この暑い最中、本来ならば東京五輪で日本中お祭り騒ぎであったはずだ。コロナという感染症はいつまで人類を苦しめるのか。世の中が平和で、人々が健康でなければ物事は動かない、という至極当然なことを嫌というほどに実感させられてしまっている。
今回は1984年のロサンゼルス五輪のオフィシャルドリンクとなったカクテルを紹介しよう。「グリーン・アイズ」というフローズンに仕上げる、猛暑に飲みたいカクテルのひとつといえよう。
1983年の全米カクテルコンテストにおいて発表されたカクテルらしい。そして翌年開催されたロス五輪でオフィシャルドリンクに選ばれた経緯があるが、面白いのは使用材料だ。ライやバーボンといったウイスキーをベースにするといったアメリカ的なこだわりは一切ない。
ベースはゴールドラム。そしてメロンリキュール、パイナップルジュース、ココナッツミルク、ライムジュースを使う。なんといってもサントリーが開発したメロンリキュール「MIDORI」が使われている点が当時の様子を物語っている。
この「MIDORI」、実は海外のバーテンダー、とくにアメリカのバーテンダーからの懇請によって誕生したものである。
1971年に東京でバーテンダーのオリンピックといえる国際バーテンダー協会主催の第20回インターナショナルカクテルコンペティションが開催された。開催期間中に海外から集まった優秀なバーテンダーたちから大きな注目を浴びたのがサントリーの「ヘルメスメロンリキュール」だった。なかでもアメリカのバーテンダーたちは“メロンの果実香にあふれた、こんなリキュールは世界のどこにもない。是非アメリカで売り出してほしい”と切望したという。
とはいえ「ヘルメスメロンリキュール」をそのまま輸出するという訳にはいかなかった。アメリカのリキュール規格に合わせなくてはならない。しかも既存のものと遜色のない香味品質を維持しなければならない。
これに慎重なまでもの時間を要した。そしてアメリカのバーテンダーの願いに応えて誕生したのが「MIDORI」である。
アメリカ発売は1978年。驚くことにその年の全米カクテルコンクールの優勝、準優勝作品がともに「MIDORI」を使ったカクテルであった。しかもTVニュースで大々的に取り上げられ、全米に認知されて大人気となり、さらに世界へと飛躍をみたのである。
1984年のロス五輪当時も「MIDORI」人気は高く、アメリカのバーテンダーたちは盛んに創作カクテルに取り入れていたようだ。オリーブの冠を捧げられてもおかしくないほどの金メダル級の活躍ぶりだった。