テキーラをショットグラスでクィッとやる。先日、そんな飲み方が流行ったことがあった、とヤングに言ったら、いまの彼らの様子も変わらないと返された。わたしにはまったく縁のないクラブというところでは、クィッて、やっているらしい。
しかもリキュールの「イエーガーマイスター」(以下イエーガー)も人気が高いという。ボトルをキンキンに冷やしておいて、ショットグラスに注いで飲むという。アメリカあたりの話だと思っていたら、ジャパンでも同じことが起こっているらしい。
たしかに冷えた「イエーガー」の飲み口は心地いい。「イエーガー」は、リキュールとしての感覚よりも生薬的な香味のインパクトのほうが強いが、キンキンに冷やされることでその強い主張が和らぐ。でも、わたしのようなオジサンは、もうクィッとはいかないな。チビリ、チビリである。
もしわたしがバーなんぞでクィって飲んでみせようなら、「なにか辛いことでもありましたか」って言われそうな気がする。ヤングたちのような陽気さもなく、大人の男のダンディズムというかハードボイルドさもない。格好つけようがない。
ストレートもいいけれど、健胃薬的なイメージを脱した、新たな香味を抱いたカクテルもいい。簡単なのは「イエーガー・オレンジ」。オレンジジュースに「イエーガー」をフロートさせるだけのものだ。
ちょうど1年前のこのエッセイで、親しいバーテンダーが創作した「イエーガー」とテキーラ「サウザ」をシェークした「ララ」(第85回『リリー・マルレーンの歌姫』参照)というカクテルについて語った。今回も同じように「イエーガー」をベースにした創作カクテルを紹介しよう。
レシピは「イエーガー」にバーボンウイスキー「メーカーズマーク」、ジャパニーズクラフトリキュール「奏Kanade<抹茶>」、そして「カルーアコーヒーリキュール」を微量というものである。これをミキシンググラスでステアした後、氷を入れたロックグラスに注ぐ。つまりオン・ザ・ロックである。
ナイトキャップ・カクテル的な甘みを抱いた味わいなのだが、なかなかに複雑味があってこころの奥底に響くのである。そして飲み方がロックであるところがこのカクテルのポイントであり、しなやかさをもたらしているといえよう。
口にしてまず感じるのは、わずかな量の「カルーア」がいい役割を演じていることである。「イエーガー」をしっかりと支えて香味に厚みをもたらしているのだ。そして「メーカーズマーク」は「イエーガー」の甘みに上手く同調しながら、柔らかい弾力感と潤いのある伸びやかさをもたらしているのではなかろうか。「奏<抹茶>」の茶の苦味は中和されながらもキックの効いた隠し味として生きている。意外にも抹茶リキュールとコーヒーリキュールとの相性がよく、驚かされた。