天高く、秋真っ盛り。そろそろ木枯らしがそわそわと出番待ちする頃だが、まだしばらくは小春日和の心地よさがつづく。
とくに文化の日は晴天率が高い。すでに戦前から晴れの特異日として知られていたらしい。日本国憲法の公布は1946年11月3日。公布日を天晴(あっぱれ)にひっかけて、さらにはあらかじめ文化の日にしようと決めていたとしたら、史実のオチとしてはなかなかのものだ。
「天晴な新憲法公布から施行までは半年くらいの猶予がなくてはならないが、おお、半年後はなんと5月3日ではないか。4月29日は天皇誕生日(現昭和の日)、端午の節句の5月5日はこどもの日となる。その間の3日に憲法記念日が入れば。うん、いいぞ、黄金週間と呼ぼうじゃないか」
こんな思いつきにはしゃぐ、わたしのような人物がいたのではなかろうかと勘繰りたくなるのは11月3日の陽気が良すぎるからだといえる。とはいえ、敗戦の復興時の悲惨な状況下、祝日法主導で国家が動く訳がない。ちなみに祝日法が成立したのは1948年7月20日になる。
さて文化の日、愛飲家の方々に是非とも封を切っていただきたい一瓶がある。それはドイツが生んだ香草・薬草系リキュールの傑作「イエーガーマイスター」だ。
ラベルには鹿。鹿の角の間に十字架が描かれている。「イエーガーマイスター」とは"狩猟の守護聖人"。では聖人とは誰か。聖フーベルト。カトリック、そしてギリシャ正教やロシア正教をはじめとする東方正教会の聖人暦(カレンダー)では、11月3日は聖フーベルトの日なのである。
フーベルトは655年頃、フランスはトゥールーズに貴族の子として生まれた。彼は20歳の若さで司法長官になるが、妬みや陰謀で失脚する。それでも妻と子供に恵まれた幸せな暮らしがあったのだが、685年に妻が若くして亡くなり、失意からそれまでの生活を捨ててアルデンヌの森に隠遁する。
ある日、フーベルトが森で狩猟をしていると、見事な牡鹿に出くわす。すぐに射ようしたが、角の間になんと十字架が見えた。同時に「キリストを信じて生きなければ、地獄に堕ちるだろう」との声を聞く。それからというものフーベルトはイエスの教えを範として学ぶ。やがて司祭となり、ベルギーのリエージュに大聖堂を建ててもいる。727年に天に導かれるまでアルデンヌの森の人々を熱心に宣教した。後に聖人として認められ、ハンターの守護聖人として崇められたのだった。