Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

オールドファッションド

ライウイスキー
もしくはバーボン
45ml
アンゴス
チュラビターズ
2dashes
角砂糖 1個
ビルド/オールドファッションドグラス
グラスに角砂糖を入れ、ビターズを振りかける。氷を入れ、ウイスキーを注ぐ。好みでスライスしたオレンジ、ライム、レモンやマラスキーノチェリーなどを飾り、マドラーまたはスプーンを添える。
(角砂糖を溶けやすくするため、ビターズとともにソーダ水を数ml振りかけるやり方もある)

時代遅れという名のカクテル

時の流れやその勢いに取り残されていくものがある。やがて古くさい、時代遅れ、と相手にされなくなる。でも、懐かしさに満たされる古き良き時代のもの、先進性はなくても誰もが愛着を抱いて手放せないものがある。

わたしにとっては3本持っている万年筆がそうだ。3本それぞれに追憶があり、また万年筆という古典的なネーミングがとてもいい。かつては少年少女に1本プレゼントするということは、大人の扱いの証でもあった。

冬の懐かしい思い出に家庭暖房の定番、炬燵(こたつ)がある。生産量がいまではグーンと落ちてしまったという。それでも炬燵派という方がまだまだいらっしゃるそうだ。

わたしが子供の頃、炬燵は天国だった。いまのヤングにこんな話をしてもわからないだろうな。あの布団をかぶった四角い領域が心地よ過ぎて、自分の部屋で過ごす時間はとても短かった。学校から帰っておやつを食べるときも半身は炬燵の中だった。

手の届く範囲になんでもかんでも置く。ぬくぬくと寝そべって漫画を読み、宿題もし、ゴロッチャゴロッチャしながら少年少女文学全集の1冊に目を通しているうちに眠ってしまい、母親から何度も叱りの言葉を浴びてやっと目を開ける。外はもう夕闇で、晩ご飯はなんだろう、とぼんやりと思う。

なんと幸せな時間だったことか。中学生になってからだろうか、炬燵時間を満喫しなくなった。ゴロッチャから卒業したのは、思春期を迎え、母親を遠ざけ、自分の部屋に籠るようになったからだろう。


最近気に入っているカクテルのひとつに「オールドファッションド」がある。この時代遅れという名の一杯を飲むたびに万年筆と炬燵時間を思い出す。

「オールドファッションド」の誕生説はいろいろあるようだが、そのひとつに19世紀半ば過ぎ、バーボンウイスキーの里ケンタッキー州ルイビル説がある。ペンデニス・クラブのバーテンダーが競馬ファンの客のためにつくったらしい。

オールドファッションドグラスとも呼ばれる(現在のタンブラーの原形とされる古いタイプであるため)ロックグラスに角砂糖を入れ、ビターズを振りかけてしみ込ませる。次に氷をグラスに入れ、ライウイスキーもしくはバーボンウイスキーを注ぎ入れる。そしてスライスしたオレンジ、レモン、ライムなどを好みで飾り、マドラーを添える。

古くからイギリスで飲まれていたスコッチウイスキーに砂糖を加えて水または熱湯で割る「ウイスキー・トディー(toddy)」のレシピに似ていることから懐古の意味を込めて、時代遅れという名がついたとも言われているが、よくはわからない。

ベイゼルベースの軽快な風味

かつてわたしは「カナディアンクラブ」(C.C.)をベースにすることが多かった。最近はバーボンの「ベイゼル ヘイデン」や「メーカーズマーク」で味わうこともある。

このふたつのキャラクターは大きく異なる。穀類原料にトウモロコシを51%以上使用しなくてはならないバーボンだが、あとはライ麦と大麦麦芽が使われる。

ビーム社を代表するプレミアムな「ベイゼル ヘイデン」はライ麦比率が高い特異なクラフトバーボンといえる。スタンダードな「ジムビーム」の2倍以上もの量のライ麦を加えて仕込まれ、しかもバーボンとしては長熟で、じっくりと8年超もの年月をかけて樽熟成させたものだ。柔らかな香味ながらスパイシーでハーブティー的な感覚がある。

「メーカーズマーク」は正反対でライ麦は配合しない。ライ麦ではなく小麦を使う。これによってスイート&スムーズな味わいを生んでいる。


ではこのふたつのバーボンをベースにした「オールドファッションド」の味わいはどうなるのか。「ベイゼル ヘイデン」ベースは、サラッと軽快な風味に仕上がる。「メーカーズマーク」の場合は、甘いコクが口中にしっとりと広がる。

ただしこのカクテルは飲み手が味わいに変化をもたせることができる楽しいカクテルである。ベースの説明だけでは味わいを語れない。

添えられたマドラーやスプーンで角砂糖をいきなり壊して甘くしてもいい。さらには柑橘類の果肉を順に押さえてみる。オレンジの甘みのある酸味を感じ、次にライムスライスを押さえて爽やかな青っぽい酸味をプラスしてみるのもいい。そしてレモンの強い酸味を際立たせてもいい。順繰りにやって甘酸の変化を楽しむことができる。これが時代遅れという名のカクテルの味わい方だ。

いまわたしが気に入っているのは「ベイゼル ヘイデン」ベースのスパイシーな爽やかにそよぐ優しい甘さである。どこか懐古的で、万年筆のペン先から紙に滑り出る青いインクを想起させる。アンティークなグラスがあれば尚更、追憶のカクテルとなる。そして「メーカーズマーク」ベースは炬燵の温もりといえよう。幸福な時をよみがえらせる。

こじつけが過ぎると思われるかもしれない。でもわたしは飲みながら自分の世界に入り込んでしまうタイプだ。いろんなイメージを抱きながら味わう。いい酒は人のこころを自由に遊ばせてくれる。まあ「オールドファッションド」というカクテル名自体がさまざまな想いを巡らせてしまう大きな要因といえる。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ベイゼル ヘイデン
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メーカーズマーク
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