「のりめん」と読む
  • ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象のこと
「天然水の森 天王山」の竹林の脇にあるミツマタロードの写真
「天然水の森 天王山」の竹林の脇にあるミツマタロード
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