Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

バナナ・リーフ・シェイド Recipe Banana Leaf Shade

ジャパニーズクラフト
ウオツカHAKU
2/3
ヘルメス バナナ 1/3
ライムジュース 2tsps.
抹茶 1/3tsp.
シェーク/カクテルグラス
シェークしてグラスに注ぐ

バナナの皮はなぜすべるのか

ヒット曲『バナナ・ボート・ソング』(1956)を歌ったハリー・ベラフォンテが4月25日に逝去した。享年96。

1927年、N.Y.ハーレム生まれ。公民権運動をはじめ、長く社会活動家としても生きた。アフリカの飢餓と貧困を救う目的(USA For Africa)で著名アーティストを集結させた『We Are The World』(1985)のキャンペーンソングは彼が構想したものだった。

年配者にとってベラフォンテの『バナナ・ボート・ソング』の歌声はとても懐かしい。“Day-O”の掛け声は忘れられない。

時代を超えて世界中に知られているこの歌は、元々はジャマイカの労働歌であり、船にバナナを積み込むときに歌われていたようだ。

ちょうどバナナリキュールを使ったカクテルを今回のエッセイで紹介しようと決定したタイミングでハリー逝去の報道があった。なんだか感慨深いものがあり、それ以来、時折彼の歌声がアタマのなかに響いてくる。いまもこの文章を書きながら聞こえている。

とはいえ、バナナをよく食べる訳ではない。だからといって、ベラフォンテの曲ほどにバナナへの関心がないか、というとそうでもない。

2010年。『バナナの皮はなぜすべるのか?』(黒木夏美著/2018年筑摩書房より文庫化/ちくま文庫)という本が出版された。これは友人が、驚くほど素晴らしい本だから、と強く推奨してきたものだった。

読んで感動した。とにかく面白い。王道ともいえる古典的なバナナの皮すべりギャグは、いつ、誰によって生みだされたのか。この疑問から著者は深遠な世界へと入り込んでしまう。バナナの皮から笑いの本質へと切り込む。チャップリンの映画はもとより、それ以前19世紀末のバナナの皮による転倒事故の多発、歴史を踏まえた世界各国のバナナ事情、映画、漫画、小説、TVなどあらゆるメディアでの皮すべりの登場を広範に調べ上げている。

博覧強記の世界。読後には、くだらない、と通常はスルーされてしまうような皮すべりを真剣に追い求めた著者に畏敬の念を抱いた。

そして2014年。北里大学の馬渕清資教授らの研究チームが『バナナの皮はなぜすべる?』を解明して、人々を笑わせ、考えさせてくれる研究に贈られるイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞した。皮の内側から滲みでる液体に潤滑効果があることを実証したのだ。

黒木氏につづき、ベタなギャグに使われつづけてきたバナナの皮すべりを研究対象にしたチームを心から讃えるとともに、これだけ人を惹きつけるバナナの皮も立派であるとあらためて実感させられたのである。

バナナリキュールと抹茶の出会い

では、本題のカクテル。連載136回でサントリー山崎蒸溜所のある山崎の地と千利休との関わりを語った。そこで「ROKU抹茶エスプレッソ」を紹介した。こうした抹茶を使ったカクテルを創作する流れのなかで新たなレシピが生まれたのである。抹茶に加えてバナナリキュールを使う。味わいはかなり気に入っている。名作だと信じている。

材料は「ジャパニーズクラフトウオツカHAKU」、「ヘルメス バナナ」、ライムジュース、そして抹茶。これらをシェークする。

実は抹茶を外した3素材だけでもカクテルとして十分成立する。国産米を100%使用した「HAKU」のふくらみのある酒質と「ヘルメス バナナ」の濃厚でフルーティーな甘さが見事にマッチするのだ。

そこに少量のライムジュース、酸味が加わることで伸びのいいスッキリとした味わいになる。この3素材のカクテルを「Banana Slumber」(バナナ・スランバー/バナナの微睡み/まどろみ)とネーミングした。

ハリー・ベラフォンテ、北里大学研究チーム、黒木夏美氏の3者の功績を称えたもので、バナナもきっと喜び、微笑んでくれるだろうとの思いがある。なんだか心地いい味わいなのだ。

そして「バナナ・スランバー」に抹茶を加えたユニークなレシピのネーミングは「Banana Leaf Shade」(バナナ・リーフ・シェイド/バナナの葉陰)とした。つまり2部作。緑のバナナの葉陰でうとうとと幸せな気分で微睡むイメージである。

ひと口含むと「バナナ・スランバー」の味わいに抹茶の風味がかすかにそよぐ。さらには味わいの変化が楽しめる。十分シェークしていても溶けきれなかった抹茶がグラスの底にわずかに残る。これを飲み干す。苦味が口中に広がると、微睡みから目覚める。この味わいが実にいい。

最後に「ヘルメス バナナ」。1967年に発売され、ロングセラーをつづけているリキュールである。「バナナ・リーフ・シェイド」を試飲するときにあらためて飲んでみたが、「ヘルメス バナナ」は名品だと実感した。

100年以上の歴史を誇るサントリー大阪工場でつくられつづけている。仕込みでは、黄色く熟したバナナを十数名の社員が1日がかりで皮剥きする。バナナはすぐに柔らかく黒ずんでしまうので手早さが求められる。そして1本を手で4等分にちぎる。機械や包丁でキレイにカットするよりも断面積が大きくなり、浸漬スピードが上がるらしい。

これをクリーンなスピリッツに浸漬し、浸漬液を減圧蒸溜する。こうしてフレッシュなバナナの風味が生きた「ヘルメス バナナ」が誕生する。

このバナナリキュールはすべらない。もう一度言う。名品である。

*「バナナ・スランバー」のカクテルレシピと写真は次回連載139回で紹介

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ジャパニーズクラフトウオツカ「HAKU」
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