ほどよい甘みとしなやかなアルコール感、何よりもスムージーな冷涼感で魅了するフローズン・カクテルは熱射に打ちのめされた身体を覚醒させてくれる。今回はその歴史とともに人気となった経緯を語ってみたい。
フローズンに仕上げるにはブレンダー(バー・ブレンダー)という電動器具が必須である。日本ではまだミキサーで通じるが、世界的にはブレンダーが一般名称だ。とはいえ最初はミキサーと呼ばれるものが誕生した。
ミキサーは禁酒法時代のアメリカで1922年に開発された。酒場という集いの場を失い、19世紀末からつづくアイスクリームやソーダ水を提供するソーダ・ファウンテンが大衆の癒しの場となっていた。それにともないシェークしてつくるカクテル「エッグノッグ」のノンアルコール版、ミルクシェーク(ミルクセーキ)をたくさんつくるために生まれたのである。
さらにドリンク用として使い勝手のよい「ミラクル・ミキサー」が登場したのが1933年のことだった。ただし、まだまだ改良の余地があった。
1937年、現代に通じるブレンダーが開発される。人気ミュージシャンで「ミラクル・ミキサー」開発に資金提供し宣伝にも一役買ったフレッド・ワーリングが再設計して、「ワーリング・ブレンダー」を発売する。
また同年、W.G.バーナードによって、これも機能的に優れた「ザ・ブレンダー」が誕生した。ここからカクテルに革命が起きる。
連載115回『クールなキューバ』で、1910年代にハバナの『ラ・フロリディータ』のバーテンダー、コンスタンテ・リヴァイラグラはクラッシュド・アイスを詰めたシャンパングラスにシェークした「ダイキリ」を注ぎ、ミスト的な「フローズン・ダイキリ」を提供していたことを述べた。
そしてコンスタンテは1937年に開発されたブレンダーをすぐさま導入すると、シャーベット状というか、スムージーな、現在も高い人気を誇る「フローズン・ダイキリ」を生んだのである。
ただし、フローズン・カクテルがよく飲まれるようになったのはブレンダーが広く普及した1950年代になってからのようだ。すぐにさまざまなテイストのものが誕生したようで、1952年に作家で家庭経済の論客であったメイバー・ステグナーが著した『Electric Blender Recipes』には、「フローズン・ストロベリー・ダイキリ」のレシピが掲載されているらしい。
さらに革命が起きる。今度は「フローズン・マルガリータ」が確固たる地位を獲得したのだった。ラムではなくテキーラベースが人気となる。
1971年。テキサス州ダラス。マリアーノ・マルティネス(1944—/メキシコ系アメリカ人)が若くして創業したレストラン『マリアーノズ・メキシカン・キュイジーヌ』がその舞台となった。
店には人気ドリンクがあった。父親からレシピを教わった自慢の「フローズン・マルガリータ」である。一晩になんと200杯以上ものオーダーがあった。しかしながらその人気から苦情が殺到するようになる。
味が一定ではない。オーダーが異常なまでに多過ぎて、バーテンダーが配合比をきっちりと守り、丁寧につくることができない状況に陥っていたのだ。ブレンダー1台での対応では無理があった。では2台、3台あればいいのか、といえば、他のドリンクも用意しなければならないからいずれにしてもバーテンダーの多忙さは変わらない。
苦悩したマリアーノだったが、ある日、コンビニエンスストアにあるスラーピー・マシーンにインスピレーションを得る。中古を買い取りたい、とコンビニ本社側に交渉するが断られてしまう。そこで彼は仕方なく中古のソフトクリーム・マシーンを購入すると、自ら必死にこれを改造し、量がつくれて一貫性のあるテイストを生みだせる世界初のフローズン・マルガリータ・マシーンを誕生させたのだった。
メキシコ風アメリカ料理、テキサス州オリジナルともいえるテクス・メクス(テックス・メクスとも)の最前線ともいえる店だった。マリアーノによって「フローズン・マルガリータ」が広く知れ渡ることになり、テキーラの需要も高まり、さらにはアメリカでのテクス・メクス・ブームを盛況へと導くことになる。ここからバーを中核にしたレストラン経営で彼は成功をおさめるのだった。
2005年、マリアーノは34年間活躍したフローズン・マルガリータ・マシーン初号機(イラスト参照)を引退させ、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館にある国立アメリカ歴史博物館に寄贈した。ここで大切に保存、展示されているらしい。
ちなみにマリアーノはいまも現役の偉大な経営者だ。彼は特許を取得しなかった。自分は発明家ではない。テキーラとテクス・メクス料理の人気に貢献できればいい、との信念でレストラン経営に邁進しつづけた。
では、カクテルを紹介する。あえて「フローズン・ストローベリー・マルガリータ」を選んだ。フレッシュなイチゴを使う時代になってきているものの、いまは真夏。リキュールでも楽しんでいただきたい。
原料アガベのコクとスパイシーで柑橘系のニュアンスのあるテキーラ「サウザシルバー」が「ヘルメス ストロベリー」の味わいをうまく支えている。しなやかな清涼感のある味わいである。
もうひとつ、「フローズン・バナナ・スランバー」。連載138、139回と連続で「バナナ・スランバー」を紹介しているので細かい説明は省略させていただくが、こちらはリキュールとバナナ果実の両方を使用する。
バナナのコクとほどよい甘みで魅了する、涼を呼ぶ佳品である。