アルファベット26文字の最後の3文字を冠したカクテルがある。「X.Y.Z.」。
ホワイトラムをベースにホワイトキュラソー(オレンジリキュール)とレモンジュースをシェークして清涼感のある味わいに仕上げる。柑橘系のすっきりとした酸味と甘みが心地よい。
プエルトリコを代表するラムである「ロンリコ」をベースにしてよく飲む、好きなカクテルのひとつでもある。
多くのカクテルブックには“アルファベットの終わり3文字が締めの一杯を表す”、あるいは“これ以上はない、究極の、といった意味もある”などと書かれている。好むカクテルながら、その名が語る、最後、最上といった大袈裟なイメージはどうもピンとこない。
食前でもいける。デザートにシャーベットを食べる感覚で、口直しとしての食後酒にもなる。もちろん最後の一杯として寝酒にもなるだろう。いろんなシーンに対応できる味わいだから、まあ、最高、と言っていいのかもしれない。
『英国人デザイナーが教えるアルファベットのひみつ』(アンドリュー・ポセケリ著/村上玲、横山文子訳/エムディエヌコーポレーション刊)という一冊がわたしの書棚にある。
AからZまでの文字にどんなつながりがあり、歴史や英語圏の人たちがそれぞれの文字にどんなイメージを持っているか述べてある本だ。まだ読破してはいない。気になること、何かしら必要が生じたときに、ひとつふたつの文字の項を読む。今回、よくわからん名のカクテルを取り上げるので、あらためてこの一冊を開いてみた。
文字そのものの歴史的背景は置いといて、文字の持つイメージの世界だけを抜粋してご紹介しよう。
まずX。デザイナーである著者のポセケリ氏は、Xは“禁断のもの”を意味してきたと語る。“削除”のニュアンスがあり、一般的には未知のものを示す文字だそうだ。なるほど『X−Files』『X−men』といったSF的なイメージがある。
手持ちの辞書を開いてみるとXを頭文字とする単語は極めて少なく、1頁半ほどに収められている。多くは自然科学分野に関わる言葉だ。Xの前に母音文字を置いた単語がほとんどで、例としては、そう、まさにexample。
ではY。この文字はポジティブだという。joy(喜び)のイメージが強く、何よりもyesの頭文字である。単語末尾のy、happy(幸せ)、merry(陽気な)などが、misery(みじめな)、lonely(孤独な)などがあるにしても、陽気で幸せなイメージを強くしているらしい。
面白いことにポジティブながら不安定さもあるのがYだともいう。落ち着きがないらしい。数学においてはXYZの未知数の中央に位置しながら、XとZは未知のイメージに簡単に落ち着くが、Yは単語によっては時制の変化で違う文字になってしまい、どっちつかずなんだそうだ。魅力的で華やかなんだけれど、単語の末尾、二番手のイメージになるという。
最後にZ。ローマ人がギリシャ語の書き取りが必要となったために、最後にYとZを加えたものらしい。またXと同様に“未知”とか“外来の”といったイメージが強い。
映画の『Zorro』(怪傑ゾロ)のZは、エキゾチック、でワクワクするイメージにつながる。世界的に名高いラッパーであり音楽家のJay-Zも同様で、とってもクールなのだと述べている。
著者が幼少期に手にしたアルファベットの絵本の中で、Zの項はzebra(シマウマ)の絵であり、動物園(zoo)まで行かなくては見られないものだった。身近なapple、ball、cat、dogなどとは大きな違いがある。