Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

クローバー・クラブ

シップスミス
ロンドンドライジン
3/5
グレナデンシロップ 1/5
レモンジュース 1/5
卵白 1個分
シェーク/ソーサー型シャンパングラス
卵白が入るので、十分にシェークする。レモンジュースをライムジュースに替えてもよい。グラスにミントの葉を飾ると「クローバー・リーフ」。卵白を卵黄に替えると「ロイヤル・クローバー・クラブ」

ジン・ストレート

シップスミス
V.J.O.P.
45ml
ストレートグラスに注ぐ
*ボトルを冷凍庫で冷やす場合、グラスも同様に冷やすことをおすすめする

スープ代わりのカクテル

社交や親睦団体を指す会員組織、クラブは、18〜19世紀のヨーロッパで続々と誕生したらしい。興隆のきっかけとなった初期の組織として、17世紀末のロンドンのコーヒーハウスがある。

その頃のロンドンの上流階級、富裕商人の間では茶よりもコーヒーが大ブームとなっていた。コーヒーハウスが紳士たちの情報交換の場となり、やがて共通の話題を持つ人たちが店の部屋を借りて、定期的に集うようになる。これがクラブの原型とされているようだ。

ここから政治談義に熱心な者たちの政治クラブ、そして文学や芸術、クリケット、ボート、そしてゴルフといったスポーツ、社会貢献を目的とした奉仕クラブなどが誕生していく。やがてヨーロッパ中に同様の現象が見られるようになった。

さて、今回はクラブカクテルというものを紹介する。クラブ内でオリジナルなカクテルを創り、味わい、仲間意識を高めた時代があったようだ。なかでも多くのカクテルブックに掲載されているのが「クローバー・クラブ」である。

ドライジン、グレナデンシロップ、ライムまたはレモンジュース、卵白を材料にしてシェークしてつくる。誕生したのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカ、フィラデルフィアのメンズクラブ内であった。

曖昧である点は仕方がない。クラブ内だけで飲まれていたものであり、外部に知られ、メジャーとなるのは時間がかかる。現在のように、ネットですぐさま情報が拡散する時代ではない。一応、禁酒法施行前(1920−1931)には広く紹介されていたことは確かである。

誕生したのはフィラデルフィアにあったベルビュー・ストラトフォード・ホテル(1976年廃業)。ここにクローバー・クラブがあった。

フィラデルフィア・メンズクラブは1882年から1920年代くらいまでつづいたようだが、クローバー・クラブという名称としての設立は1896年のことらしい。実業家、弁護士、ジャーナリストといった名士たちが定期的に集い、会合を開いていたようだ。

ここで飲まれていたカクテルが、クラブ名を冠した「クローバー・カクテル」だった。ピンクの液色の上に白いベールを冠った見た目からは、フェミニンなイメージがする。卵白がシェークによってメレンゲ状になるからであるが、これをメンズクラブで飲んでいたとは、誰しも奇妙に想うことであろう。ディナーのスープ代わりの食前酒であったと知ると、納得できる。

今回、わたしはベースを「シップスミス ロンドンドライジン」にして味わってみた。口にすると、白い泡は洋菓子タルトのクリームのように口当たりを滑らかにし、レモンジュースの酸味とシロップの甘みが溶け合いスープ的な感覚が確かにある。そしてジンの香味が立ち過ぎることなく巧みに潜み、ほどよいアルコール感とともに「シップスミス」のスパイシーなニュアンスが口中にふんわりと浮遊してくるのだ。

導かれるようにジン・ストレート

ただし、このカクテル、本来のレシピがはっきりしていない。禁酒法前にアメリカで出版されたカクテルブックを探ると、なんだか面倒くさい。

ドライジンと卵白は確定しているのだが、ドライベルモットとラズベリーシロップを使うレシピもあれば、ドライベルモット、レモンジュース、グレナデンシロップ、というものもある。しかもベルモットを使っているのだ。

クラブという閉鎖された組織から外部に伝わったカクテルである。伝わりながら都合よくアレンジされていったのかもしれない。

この「クローバー・クラブ」と似たレシピで「ピンク・レディ」というカクテルがある。本来、こっちはジュースを使わない、とかなんとかいろいろ言われているが、現在は、ほぼ同じ処方でつくられている。

「ピンク・レディ」は1912年にロンドンで上演されたミュージカル『ピンク・レディ』にちなんでおり、主演女優のためにつくられ、打ち上げパーティーで披露されたものだとされる。

禁酒法時代のアメリカでは広く知られていたようだ。色調から、ジュースといって誤摩化していたのかもしれない。当時、ニューオーリンズのサザンヨットクラブでは、「ピンク・シミー」(Pink Shimmy)の名で大人気だったというから、また話がややこしい。

禁酒法撤廃後は「ピンク・レディ」のカクテルの印象が強く、「クローバー・クラブ」は忘れられてしまったようだ。また名前から、「ピンク・レディ」そのものが女性向けのカクテルに位置づけられてしまう。

マイナーであった理由はもうひとつある。それは生卵。当時は現在のように日持ちがよくなかった。保存管理が大変で、ホテルのように、毎日何百個も新鮮な卵を仕入れて調理するところでなければ、「クローバー・クラブ」はつくれなかったのである。そして現在はホテルバーで生卵を使ったカクテルを飲むのは難しい状況にある。卵に関しては原則として、熱を通したものを提供する、としているホテルが多いからだ。

面白いことに、「クローバー・クラブ」というスープ的な食前酒は、とても自然に次の新たな1杯へと誘ってくれる。わたしはベースであるジンのキレ味に浸りたくなってしまった。

導かれたのはジュニパーベリーの香味が際立つ、エッジの効いた辛口の「シップスミスV.J.O.P. 」ストレート。ボトルもグラスも冷凍庫でキンキンに冷やした1杯である。

ひと口啜る。冷たさが香味の強さを抑えてくれるのだが、冴えた感覚のなかからムクムクとドライな香味特性が目覚めていくのがわかる。これがなんとも言えず、心地いいのだ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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シップスミス ロンドンドライジン
シップスミス
ロンドンドライジン

シップスミス V.J.O.P.
シップスミス V.J.O.P.

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