ブロードウェイ・ミュージカルをちゃんと観たことがない。途中、必ず眠ってしまうのだ。英語が堪能でないからストーリーにいまひとつ感情移入できないせいだろう、と自分を納得させようとしたら、わたしの場合、内容が理解できる日本映画でも演劇でも、字幕スーパーのある海外の映画でも、劇場での9割は途中で何十分か眠っていることに気づいた。名作であっても眠ることが多い。そのため面白いと感じた作品は、必ず2度観なくてはいけない。
30歳を過ぎた頃からこの症状がはじまっている。誰かと一緒に観ると相手に失礼になるから、映画も演劇もひとりで出かけるようになった。
きっと劇場という空間は、わたしにとって心地よ過ぎるのだ。映画の場合、自宅でDVDを観ているとその症状は出ない。いまひとつの作品でも割と最後まで平気なのだから、どうしたことだろう。
ミュージカルで眠ってしまうわたしだが、観劇後は劇場街にあるレストランに元気よく向かう。
ブロードウェイにサーディーズ(Sardi’s)という名店がある。最初は1988年に撮影で行った。次は4年後で、完全な客としてじっくりと食べて飲んだ。そしてとても気に入ってしまい、それから何度か足を運ぶようになった。
サーディーズは1921年にイタリアからの移民であった夫婦がはじめた。禁酒法時代だから、イタリア人というだけでマフィアとの関係を疑われやすい。それが嫌でイタリア料理ではなく独自にアレンジしたコンチネンタル料理を出すと、すぐに評判を呼び、とくに有名人や劇場関係者が贔屓にするようになった。以来、90年以上もの歴史を誇っている。
壁面は俳優をはじめ、この店を訪れた有名人の似顔絵で埋めつくされている。
特長的なのは初演後の深夜に関係者が必ず集まることだ。朝までサーディーズに居座る。ニューヨークタイムズの朝刊が刷り上がるのを待つのだ。そして劇評に一喜一憂する。初演評がその後の客入りを大きく左右してしまう。ブロードウェイになくてはならないレストランである。
さて、「ブロードウェイ・サースト」というテキーラベースのカクテルがある。マンハッタンのブロードウェイでの観劇後に渇きを癒すための一杯、と書いたカクテルブックもあるが、どうやら定かではないらしい。
ただし、わたしはそんなことはどうでもいい。通常、ブロードウェイというと、マンハッタンの劇場街を連想してしまう。仕方がないのだ。
この通りはマンハッタン島の南北を斜めに縦断し、20km以上にもおよぶ。劇場街はタイムズスクエア周辺の41丁目から56丁目の間だけである。そしてブロードウェイと名のつく場所はマンハッタン以外にもたくさんある。
もしも、広い道を歩いていたら喉が渇いちゃってさ、といったイメージでつくられていたとしても、美味しければいいじゃんか、なのである。