Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

「プリンストン・カクテル」Recipe 2 Princeton Cocktail

ビーフィータージン
47度
45ml
オレンジビターズ 2dashes
サンデマン
ルビーポート
25ml
ステア/カクテルグラス
ジンとビターズをステアして、グラスに注ぐ。次にポートワインをグラスの内側に沿って静かに沈み込むように注ぐ。最後にオレンジピールをツイストして、カクテルに入れる

物理・数学分野での名門

IVYリーグのスクール・カクテル・シリーズにおいて、最もユニークで楽しく味わえる一杯をご紹介しよう。前々回エッセイでは「ハーバード・クーラー」、前回は「ハーバード・カクテル」と「ブラウン・カクテル」について語ってきたが、IVYリーグに関連するカクテルは今回を最後にしたい。

ご紹介するのはプリンストン大学の同窓会カクテル。レシピをお伝えする前にこの大学について触れておこう。

プリンストン大学は1746年創立。大学本部はニュージャージー州プリンストンにある。地理的にはニューヨークから南西約80km、フィラデルフィアから北東約70kmの距離に位置しているらしい。

アメリカの大学としては4番目に古い歴史を誇っているだけでなく、全米の大学ランキングにおいては毎年のようにトップの座に君臨している。長く男子校で、男女共学になったのは1969年のようだ。

70人近いノーベル賞受賞者を輩出しており、とくに物理・数学分野では世界のリーダー的存在といえよう。その分野だけでノーベル賞受賞者が28人を数える。気候変動研究の第一人者で、2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士(現アメリカ国籍)はプリンストン大学上席研究員である。

ただし、同じIVYリーグ、ハーバード大学のノーベル賞受賞者は160人という驚異的な数字であることも付け加えておく。

と、ここまで述べて、まったく縁のない、スーパーエリートの世界に触れている自分が滑稽に思えてきた。それでも映画でプリンストン大学の香りを感じることはできる。

2001年12月にアメリカで公開された映画『ビューティフル・マインド』(日本公開2002年3月)は、実在の天才数学者でノーベル経済学賞(1994)受賞者ジョン・ナッシュ(1928-2015)の半生を元にしたものだ。

オープニングは1947年、ナッシュがプリンストン大学院の数学科に入学したときの学内交流パーティーが舞台だった記憶がある。

天才ゆえの苦悩と研究に没頭し過ぎたせいなのか、やがて統合失調症に苦しむことにもなるのだが、映画は献身的につくす妻アリシアとのラブストーリーとして描かれてもいる。

そしてストーリーには3大学が登場する。ナッシュがプリンストンからマサチューセッツ工科大学の研究職に就き、ハーバード大学での講演、そして再びプリンストンへと戻る。とくにプリンストンのキャンパスの情景は、まさに学究の集う知的な香りがある。

興味のある方は是非映画をご覧いただきたい。またハーバード大学が登場する映画でわたしの印象に残っているのは、かなり古い作品になってしまうが、『ある愛の歌』(1970年/日本公開1971)である。

ジンとポートワインのツートーン

さて、「プリンストン・カクテル」。こちらも前回紹介した「ハーバード・カクテル」同様、1895年頃にニューヨーク五番街にあったホランド・ハウスというホテルのバーテンダー、ジョージ・ケッペラーが、大学のOBたちのために創作したとされている。

最初にユニークと表現したのは、まず見た目にある。ツートーン・カラーなのだ。それはつくり方にある。

材料はジン、ポートワイン、オレンジビターズ。まずはミキシンググラスでジン&ビターズをつくり、カクテルグラスに注ぐ。次にポートワインをグラスの内面に沿って静かに滑りこませていく。するとポートワインが沈み込んで赤く染まり、上部にジン&ビターズの透明感が残るという、とても面白みのあるスタイリングになる。

最後にオレンジピールをツイストし、グラスに入れる。

ケッペラーはオールドトム・ジン(加糖されたジン)で創作している。今回は、ロンドンドライジンの「ビーフィータージン」を使った。そしてグラスに沈めるポートワインは「サンデマン ルビー ポート」を選んだ。

ポートワインは発酵途中にアルコール度数の高いブランデーを添加するフォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)である。黒マントのシルエットのトレードマークで知られるサンデマン社は200年以上の歴史を持ち、ポートワインの雄ともいえ、世界的な人気を誇っている。

とくに「サンデマン ルビー ポート」はイギリス王室御用達であるとともにポートワインのNo.1ブランドである。エレガントな香りがあり、ベリー系の果実味にチョコレートやナッツの感覚も潜んだ豊潤な甘口タイプで、最高のデザートワインだ。

味わうと、ひと口目はジンのすっきりとしたドライな感覚が口中に滑り込んでくる。オレンジピールの香りも爽やかだ。ふた口目からは次第にポートワインのニュアンスが強くなっていく。ジンがポートワインの甘さを引き立てているように感じた。

かつてのオールドトムジンを使ったならば、もう少し甘く柔らかい味わいになるのかもしれない。

正直にいえば、“ああ、美味しい”と誰もが実感する味わいではない。しかしながらクセになるというか、夜遅くの締めとして、しっかりとしたアルコール感とコクを求めているときにゆったりと味わうにはふさわしいのではなかろうか。また友人とじっくりと語りあうときにも合うような気がする。

ツートーンのユニークさとともに味わいにも面白みがある、不思議なカクテルといえよう。行きつけの店で、秋の夜長に試してみてはいかがだろう。

ところで、ジョン・ナッシュは飲んだのだろうか。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ビーフィーター ジン
ビーフィーター ジン

サンデマン ルビー ポート
サンデマン ルビー ポート

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