社交や親睦団体を指す会員組織、クラブは、18〜19世紀のヨーロッパで続々と誕生したらしい。興隆のきっかけとなった初期の組織として、17世紀末のロンドンのコーヒーハウスがある。
その頃のロンドンの上流階級、富裕商人の間では茶よりもコーヒーが大ブームとなっていた。コーヒーハウスが紳士たちの情報交換の場となり、やがて共通の話題を持つ人たちが店の部屋を借りて、定期的に集うようになる。これがクラブの原型とされているようだ。
ここから政治談義に熱心な者たちの政治クラブ、そして文学や芸術、クリケット、ボート、そしてゴルフといったスポーツ、社会貢献を目的とした奉仕クラブなどが誕生していく。やがてヨーロッパ中に同様の現象が見られるようになった。
さて、今回はクラブカクテルというものを紹介する。クラブ内でオリジナルなカクテルを創り、味わい、仲間意識を高めた時代があったようだ。なかでも多くのカクテルブックに掲載されているのが「クローバー・クラブ」である。
ドライジン、グレナデンシロップ、ライムまたはレモンジュース、卵白を材料にしてシェークしてつくる。誕生したのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカ、フィラデルフィアのメンズクラブ内であった。
曖昧である点は仕方がない。クラブ内だけで飲まれていたものであり、外部に知られ、メジャーとなるのは時間がかかる。現在のように、ネットですぐさま情報が拡散する時代ではない。一応、禁酒法施行前(1920−1931)には広く紹介されていたことは確かである。
誕生したのはフィラデルフィアにあったベルビュー・ストラトフォード・ホテル(1976年廃業)。ここにクローバー・クラブがあった。
フィラデルフィア・メンズクラブは1882年から1920年代くらいまでつづいたようだが、クローバー・クラブという名称としての設立は1896年のことらしい。実業家、弁護士、ジャーナリストといった名士たちが定期的に集い、会合を開いていたようだ。
ここで飲まれていたカクテルが、クラブ名を冠した「クローバー・カクテル」だった。ピンクの液色の上に白いベールを冠った見た目からは、フェミニンなイメージがする。卵白がシェークによってメレンゲ状になるからであるが、これをメンズクラブで飲んでいたとは、誰しも奇妙に想うことであろう。ディナーのスープ代わりの食前酒であったと知ると、納得できる。
今回、わたしはベースを「シップスミス ロンドンドライジン」にして味わってみた。口にすると、白い泡は洋菓子タルトのクリームのように口当たりを滑らかにし、レモンジュースの酸味とシロップの甘みが溶け合いスープ的な感覚が確かにある。そしてジンの香味が立ち過ぎることなく巧みに潜み、ほどよいアルコール感とともに「シップスミス」のスパイシーなニュアンスが口中にふんわりと浮遊してくるのだ。