紅茶をよく飲む国といえば、イギリスが浮かぶ。この連載でも第47回で、イギリスの紅茶の歴史について語った。メディアでアフタヌーンティーの習慣を紹介されることが多いから印象が強いのだろう。
たしかにイギリス人は紅茶をよく飲んでいる。しかしながら世界有数の紅茶消費国とはいえるが、決してNo.1ではない。
一人当たりの国別年間消費量の統計(2014年)を調べてみると、1位はトルコ、2位アイルランドときて、3位がイギリスという順位となっている。ちなみに単純に国別総消費量No.1は世界一の生産量を誇るインドである。中国に次ぐ人口、しかも12億人以上が暮らす国だから当たり前といえる。
わたしはトルコには行ったことがないが、TVの旅番組なんぞでチャイと呼ぶ紅茶がよく紹介されるので、トルコの人たちはこれをガブガブ飲むんだな、と個人消費量No.1に納得する。
インドのチャイとは違うものらしい。インドはダメージのある専用茶葉(押しつぶしたり、裂いたりした茶葉で成分の溶出が早く、濃いもの)を煮出したミルクティーのことを言う。トルコはリゼという地域で産する紅茶、リゼ・ティーをチャイと呼ぶ。しかもミルクは入れない。
トルコに精通した人に聞くと、1杯の量が少ないから、あちらの人たちは1日に何杯も飲むのだという。
典型的なスタイルは、陶器のソーサーの上に細長い透明なグラスに供されるものらしい。100cc入るかどうか、といった、ほんとうに少量のようだ。わたしなんぞ自宅ではコーヒーも紅茶もマグカップにたっぷりだから、そんな量では絶対に満足いくはずもない。
トルコに住んだなら、1日に10杯以上は飲んじゃうに違いない。いや、トルココーヒーのほうにはまるかもしれない。
さて酒の世界で定番紅茶リキュールは「ティフィン・ティーリキュール」(以下「ティフィン」)である。ヨーロッパではお菓子づくりによく使われてもいる。
製造元はドイツのミュンヘンにあるアントン・リーマーシュミット社。ドイツ人は紅茶をよく飲むのか、と聞かれるととても困る。
世の中には好きが高じて、という人が必ずいるものだ。当主だったハインリッヒ・リーマシュミット氏が紅茶を愛し過ぎて、ならば酒にも、よし、リキュールをつくっちゃえ、となったらしい。ただし製品化までに20年もの試行錯誤があったといわれている。
原料茶葉はインド・ヒマラヤ高地のダージリン種。たしかな高級茶葉を使い、苦味成分はうまく抑えられている。また紅茶は温度変化により濁ることがあるが、それも考慮して開発され、カクテル素材として安定したパフォーマンスをみせる。