活動の方針・体制

冬水田んぼ

冬の田んぼを利用した
地下水涵養

「天然水の森 阿蘇」では、山・川・田んぼが一体となった地下水涵養活動を進めています。上流の森と川を整備することにより、冬の河川流量を増やし、その分を扇状地の田んぼで地下に浸透させる、新しい水源涵養の試みです。

冬に水を張る冬水田んぼ

その際に、できれば田んぼを有機に転換したいと考え、地元農家の皆さんと共に多様な水田生物を復活させ、彼らの力を借りて病虫害を低減する技術開発も行っています。また、地元の小学生と共に、田んぼの生き物調査を実施するなど、地域に根ざした取り組みも進めています。

地元小学生による年2回の生き物調査

熊本地震・冬水田んぼの復旧

2016年4月の熊本地震によって、「冬水田んぼ」を実施している水田も地割れなどの被害にあいました。そこで、熊本地震の震災復興プロジェクト「サントリー水の国くまもと応援プロジェクト」の一環として、被災した水田の復旧工事を行いました。

目標は翌年2017年6月に田植えができるようにすること。2017年1月に「冬水田んぼ」を実施している水田と、隣接する水田の復旧工事に着手し、地割れによる漏水対策や水田傾斜の補正、畦や用水路の補修などを行いました。

公開年月:2018年8月

作業は2017年5月に完了し、6月には無事に田植えを行うことができました。その後も、地元の子どもたちとの「田んぼの生き物調査」や、農家の皆さんと「有機栽培」にも取り組んでいます。

公開年月:2019年1月

この活動に携わる専門家

島谷 幸宏

熊本県立大学 特別教授

久保 幹

立命館大学 教授

鹿野 雄一

九州大学 特任准教授

調査」に関する活動を見る

調査をベースとした計画

ビジョン策定

「天然水の森」では、30年から100年という長期的な視点で森林の保全と再生に取り組んでいます。その基盤となるのが、ビジョンの策定です。

森林の状況は場所ごとで大きく異なるため、過去の経緯や現在の状況を徹底的に調査します。調査項目は、地形図や航空写真、現存植生区分、群落(※)ごとの特徴など多岐にわたります。

調査結果を基に、植生コンサルタントや林業専門家、有識者の皆さんとディスカッションを重ね、群落ごとに課題を抽出します。そのうえで、それぞれの課題に複数の解決策を策定し、整備方針を決定します。5年から10年をめどにビジョンを更新することで、検証や改善につなげていきます。

同じ場所で一緒に生育している、ひとまとまりの植物群のこと

この活動に携わる専門家

株式会社地域環境計画

株式会社里と水辺研究所

合同会社MORISHO

株式会社愛植物設計事務所

継続的な調査による改善

森に生息する生き物や植物の状態は常に変化しています。「天然水の森」では、継続的な調査を基に改善につなげています。

活動の中での実例

自然相手の仕事では、整備が思い通りに進まないこともしばしばあります。そのため、整備後も継続的に調査を続けることがとても重要です。時には、思った以上に良い結果になることもあれば、完全な失敗に終わることもあります。ここからは、活動の中の失敗や発見の一部をご紹介します。

去年までシカはいなかったのに

「天然水の森 奥大山」では、冬場に2~3メートルもの雪が積もります。そのため、最近まで、シカの姿は一切ありませんでした。ところが、草や低木にシカの食痕が見られるようになってしまいました。緊急でカメラを設置した所、そこには多くのシカが写っていました。

「天然水の森 奥大山」の整備方針は、シカがいない前提で立てられています。これまでは、全国でも例外的に整備による効果が表れやすい、生物多様性豊かな森でした。

しかし残念ながら、その方針を全面的に見直す必要が出てきました。まずは重要な箇所を柵で囲むことから始めましたが、通常の金属柵では、雪解けの時期の雪の移動で柵が破壊されてしまいます。そこで、雪解け直後に樹脂ネットを設置し、雪が積もり始めた頃に、このネットを地面に寝かすという窮余の策を行っています。

奥大山のシカ
設置した樹脂ネット
シカの生態ついて見る

軽石で出来た山?

「天然水の森 しずおか小山」の協定を結んだ際に、一番驚いたのは、この山の崩れやすさでした。既設の作業道の大部分が、大雨の際に大きく削られ、いたる所に深い溝が掘られていたのです。

実はこの山は、富士山の噴火で吹き出した火山灰と、スコリアと呼ばれる小さな軽石の層が交互に重なっており、作業道などをつくって地面を剥き出しにしてしまうと、軽石層が、あっという間に水で削られてしまうのです。

そこで私たちは、今後使う予定がない作業道を森に戻すことにしました。残念ながら、ここもシカが多い土地なので、道の平面部分には、シカに食べられにくいミツマタとススキを植えました。ススキはシカが好まない草なのですが、なぜかシカに引き抜かれることが多いため、しっかりと根が張るまでは農業用の防鳥ネットで覆っています。その片側に植えた広葉樹は、単木保護です。

ミツマタ
防鳥ネットで守っているススキ

森づくりを進める中での新発見

継続的にR-PDCAのサイクルを回す中で、意外な事実が見つかることもあります。活動の中での、生き物や植物に関する新発見をご紹介します。

冬場のシカが、落ち葉ばかり食べていた

「天然水の森 東京大学秩父演習林プロジェクト」で、シカが季節ごとに何を食べているかを調べるために、フンのDNA解析を行ったところ、驚くべき結果が出ました。

なんと、冬場のメインの餌がカエデとミズキの仲間だったのです。カエデもミズキも落葉樹です。つまり、冬には緑の葉っぱは存在しません。その後、定点カメラの映像に、落ち葉を食べているシカの群れが写っていました。ご覧のようにシカたちは、全く痩せていません。

落ち葉を食べるシカの写真
落ち葉を食べるシカ

落ち葉で生きていけるなら、餌資源は無限大になってしまいます。「緑を食べ尽くせば、シカが飢えて減るだろう」というかつての楽観的な仮説は、もはや通用しないということです。現在は、生物多様性を守るための、新たな作戦を立案中です。

この活動に携わる専門家

平尾 聡秀

東京大学 講師

「天然水の森 東京大学秩父演習林
プロジェクト」の活動を見る

侵入竹林問題の救世主になるかも?

「天然水の森 天王山」で、竹林に隣接して作業道を通した場所があります。その際、作業道の法面(※1)を保護するために、シカが食べないミツマタという木を植えました。

すると、予想外のことが起こりました。ミツマタが密植されている道路の側には、タケノコが生えてこなくなったのです。ミツマタには、竹の根が嫌うアレロパシー効果(※2)があるようです。もしそれが正しいなら、全国の侵入竹林問題への明るい光になるかもしれません。

  • 作業道の両側につくられた斜面のこと。「のりめん」と読む
  • ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象のこと
「天然水の森 天王山」の竹林の脇にあるミツマタロードの写真
「天然水の森 天王山」の竹林の脇にあるミツマタロード
竹林問題について見る