嗜好品がサブカルチャーと結びついて人気となることがしばしばある。カクテルの世界にもその現象がしばしば見られる。
古くは“君の瞳に乾杯”の名台詞で知られるハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの映画『カサブランカ』(1942)。この名台詞の時の酒が「シャンパン・カクテル」で、長く語り継がれ、いまも愛されている。
1962年公開のジェームズ・ボンド映画第1作『007ドクター・ノオ』では主役のショーン・コネリーが、ベースをジンからウオツカに替えて、しかもステアではなくシェークでマティーニをオーダーした。決して美味しいカクテルとはいえないが、クールでデンジャラスな誘惑の香りをイメージさせるにはとても魅力的な演出であったし、何よりもウオツカが脚光を浴びる大きな要因となった。
1972年にはローリング・ストーンズのメキシコ公演で、ミック・ジャガーがカクテル「テキーラ・サンライズ」の熱烈なファンとなったとの情報が世界を駆け巡り、翌年にはイーグルスのセカンド・アルバムの中に「テキーラ・サンライズ」という曲が収められた。
最近ではジョニー・デップ主演の映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』(シリーズ/2003年から2017年まで5作)によって、ラムの消費量が飛躍的に伸びた。イギリス、アメリカを中心にはじまったブームは世界的なものとなる。現在、ブームは落ち着いてきてはいるが、それでもカクテル「モヒート」がスタンダードカクテルとして見事なまでに定着した。
まだまだ他にもあるが、今回はウオツカベースの「コスモポリタン」をご紹介する。女性のカクテルファンの方たちにとっては当たり前過ぎるカクテルであろう。人気となった理由もわたしよりも詳しい方がたくさんいらっしゃることだろう。
カクテル「コスモポリタン」がいつ頃誕生したかは不明である。アメリカでは「コズモ」と略して呼ばれたりもする。歴史的には新しいカクテルで、諸説入り乱れており、1980年代にはつくられていた(70年代誕生説有り)ことだけは確かなようだ。
とくに広く知られ、よく飲まれるようになったのは1990年代後半からで、きっかけはマドンナである。彼女が映画『エビータ』(1996年公開)の撮影期間中に、このカクテルを好んで飲んでいたことが話題となった。
さらにはアメリカの人気TVドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998〜2004/後に映画化)のなかで、主人公たちがやたら「コズモ」を飲んだことで注目を浴びる。とはいえ、わたしはこのドラマを観たことがない。噂を聞きかじった程度のことである。ドラマに関しては何もコメントできない。