Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

トム・コリンズ Recipe Tom Collins

ビーフィータージン 45ml
レモンジュース 20ml
砂糖 2tsp.
ソーダ水 適量
シェーク/コリンズ・グラス
ソーダ水以外の材料をシェークし、氷を入れたグラスに注ぎ、ソーダ水を満たす

浮かぶのは偉大なアーティスト名

人名を冠したカクテルに「ブラッディ・メアリー」「ネグローニ」などがあるが、スタンダードとしてのネーミングはそんなに多くはない。「トム&ジェリー」なんてカクテルもあるけれど、人名というよりも、どうもアニメーションの世界のイメージが強い。トムっていうのは猫に名付けることが多いそうだ。日本でいえばタマに当たるらしい。

今回は古いカクテルで人名を冠したジンベースの「トム・コリンズ」と「ジョン・コリンズ」について語ってみたい。

その前にトムという名でわたしがイメージするのは俳優のトム・クルーズやトム・ハンクスである。トム・ジョーンズといった歌手も頭をよぎる。またマーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』もあるな、と想ったりするものの、もうひとつイメージに統一感がない。

ではジョンとなるとジョン万次郎や第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディ、俳優のジョン・ウェイン、ジョン・トラボルタなども忘れはしないけれど、何故かミュージシャンばかりが浮かんでくる。

まずジャズのサックス奏者ジョン・コルトレーン、そしてジョン・レノンにジョン・デンバーの名が、姓の方ではエルトン・ジョンが浮かび上がる。ジョンの人物像はどうも音楽のほうに引っ張られてしまうのだ。

とくに「トム」と「ジョン」のコリンズはジン、レモンジュースに少量の砂糖、そしてソーダ水でつくりあげる。ジンの爽やかさ、レモンのすっきりとした酸味がミックスされた爽快感ある味わいであり、明るい陽の光を浴びている感覚がある。

その味わいからイメージしたのがジョン・デンバー(1943―1997)が歌った『Sunshine on My Shoulders』(太陽を背にうけて)であった。それからしばらくしてジョン・コルトレーン(1926-1967)のサックスの音色が浮かぶ。それも『Sound of Music』の劇中曲をカバーした『My Favorite Things』(わたしのお気に入り)がアタマのなかに心地よく響いたのだった。

日本では鉄道会社の旅のCMソングにも使われてもいて誰もが聴いたことのある馴染みある曲だが、コルトレーンはソプラノ・サックスで聴かせた。そしてソプラノ・サックスの魅力を伝えることにもつながった。

コルトレーンの名盤としては『A Love Supreme』(至上の愛)がある。それもまた、コリンズを飲むわたしのこころに響くのである。

ロンドン・ドライ・ジンの登場による混乱

ではカクテルについてお話をしよう。日本では「ジョン・コリンズ」はウイスキーをベースにしたレシピが知られている。これはアメリカの影響を受けたもので「ウイスキー・コリンズ」と呼ばれたりする。

実のところ歴史的には「ジョン・コリンズ」も「トム・コリンズ」も同じジンベースであり、かなり混乱が生じている。

このカクテルは19世紀のはじめにつくられた「ジン・パンチ」(パンチボウルにさまざまな材料を加えてつくり、小さなカップやグラスに取り分けて飲む)から派生したという説がある。この説によると考案者はロンドンのコンデュイット・ストリートにあったリマーズホテルのコーヒハウスのヘッド・ウェイター、ジョン・コリンズであるとされている。

彼はオランダジンのジュネヴァをベースに、レモンジュース、砂糖、ソーダ水で「ジン・パンチ」をつくり、これが大人気となった。そして客たちが彼の名を冠して「ジョン・コリンズ」と呼ぶようになったというものだ。

ビクトリア時代のグロノウ大尉という作家が1860年代に著した回想録で、1814年にはこの飲み物は有名だったと述べているらしい。

そのためヨーロッパでは「トム・コリンズ」はオールド・トム・ジン(加糖しイギリスで古くからつくられていたジン)を使用したもの。「ジョン・コリンズ」はジュネヴァをベースにしたものとの見解が目立っている。

ここでひとつ断っておくと、オールド・トムとは18世紀のジンの密売からきた名前である。建物の外壁に猫の浮き彫りを取り付け、客が猫の口に硬貨を入れると、密売者が建物のなかに設置した注ぎ口にジンを入れ、猫の足からジンが出てくるという仕組みで、看板に“オールド・トム・キャット”と記したことに由来する。実は人間につけられた名前ではない。

閑話休題。ウイスキーベースだの、何だの、といろんな説があり、混乱をきたしたのは、トム・ジンやジュネヴァが20世紀に入ると翳りが出たからからである。19世紀後半になって流通しはじめた、後発のロンドン・ドライ・ジンが主流になっていったからに他ならない。

とくに1930年代からは完全にドライ・ジンの時代になる。そこからどちらもドライ・ジンをベースにした同じレシピであるにも関わらず、オールド・トム・ジンの意識が強い人たちは「トム・コリンズ」と呼び、オランダジンであるジュネヴァへの想い入れの強い人たちは「ジョン・コリンズ」と呼ぶようになった、という認識にあるようだ。

現在のヨーロッパのカクテルブックのなかには、「トム・コリンズ」はロンドン・ドライ・ジンに砂糖を加えてトム・ジンに仕上げたものをベースにしており、「ジョン・コリンズ」はあくまでジュネヴァを使用する、とスタンスを明確にしているものもある。

尚、長々と述べながら最後になって誠に申し訳ないが、アメリカのワシントンD.C.のバーテンダーであったハリー・ジョンソンが1882年に刊行したカクテルブック『バーテンダーズ・マニュアル』では、オールド・トム・ジンがベースの場合は「トム・コリンズ」、ジュネヴァがベースだと「ジョン・コリンズ」と明確に区別してレシピを掲載していた。

多少分量配分が異なっており、「トム・コリンズ」は加糖されたジンであるため、さらに加える砂糖の量は「ジョン・コリンズ」よりも若干少なめである。また「トム・コリンズ」においてはライムジュースまたはレモンジュースとなっている。こちらはライムも使われていたようだ。

ハリー・ジョンソンのカクテルブックは、混乱のすべてはロンドン・ドライ・ジンの登場にあることを物語っている。

では素敵な音楽を聴きながら心地よくお飲みいただきたい。今回の掲載レシピは、現在主流のロンドン・ドライ・ジンを使用したものである。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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