トディーの本家ともいえる「ホット・ウイスキー・トディー」に触れてみたい。前回エッセイではあえて斬新な味わいで魅了する「ジャパニーズクラフトジンROKU」をベースにした「ホット・ジン・トディー」を取り上げた。また併せてジャパニーズウイスキーでも楽しんでいただきたくて、「サントリーウイスキーオールド」ベースをご紹介した。
今回はウイスキーのなかから、アイリッシュウイスキーとライウイスキーをベースにした味わいをお伝えしたい。
前回で触れたが、イギリスでトディーという名が定着し、そこからいまのようなカクテルスタイルにつながっていったことは確かなようだ。しかしながら、いわゆるホット・ウイスキーのアレンジとして、アイルランドやアメリカでも同じような飲み方が同時期に自然発生していたらしい。
18世紀にはホット・ウイスキーが広く飲まれはじめ、やがて似たような副材料が使われるようになったようだ。
アイルランドのいくつかの文献にはホット・ウイスキー、またはホット・ウイスキー・トディーとも呼ばれる、という紹介の仕方がされていた。18世紀にはウイスキーのお湯割は身体を温めるために、また医学的根拠はないが風邪気味のときの民間療法として、回復薬的な役割を担って飲まれていた。
就寝前、あるいは悪天候の夜、さらには真冬の雪に閉ざされた夜の山小屋で、やすらぎをもたらした、といった文章もあった。
現在のアイルランドではハチミツとレモンジュースは不可欠らしく、ウイスキーのお湯割のハチミツレモン味が基本のようだ。他にはハーブティーで割ってみたり、リキュールが仲間入りすることもあれば、シナモン、クローブ、アニス、ナツメグなどのスパイスを好みで加える。
一方、18世紀アメリカではライウイスキー、ブランデー、ラムなどさまざまなホット・ドリンクが飲まれていた。そしてアイルランドと同じようにホット・ウイスキーのひとつのスタイルとして、ライのお湯割にレモンジュース、ブラウンシュガーまたはハチミツなどを入れて飲むようになった。かつてはアメリカでも紅茶が使われたりしていたようだ。
寒くなればスピリッツのお湯割を飲んで温まりたくなるのは当然のことだろうし、国が違っても、またそれがウイスキーであれ、ジン、ラム、ブランデーであれ、ホット・ドリンクとしてどう風味づけするかとなると、使用する副材料は似通ってくるのだろう。大昔から、ハチミツやレモン、そしてジンジャー、さまざまなハーブを酒の風味づけに使ってきたのだから、まったくもって人類のスタンダードなのだ。
それぞれのウイスキーでのスタイルと味わいについてお伝えしよう。今回のレシピは、調べていくなかで日本の家庭でも簡単につくれることを基本として選んだものであることをご了承願いたい。
はじめに「ホット・アイリッシュウイスキー・トディー」。
ベースのウイスキーは「タラモアデュー」である。スモーキー香はなく、単式蒸溜器3回蒸溜によりライトでスムースな香味を特長としている。心地よい大麦麦芽由来の穏やかな風味があり、ほのかに甘くクリーミーな香りに、爽やかなオーク香も感じられる。味わいは柔らかい甘さにシトラスのニュアンス、そしてスパイシーさも潜んでいる。
全体的に繊細で滑らかな「タラモアデュー」をベースにしたトディーは、見事なまでにハチミツレモンの世界をつくりだす。
そしてアニス、クローブ、シナモンスティックがスパイシーさをそよがせ、「タラモアデュー」の香味特性とマッチして爽快感のある甘酸っぱさが口中に広がる。余韻にふんわりとウイスキーの風味が浮かび上がってくる。
では、ライウイスキーをベースにしたトディーの味わい。こちらは「ジムビームライ」で味わってみた。
複雑で温かみのあるリッチな香味が「ジムビームライ」の特長で、ライ麦由来のスパイシーさを抱きながらフルーティーな香りも潜み、味わいにはキャラメルやバニラ、さらには焦がした樽の力強いニュアンスがある。スパイシーさはライ麦由来と熟成樽由来の両者がミックスされた感覚といえるのではなかろうか。
そのため「タラモアデュー」のトディーとはまったく異なるパンチの効いた味わいとなる。またアメリカではスピリッツを多めに使うのが主流のようで、ベースの味わいが強くでるレシピとなる。
副材料は少量のレモンジュース、ブラウンシュガー(ザラメ)、クローブとシンプルだが、「ジムビームライ」のスパイシーさにクローブがアクセントを加えながらも、レモンジュースのフルーティーさがしなやかさをもたらす。そしてブラウンシュガーがいい役まわりを演じる。
飲むときにはマドラーを用意しておいていただきたい。ブラウンシュガーは溶けにくい。飲みながら甘みがもうちょっと欲しいと感じたなら、マドラーでかき混ぜてシュガーを溶かして味わいを調整するといい。飲む人の好みの甘さに仕上げていけばいい。
ライウイスキーの風味が心地よくそよぎ、ウイスキーのアルコール感もしっかりと感じられるトディーである。
穏やかで柔らかいハチミツレモン味の「タラモアデュー」ベースもよし。スパイシーなパンチの効いた「ジムビームライ」ベースもよし。
スコッチウイスキーなら、スモーキーさのある「ティーチャーズ」、複雑でまろやかな味わいの「バランタイン・ファイネスト」などを試していただきたい。「ホット・ウイスキー・トディー」の香味の振り幅は大きい。自分が最もやすらぎを覚える味わいを見つけることだ。